令嬢は呪術師 〜愛しき名に精霊は宿る〜

サカエ

13.第一章 デジャンタン術式学院⑬


「わたしメリチェルっていうの。メリチェル・ヴェンヌ・ソシュレスタ」
「へー」
「あなたのお名前は?」
「なんで名乗らなきゃならないんだ」
「こちらが名乗ったのに名乗らないなんて!」
「『呪術師』は軽々しく名乗らないもんだ。名は身を縛るからな」

 メリチェルは思わず足を止めた。

「あなた『呪術師』なの? 術者ではなく?」
「術者だ。なりたいだけさ、古代の『呪術師』に。急ぐんで、じゃあな」

 青年はうるさそうに眉をしかめ、足を早めてメリチェルから遠ざかろうとする。メリチェルは小走りになってちょこまかと彼を追った。
「ねえ、ねえ、聞いて。わたしね……」
「お嬢様のご遊学につきあってる暇はないんだが」
「わたしレオニード先生に『君は術者ではなく、昔ながらの呪術師だ』って言われたの!」

 青年は足を止めた。
「レオニード先生って誰だ?」
 メリチェルは気取ったしぐさで前髪をかきあげて見せた。レオニードの真似である。
「ああ、あの気障野郎か……」
「先生に会ったなら、お名前をきいたんじゃなくて?」
「人の名前を覚えるのは苦手なんだ」
「顔を覚えるのも苦手でしょ。さて、わたしの名前はなあに?」
「メ……メ……」
「メリチェル・ヴェンヌ・ソシュレスタよ。あなたのお名前は?」

「……ロギ」

 この娘の人なつっこさには敵わないとでも言うように、黒髪の青年は短く名乗った。


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