異世界に召喚されました。
5
◯
この世界は、魔軍と聖神教で争っている。
魔軍のトップが魔王で、聖神教のトップは女神(ということになっている)。
それで、女神は魔軍に対抗するために、六人の使徒を選んだ。
その内の一人が俺――勇者で、残りの五人は五天人と呼ばれていて、その中の一人がエルノだ。
あの悪魔が言っていた四帝魔っていうのは、魔王の側近で、四人しかいないけどめっちゃ強いらしい。
――以上!!
◯
怪我もほとんどなく、気を失ってただけの爺さんとメイド二人はすぐに復活して、俺に色々説明してくれた。
「なるほど、何ともテンプレ設定ですな」
「何を言っているのですかあなたは……」
現在俺は至る所が破壊された神聖巨大広間にて、神聖爺さんと向かい合っていた。
俺の後ろにはアリアがいて、俺はあぐらをかいて座ってる訳だけど、何故かそこにすっぽりとエルノが収まっていた。
もう一人のメイドさんはどこかに行った。
エルノのサラッサラのブロンドの髪が目の前にあった。あ、つむじ発見。
「理解していただけたかの、勇者殿」
「あぁはい、よくある設定なんで」
「設定……?」
悪魔を追っ払ったことと、聖剣を持ってたことで、俺は勇者として認められた。
でもあの悪魔を呼び寄せたのは俺のビームが原因っぽいので、何だかなぁっと思う。こういうのをマッチポンプって言うのかな。
「そこで勇者殿に改めてお願いしたいのじゃ。魔軍と戦うために、チカラを貸してくれんかの」
「ええ、いいっすよ」
二つ返事で答えると、神聖爺さんは目を丸くした。
「よいのか?」
「だってここで断ってもどうせ巻き込まれることになるし」
「……よ、よく分からんが、承諾してくれるなら何よりじゃ。
そこで勇者殿に話したいのが、五天人のことでの」
「エルノがそうなんですよね」
「そうじゃ」
皆の視線が、俺の股に収まっているエルノに集中した。
エルノは、輪ゴム遊びに夢中になっている。
「……?」
エルノはその視線に気付くと、不思議そうに首を捻った。
「あの、すみませんセイール様。一つ口を挟んでよろしいですか?」
ピッとアリアが手を挙げる。
「申してみよ」
「私は、この男が勇者というのがどうにも納得できません」
「何故じゃ?」
「だって、こんな男なんですよっ?」
どういう意味だそれは。
「エルノ様に密着されて、デレデレと鼻の下を伸ばしている顔なんてもうっ、気持ち悪くて犯罪の臭いしかしませんっ!」
「ち、違うわ! ばっかお前これはだな、あれだよ、娘を見守る父親の気持ちだよ。父性ってやつだよ!」
「エルノ、スズキ好きだよ」
「あぁもうっ、エルノたんは可愛いなぁっ」
思わずエルノをギュッと抱きしめかけたが、殺気を放つアリアの視線に負けて腕を引く。
「……エルノ様、このような男に、その、き、き、キスをしたというのは、本当なのですか?」
エルノは不思議そうに首を捻って、またさっきみたいに俺の頰に唇を当てた。
「いゃぁぁぁあああっ!」
何だその悲鳴は。
断末魔かよ。
「え、エルノ様、今すぐその男から離れてください!」
「やだ」
「エルノさまぁ……っ! あぁ、あんなに可愛いエルノ様がぁ……っ、」
「ふむ……」
神聖爺さんが考え込むように顎に手を当てていた。
「エルノ様、先程も勇者殿にそのようになされたので?」
「……? うん、そう」
「なるほど……」
「あのー、ずっと気になってんですけど。エルノ……五天人と俺、勇者のことについてもっと詳しく教えてくれません?」
「おお、そうじゃったな。
女神様の使徒、一人の勇者と五人の天人は、合わせて六光と呼ばれており、五天人の中心に勇者を位置づけるのじゃ」
「ほうほう」
そして魔王を倒すには、この六人を揃える必要があるらしい。
六人が揃った時、勇者の元には“真”の聖剣が現れて、大いなる力となる。
でも、ただ揃えるだけじゃいけない。
勇者と五天人の間には、神情(かんじょう)と呼ばれる強い感情の結び付きが必要となる。
「神情(かんじょう)に属される人々の想いは、主に六つじゃ。
