異世界に召喚されました。
4
悪魔はグリンと首を回すと、ニタリと笑って俺たちを見た。めっちゃ歯きれい。クリニカしてるのかな。
「よー、ニンゲン共、ちょっと聞いたんだけどよ。今日この街で勇者を召喚したんだって?」
神聖爺さんは厳しい顔を、メイド二人は恐怖に染まった顔を浮かべていた。
「てことで、『クリッド』を強く感じる方に来たんだけどよ。お前ら、その勇者の場所知らねぇか? ……なんだお前は」
密かにビームで拘束を外していた俺は、ピンと手を挙げた。
悪魔が怪訝そうに俺を見る。
「俺が勇者だ」
「はぁー? お前からはクリッドを微塵も感じねぇ。もしこのオレにウソ言ってんなら殺すぞ」
「なら証拠を見せてやろう」
ポカンとしている爺さんメイド二人を置いて、俺と悪魔は真っ向から対峙した。
「ふっ、貴様もここで俺に会うとは、不運だったな」
俺は銃の形を作った手を、悪魔に向ける。
「主人公のチカラ見せてやるよ」
「……なに?」
「喰らえ! セイクリッドビームっ!!」
「――――ッ!!」
「…………」
「………」
「……」
「…………あれ?」
おかしい、出ないぞ。
「悪魔を愚弄するとは中々の度胸だな。そこだけは褒めてやるよ、ニンゲン」
っべー、悪魔さんお怒りっすね。
ツカツカと歩み寄って来た悪魔が、俺の胸倉を掴みあげる。
ていうか悪魔を愚弄とか言われても、この世界の設定知らないからそんなこと言われても困るんだけど。
「やめるのじゃ!」
神聖爺さんが必死の声を上げる。
……あれ? これって中々にやばい状況じゃね。
急に焦ってきた。おかしい、俺にはチートがあるはずなのに!
「待って待って待って! 一回落ち着いて話そう! 人類は論争で決着をつけることのできる生き物なんだ!」
「オレは悪魔だ」
「そうだったーっ!!」
絶対絶命!
無駄に長くて綺麗な悪魔の爪が俺の首に伸びる。
やめてーっ!
「……スズキ?」
不意に聞こえるソプラノボイス。
見ると、扉の陰からエルノが顔を出していた。
「……お?」
エルノを見る悪魔の表情が変わった。
「もしかしてアレが勇者か?」
悪魔はグリンと首を回して、神聖爺さんとメイド二人を見る。
彼らの表情が一気に青ざめた。
ニタリと悪魔が綺麗な歯をむき出しにする。間近で見ると眩しい。
「てめぇは用済みだ」
「うおっち!」
ぶん投げられて、俺は壁に激突した。
ガラガラと壁は崩れて、瓦礫に呑み込まれる。
瓦礫の隙間から、悪魔がエルノに歩み寄っているのが見えた。
「ほぉ、こんなのが勇者なのか。コレならオレでも殺れそうだな」
瞬間、悪魔が纏う雰囲気が変わった。
なんというか邪悪っぽいオーラが取り巻いている。何あれカッコいい。本気モード?
「……あなた、だれ?」
エルノが、よく分かっていない様子で首をかしげる。
「答える義理はねぇな」
「エルノ様っ!」
アリアともう一人のメイドさんが悪魔とエルノの方へ近付くが、悪魔が打ち出したオーラによって弾き飛ばされる。
「邪魔だよ」
「――聖なる光よ、我、天の下の地に」
「お前もウゼェ」
「ぬぁっ!」
げっ、神聖爺さんもやられた。
何が起こったか理解できない様子でエルノはポカンとそれを見ていたが、やがてハッとして、悪魔と爺さんたちを交互に見やる。
「さて、と。まさかこんなにあっさり行くとはな」
悪魔は黒いオーラを纏わせた右手を、エルノに振り下ろす。
「やっべぇ」
瓦礫から抜け出した俺は、何とかその間に割り込んだ。
「……っ!?」
それが予想外だったのか、悪魔は目を見開く。
が、攻撃の手は止まらない。
悪魔の手刀が俺の眼前に迫る。
その時、カッと白い光がその場に広がった。
白い光は膜のように俺とエルノを包んで、悪魔はその中に近づけないようだった。
「な、何だこれは……っ!」
信じられないという表情の悪魔。
ごめん、俺もよう分からん。
でも、ジッと悪魔を見ているエルノを中心に光が広がっているのを見ると、まぁ、多分そういうことなんだろう。つまりエルノたんが何かした。
「スズキ……」
「え、なに?」
エルノがクイクイと俺の裾を引っ張った。
「こいつ、悪いやつ」
