令嬢は呪術師 〜愛しき名に精霊は宿る〜

サカエ

14.第一章 デジャンタン術式学院⑭

 
 学院の図書室。

 高い尖頭アーチ窓から、黄昏色の庭園とぽつぽつ灯りはじめた外灯が見える。天井まで届くつくりつけの書架には梯子がない。上段の本はどうやって取るのだろうと、術者でなければ疑問に思うに違いない。つまりこの学院は、本を取る程度の術式もつかえない人間は来る資格なし。入学お断りということだ。

「一ヶ月後までに、水を操る術式を身につけなくてはいけないの。そうしないと、入学できずにソルテヴィルに帰るはめになるの」
「帰ればいいだろ。ここはお嬢様の来るところじゃないんだよ。術式で成り上がりたいやつらが来る場所なんだ。術者なら王都で出世街道に乗って、高給取りになれるからな。実力があれば王立術士団に入るのも夢じゃない」

 ロギは頭上はるか上の書架から本をひょいひょいっと引き抜き――もちろん手を使わず術式で――降ってきた数冊をリズムよく次々とらえ、大机の隅に置いた。

「あなたも王立術士団に入りたいの?」
「術者として上を目指すなら、一度は在籍したいだろ。王立術士団出身なら箔がつく」
「箔なんかつけてどうするの?」
「どうするのって……。貴族のお嬢様には、平民が地位を求める気持ちなんかわからんだろうな。とにかく俺は、王立術士団入団試験のためにここに来たんだ。古い文献を研究するために、歴史の古いこの学院にわざわざ足を運んだ。来年の試験までに、古代の呪術を体得したい。邪魔しないでくれ」
「王立術士団の入団試験と古代の呪術と、なんの関係があるの?」
「王立術士団の術士には、ただの優等生の術者じゃなれないんだ。術者の頂点だからな。なんでもできる術者であることに加えて、自分ならではの売りが要る」
「ふ〜ん。それであなたは、今どきの術式使いであると同時に古代の呪術もいけますよーって売りを得るために、ここで呪術の古い本を研究すると。そういうわけね」
「そういうわけだから、邪魔するな」
 ロギはいらいらした様子で本を開いた。

「ねえ――」

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