喜(よろこび)、勇(いさみ)、誠(まこと)、慕(したい)、愉(たのしみ)。そしてそれらの主となる愛(いとしみ)じゃ」
「つまりエルノが俺にちゅーしたのは?」
「愛の象徴じゃからじゃな」
それはそれは、なんともまぁ。
「異界から呼び寄せられる勇者とは違い。天人はこの世界のどこかに必ず五人いる。
“護” “戦” “癒” “助” “信” の五天。
現在見つかっておるのは、“護”、“癒”、“戦”の三人じゃ」
確かエルノは“護”って言ってたよな。
「あと二人探さんとダメなのか。見分け方ってのは何なんすか?」
「気持ちが高ぶった時、体のどこかに神聖なる六芒星が現れるのじゃ。エルノ様、お願いできますかの」
「……わかった」
すると、ピカッとエルノから光が漏れた。
エルノ顔を覗き込むと、その額に、小さな光の六芒星が刻まれていた。
「おぉ……っ」
それカッコいいぞ。
スッと六芒星は、消えて無くなった。
「これが天人の証拠となる。
そこでいきなりなのじゃが、勇者――ユウ殿には、旅に出てもらいたい」
「展開早いっすね」
「魔軍に勇者の存在が持ち帰られたとなると、もう悠長にはしていられん」
「ごめんなさい」
「仕方ない。どの道勇者の存在を隠し切ることは不可能に近かったからの。
勇者殿には、天人とあい成す神情を強めてもらわねばならぬ。同時に、まだ見つかっていない二人の天人も探してもらいたい」
「あ、分かった! 今から俺はエルノと一緒に仲良くなりながら旅をして、他の天人に会いに行くってことっすね!」
「そ、その通りじゃ、よく分かったの……」
察しがいいとはよく言われます。空気読めないともかなり言われるけど。
「エルノ様、ようやくこの時が来ました。勇者殿と共に、魔王を倒すために、天人たちを集わせねばなりません」
エルノはまた輪ゴムに夢中になりながら、話半分にふんふんと頷いていた。
爺さんはそれを見て、苦笑いしている。
「でも、エルノ。外が怖いとか言ってたよな、本当に大丈夫なのか?」
エルノのつむじに向かって言うと、彼女はくるっと振り返って俺を見た。
「スズキと一緒なら大丈夫」
「よしじゃあ行こう。今すぐ行こう二人きりで」
「ふむ、問題ないようじゃの。では、今から旅の用意と、他二人の天人が住む位置を記した地図を」
「ちょっと待ってください!」
ズイとアリアが割り込んで来た。
「いけませんセイール様! 問題がないはずありません。
こんな変態男とエルノ様を二人で旅に出すなんて……っ」
「ちょっと待って、変態と言われるようなことした覚えないんだけど」
「あなたは黙っていてください!」
「……なぁエルノ、あのお姉ちゃん怖くね?」
「でもエルノ、アリアも好きだよ」
「エルノ様っ!」
感動で泣きそうな表情になるアリア。そんなに嬉しかったのか。
「俺もアリアのこと嫌いじゃないぜ!」
「次同じこと言ったら殴りますよ」
なんでこいつ俺にそんな当たりキツイの?
「そうじゃのー」
難しいものを考えるような顔で、神聖爺さんはずっと唸っていたが、ついに結論を出したらしい。
「ならば、アリアも勇者殿とエルノ様に着いて行ってくれぬか。よくよく思えば、身の回りの世話を出来る者がおった方がよかろう。アリアであれば、自衛も護衛も可能じゃ」
「え、この男と日を共にしろと言うことですか?」
「なにも無理にとは言わぬが……」
アリアが俺を見て嫌そうな顔になる。
「一体どうしたいんだよお前は。別にいいよ、俺はエルノたんと二人で行くから」
「そんな羨ましいことっ、」
「羨ましい?」
「――そんな危ない状況見過ごせません、私も行きます!」
「お前も人のこと言えないよな」
この世界は、魔軍と聖神教で争っている。
魔軍のトップが魔王で、聖神教のトップは女神(ということになっている)。
それで、女神は魔軍に対抗するために、六人の使徒を選んだ。
その内の一人が俺――勇者で、残りの五人は五天人と呼ばれていて、その中の一人がエルノだ。
あの悪魔が言っていた四帝魔っていうのは、魔王の側近で、四人しかいないけどめっちゃ強いらしい。
――以上!!