悪魔にやられて気を失っている爺さんたちを見ながら、エルノが何やら喚いている悪魔を指差した。
「そうだな」
「でも、エルノは“護”の天人だから、やっつけられないの」
「ごめんちょっとなに言ってるか分かんない」
「スズキは勇者。エルノは天人」
エルノは俺と自分を交互に指差す。
「――勇者と五天。勇者と天人が互いがあい成す神情(かんじょう)は、やがて魔を討ち滅ぼす聖となり」
まるで、教科書に乗ってる文言をそのまま読み上げるような口調だった。
「……この言葉、覚えさせられた。よく意味がわからない」
俺はもっとよく分からないです。
「エルノ、スズキのこと好き。わごむくれたから」
エルノは手の平をあけて、俺にわごむを見せる。
「だから、ちゅーしてもいいよ」
淡々とそう言って、エルノは俺の襟元を思いっきり引っ張って、俺の頭の位置を下げた。そして、俺のほっぺにちゅっと唇を当てる。
「ん」
「あら」
瞬間、俺たちを覆う周囲の光が強まった。
さっきまでワーワーと喚いていた悪魔の悲鳴が聞こえる。
同時に、俺の中で何かの変化が起きた。
「……む?」
熱いものが身体を駆け巡って、俺の手から何かが飛び出した。
ビーム……ではなく、これは剣だ。
光の剣。
名付けるならライトソードっ! かっこいい!
「な……っ、テメェ、それは」
悪魔が驚きすぎて、顎外れそうになっていた。
「まさか、」
「そう、このソードの名前はライトソーっ――」
「……聖剣」
待ってエルノちゃん、訂正するにしても最後まで言わせて。
だがここで狼狽ては主人公が廃る。
「ふ、貴様も終わりだ。この聖剣は全ての魔を無へと還す」
俺は光の膜から外に出ると、光の剣(聖剣らしい)を思い切り振った。
「でぇぇいっ」
「うおっ!」
悪魔が必死の形相でバックステップした。
え、なに、そんなに危ないものなのこれ。
「テメェアブねぇな!」
「え、何かごめん」
謝りながらも、俺は剣を振り続けた。
いくら主人公といえど、剣なんて振るのは初めてなので、型も何もあったもんじゃない滅茶苦茶な動きだった。
でも悪魔がビビりまくっているので、割と圧倒してる。果たして俺がすごいのか、聖剣がすごいのか。
どう考えても聖剣が凄いだけですね、ええ。
「チッ」
舌打ちと共に、悪魔の手から黒い炎が飛び出してきた。
「……ダメ」
エルノの声がして、俺の正面に光の壁が現れる。黒炎は跡形もなく消えた。
「ふははははっ! 我ら二人の前に叶う者は無し、さぁ覚悟を決めろ!」
「……ったく、冗談じゃねぇぜ」
青汁を十杯くらい一気飲みしたような顔になって、悪魔は自分のツノに手を当てた。
「いいかよく聞けよ、『聖剣の勇者』。オレは元々偵察のつもりで来たんだ。『角(かく)』を使う覚悟もあった。残念だったな、お前の存在は魔軍に知れ渡る」
「お願いだから俺にわかるように喋って」
マジで切実。
「上級どころじゃねぇ、次のテメェの相手は、四帝魔クラスだ」
「…………え、あー、うん」
「ククク、驚き過ぎて言葉もないか。じゃあな」
すると、悪魔を中心に魔法陣っぽいものが渦巻き始める。
……はっ! しまった。今の会話の間に攻撃すればよかった。
俺がそれに気付いた時にはもう遅く、黒い闇に包まれた悪魔は、跡形もなく消え去っていた。
「…………あ」
今の会話からすると、逃げたんだろうなぁ……。
悪魔がいた場所には、アイツの頭に付いていたツノが残っていた。
何となくカッコ良く感じたので、そのツノを拾ってポケットに入れる。
「あの、何がどうなったのか分かります?」
エルノに訊くが、彼女はフルフルと首を横に振った。
「でも、あの悪い奴が最後に使ったのは、『完全転移魔術』、追いかけられないやつ」
要するにワープして逃げたのね。追跡も不可能と。
「でさ、何で俺にちゅーしたの?」
「勇者と会った時は、そうしろって言われてた。スズキならしてもいいって思った」
「ふむ……」
俺はエルノにキスされた頰を撫でる。ちょっとだけ熱かった。
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