令嬢は呪術師 〜愛しき名に精霊は宿る〜
22.第一章 デジャンタン術式学院㉒
舎監の生徒のあとについて、メリチェルは寄宿舎の廊下を進んだ。階段を上がる前にふりかえると、ミラが数人の生徒とひそひそ話をしている様子が目に入った。
内容は聞こえなくとも、彼女たちの表情で悪口を言っているのがよくわかる。きっと寄宿舎に割り込もうとしたえらそうな貴族令嬢の悪口だろう。
「貴族令嬢」というものは、一般社会ではよく嫌われる。最初から与えられるだけ与えられていて、贅沢し放題でずるいと思われるのだろう。マヨルにだって最初はきらわれまくっていたのだから、こんなことはいちいち気にしない。
(あら?)
メリチェルは悪口の輪から少し離れて、ミラたちを見ている生徒に気づいた。
(マヨルを突き飛ばした人だわ)
マヨルに意地悪をした地味な女生徒は、悪口の輪に入ろうとしなかった。かくれるように柱の陰からミラたちを見つめている。
その様子が思いつめたように真剣なので、メリチェルは不気味に思った。
(そんなにわたしの悪口が気になるなら、悪口の輪に入ればいいのに)
寄宿舎には、外からはうかがい知れない人間模様があるようだ。
マヨルが人前では行動を別にしたほうがいいと言ったのは、この雰囲気に理由がありそうな気がした。
この学院は術式の実力で身分の決まる、小さな階級社会らしい。貴族の自分や異人種のマヨルのような異分子が目立ったら、こんなふうに悪口を言われるのだろう。
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