◯
怪我もほとんどなく、気を失ってただけの爺さんとメイド二人はすぐに復活して、俺に色々説明してくれた。
「なるほど、何ともテンプレ設定ですな」
「何を言っているのですかあなたは……」
現在俺は至る所が破壊された神聖巨大広間にて、神聖爺さんと向かい合っていた。
俺の後ろにはアリアがいて、俺はあぐらをかいて座ってる訳だけど、何故かそこにすっぽりとエルノが収まっていた。
もう一人のメイドさんはどこかに行った。
エルノのサラッサラのブロンドの髪が目の前にあった。あ、つむじ発見。
「理解していただけたかの、勇者殿」
「あぁはい、よくある設定なんで」
「設定……?」
悪魔を追っ払ったことと、聖剣を持ってたことで、俺は勇者として認められた。
でもあの悪魔を呼び寄せたのは俺のビームが原因っぽいので、何だかなぁっと思う。こういうのをマッチポンプって言うのかな。
「そこで勇者殿に改めてお願いしたいのじゃ。魔軍と戦うために、チカラを貸してくれんかの」
「ええ、いいっすよ」
二つ返事で答えると、神聖爺さんは目を丸くした。
「よいのか?」
「だってここで断ってもどうせ巻き込まれることになるし」
「……よ、よく分からんが、承諾してくれるなら何よりじゃ。
そこで勇者殿に話したいのが、五天人のことでの」
「エルノがそうなんですよね」
「そうじゃ」
皆の視線が、俺の股に収まっているエルノに集中した。
エルノは、輪ゴム遊びに夢中になっている。
「……?」
エルノはその視線に気付くと、不思議そうに首を捻った。
「あの、すみませんセイール様。一つ口を挟んでよろしいですか?」
ピッとアリアが手を挙げる。
「申してみよ」
「私は、この男が勇者というのがどうにも納得できません」
「何故じゃ?」
「だって、こんな男なんですよっ?」
どういう意味だそれは。
「エルノ様に密着されて、デレデレと鼻の下を伸ばしている顔なんてもうっ、気持ち悪くて犯罪の臭いしかしませんっ!」
「ち、違うわ! ばっかお前これはだな、あれだよ、娘を見守る父親の気持ちだよ。父性ってやつだよ!」
「エルノ、スズキ好きだよ」
「あぁもうっ、エルノたんは可愛いなぁっ」
思わずエルノをギュッと抱きしめかけたが、殺気を放つアリアの視線に負けて腕を引く。
「……エルノ様、このような男に、その、き、き、キスをしたというのは、本当なのですか?」
エルノは不思議そうに首を捻って、またさっきみたいに俺の頰に唇を当てた。
「いゃぁぁぁあああっ!」
何だその悲鳴は。
断末魔かよ。
「え、エルノ様、今すぐその男から離れてください!」
「やだ」
「エルノさまぁ……っ! あぁ、あんなに可愛いエルノ様がぁ……っ、」
「ふむ……」
神聖爺さんが考え込むように顎に手を当てていた。
「エルノ様、先程も勇者殿にそのようになされたので?」
「……? うん、そう」
「なるほど……」
「あのー、ずっと気になってんですけど。エルノ……五天人と俺、勇者のことについてもっと詳しく教えてくれません?」
「おお、そうじゃったな。
女神様の使徒、一人の勇者と五人の天人は、合わせて六光と呼ばれており、五天人の中心に勇者を位置づけるのじゃ」
「ほうほう」
そして魔王を倒すには、この六人を揃える必要があるらしい。
六人が揃った時、勇者の元には“真”の聖剣が現れて、大いなる力となる。
でも、ただ揃えるだけじゃいけない。
勇者と五天人の間には、神情(かんじょう)と呼ばれる強い感情の結び付きが必要となる。
「神情(かんじょう)に属される人々の想いは、主に六つじゃ。
喜(よろこび)、勇(いさみ)、誠(まこと)、慕(したい)、愉(たのしみ)。そしてそれらの主となる愛(いとしみ)じゃ」
