令嬢は呪術師 〜愛しき名に精霊は宿る〜
12.第一章 デジャンタン術式学院⑫
にらみつけた視線の先に、自分とおなじ赤マントをはおった人物がいる。
メリチェルにとって大変意外な人物だ。
「旅のお方ー!」
体格のいい黒髪の青年が、メリチェルの声に気付いて顔をあげた。穴にはまった車輪を戻してくれた、あの熟練の術者である。
「先刻はありがとうございました。あなたもこの学院に入学するのですか? でもおかしいわ、わたしはヘタっぴだから赤マントですけど、あなたはすばらしい術者でしょう? なのにどうして『仮入学』の身分なのかしら? 編成試験に失敗なさったの?」
早口で質問するメリチェルに、黒髪の青年は訝しげな目を向けた。
「……なんの話だ」
「赤マントの話よ」
「君は誰だ?」
「覚えてないの?」
「……いつどこで会った?」
「三時間ほど前に、カロア川のそばで会ったわ。あなた、ちょっとお口の中を見せて」
「は?」
「お口がもごもご動いてる。飴をめしあがってるんじゃなくて?」
「あ」
青年はやっと思い出した様子で、目を見開いた。
「あのときの令嬢か。結構な馬車に乗ってたじゃないか。貴族か、金持ちの商家のお嬢さんだろう? そんなお嬢さんがなぜこんなところに来るんだ」
「術式の勉強のため。それより、なぜあなたほどの使い手が赤マントなの?」
「生徒じゃないからな。俺は調べ物をするためにこの学院に来ただけだ。このマントは学院施設の利用許可を得た外部者が着用するものだときいたが」
「えっ、そうなの? 正式入学する前の仮入学者が着るものだと思ってたわ……」
「ああ、君は実力不足で入学許可が下りなかったのか」
痛いところをまっすぐ突かれて、メリチェルはうっと言葉に詰まった。
「まあがんばるんだな」
興味なさそうにさっさと通り過ぎようとする彼を、メリチェルは追いかけた。
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