令嬢は呪術師 〜愛しき名に精霊は宿る〜
11.第一章 デジャンタン術式学院⑪
きちんとした制服ではなく、旅行用ドレスの上に短い赤マントをはおる姿は、見るからに「仮入学者」だった。
主幹教諭室を出たメリチェルは、気落ちしてとぼとぼと外廊下を歩いていた。二階なので眼下に石畳の中庭が望める。
ひと気のない殺風景なその庭を、黒髪に白い制服の少女が足早に横切るのが見えた。
「マヨ……」
石の手摺から身を乗り出しマヨルを呼ぼうとして、声を引っ込める。紺色の制服を着た女生徒がマヨルの前方からやってきて、「ちょっと」と言って彼女を引きとめたからだ。
(お友達かしら?)
それにしては声音が冷たいと思った次の瞬間、女生徒が見ていてあっけにとられるようなことをした。マヨルの肩をおもいきり突き飛ばしてよろめかせ、マヨルが手にしていた本を落とすと、今度はその本を遠くに蹴り飛ばして拾えなくしたのである。
マヨルは女生徒に顔を向けたのち、文句を言うでもなく、おとなしく蹴り飛ばされた本を拾いに行った。
女生徒は唇を引き結んで、そんなマヨルの後ろ姿を見て、立ち尽くしている。
(な……! なんなの、あの人は!)
おとなしそうな女生徒で、メリチェルの目には意地悪をしておもしろがるような人物には見えなかった。おもしろがるどころか、彼女はなぜこんなことをやってしまったのだろうとでも言いそうな顔で、マヨルを突き飛ばした自分の右手を見ている。
メリチェルは二階から女生徒を呼び止めようと思ったが、授業をしているクラスが多いので大声を出すのははばかられた。
外廊下から中庭に降りる階段は遠い位置にあった。庭に出るまでに時間がかかってしまい、メリチェルが中庭に降りたときにはもう、女生徒の姿もマヨルの姿もなかった。
(マヨル……)
マヨルが意地悪をされるのを見るのは、はじめてではない。
マヨルははっきりと異人種の容貌をしているから、差別的な扱いを受けることが少なくないのだ。メリチェルは女生徒の顔をしっかり記憶に刻みつけた。印象の薄い地味な容姿だったが、人の顔を覚えるのは得意なのである。
今にこらしめてやろうっと!と物騒な決意を胸に、メリチェルは校舎の出入り口をにらみつけた。
(あらっ?)
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