「つまりエルノが俺にちゅーしたのは?」
「愛の象徴じゃからじゃな」
それはそれは、なんともまぁ。
「異界から呼び寄せられる勇者とは違い。天人はこの世界のどこかに必ず五人いる。
“護” “戦” “癒” “助” “信” の五天。
現在見つかっておるのは、“護”、“癒”、“戦”の三人じゃ」
確かエルノは“護”って言ってたよな。
「あと二人探さんとダメなのか。見分け方ってのは何なんすか?」
「気持ちが高ぶった時、体のどこかに神聖なる六芒星が現れるのじゃ。エルノ様、お願いできますかの」
「……わかった」
すると、ピカッとエルノから光が漏れた。
エルノ顔を覗き込むと、その額に、小さな光の六芒星が刻まれていた。
「おぉ……っ」
それカッコいいぞ。
スッと六芒星は、消えて無くなった。
「これが天人の証拠となる。
そこでいきなりなのじゃが、勇者――ユウ殿には、旅に出てもらいたい」
「展開早いっすね」
「魔軍に勇者の存在が持ち帰られたとなると、もう悠長にはしていられん」
「ごめんなさい」
「仕方ない。どの道勇者の存在を隠し切ることは不可能に近かったからの。
勇者殿には、天人とあい成す神情を強めてもらわねばならぬ。同時に、まだ見つかっていない二人の天人も探してもらいたい」
「あ、分かった! 今から俺はエルノと一緒に仲良くなりながら旅をして、他の天人に会いに行くってことっすね!」
「そ、その通りじゃ、よく分かったの……」
察しがいいとはよく言われます。空気読めないともかなり言われるけど。
「エルノ様、ようやくこの時が来ました。勇者殿と共に、魔王を倒すために、天人たちを集わせねばなりません」
エルノはまた輪ゴムに夢中になりながら、話半分にふんふんと頷いていた。
爺さんはそれを見て、苦笑いしている。
「でも、エルノ。外が怖いとか言ってたよな、本当に大丈夫なのか?」
エルノのつむじに向かって言うと、彼女はくるっと振り返って俺を見た。
「スズキと一緒なら大丈夫」
「よしじゃあ行こう。今すぐ行こう二人きりで」
「ふむ、問題ないようじゃの。では、今から旅の用意と、他二人の天人が住む位置を記した地図を」
「ちょっと待ってください!」
ズイとアリアが割り込んで来た。
「いけませんセイール様! 問題がないはずありません。
こんな変態男とエルノ様を二人で旅に出すなんて……っ」
「ちょっと待って、変態と言われるようなことした覚えないんだけど」
「あなたは黙っていてください!」
「……なぁエルノ、あのお姉ちゃん怖くね?」
「でもエルノ、アリアも好きだよ」
「エルノ様っ!」
感動で泣きそうな表情になるアリア。そんなに嬉しかったのか。
「俺もアリアのこと嫌いじゃないぜ!」
「次同じこと言ったら殴りますよ」
なんでこいつ俺にそんな当たりキツイの?
「そうじゃのー」
難しいものを考えるような顔で、神聖爺さんはずっと唸っていたが、ついに結論を出したらしい。
「ならば、アリアも勇者殿とエルノ様に着いて行ってくれぬか。よくよく思えば、身の回りの世話を出来る者がおった方がよかろう。アリアであれば、自衛も護衛も可能じゃ」
「え、この男と日を共にしろと言うことですか?」
「なにも無理にとは言わぬが……」
アリアが俺を見て嫌そうな顔になる。
「一体どうしたいんだよお前は。別にいいよ、俺はエルノたんと二人で行くから」
「そんな羨ましいことっ、」
「羨ましい?」
「――そんな危ない状況見過ごせません、私も行きます!」
「お前も人のこと言えないよな」
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