外食業で異世界革命っ!

顔面ヒロシ

☆4 この世界の神様事情







 曰く、俺の転生した異世界・アムズ・テルには、神様が実在している。現在我が家が暮らしているアストラ王国には、霊体の神々を祀る神殿が数多くあり、そこで品物を捧げたり神託を授かったりしているのである。
 その神様は、子どもが満12歳になると、その子に適した加護を一つプレゼントしてくれる。


貴族に人気のある加護は武術適正か魔法適正であり、それは今後の将来に大きく影響してくるらしい。
……というような説明を受けて、俺は目を白黒させながらもおずおず手を挙げた。


「質問してもいい? この世界の神様って一体何人いるの?」
「……そんなことまで忘れてしまったんですか? エリストリアの神々は十神ですよ。肉体に縛られず、遥か天上から私たちをお見守りくださっているのです」


 あらあらと呟きながら、エイリスが笑って教えてくれる。
健忘症にかかった俺を心配するように、義母がため息をついた。


「明後日の神殿では変な質問は控えてちょうだいね。あんまり馬鹿なことを聞くと我が家の信仰心が疑われてしまうわ」
「……すみません」
 何も悪いことはしていないはずだが、口から自然に謝っていた。今の内に常識を確認しておかないと、取り繕った皮が剥げてしまうかもしれない。
なるべくすまなそうな顔をして、俺はいかにも勉強熱心な子どもを装った。


「人気のあるご加護が武術と魔法ってことは、不人気なご加護もあるってこと?」


「そうねえ……」
 眉をぴくりと動かした義母が、努めて冷静に言う。


「恐れ多いことだけど、食神様のご加護は余り貴族にはふさわしくないわね。やはり、料理って使用人のやる仕事だから……」
「平民の女の子には人気があるんですけど……」
 微妙そうな顔をしている二人に、俺は少しだけ嫌な予感がした。
もしも食神様のご加護に当たったら、死ぬまで貴族としてすごく肩身の狭い思いをすることになりそうである。


「しょ、食神様に気に入られないようにする方法はないの!?」
 前世から食いしん坊なことで定評のある俺が狼狽しながら叫ぶと、エイリスは笑って受け流す。


「よっぽどのことがない限り、そんなことにはなりませんよ」
「そうね。そもそも男子が授かるようなご加護ではないわ。心配しなくても、滅多なことがない限り大丈夫よ」
「……そ、そういうもの?」


 あれ、じゃあ大丈夫なのかな……。
気なしか既にロックオンされてるような寒気を感じるんだけど……。
しかしながら男子が食神のご加護を貰う確率はすごく低いと聞いて、若干胸をなで下ろした。


「貴族といったらやっぱり武神様か魔神様ですよね! もしもこの二つのどちらかに気に入られれば、将来は王宮に仕えて立身出世することも夢ではありません!
マケイン様もそういう夢はないんですか?」
「う、うん。まあ……」
 仕えるって、騎士団とかかな?
確かに、このまま貧乏生活をしているよりはよっぽど夢のある話である。高給取りになれれば、一家を養うこともできるのだから。
ここは否定せずに曖昧に濁しておいた方がいいだろう。


「もしもマケイン様が出世された暁には、私のことを忘れないでくれると嬉しいです」
 それなりに美人のエイリスがふんわりと微笑むと、義母が言う。


「あら、そこは迎えに来てもらう約束ぐらいしておきなさいよ」
「それもいいかもしれませんね」
 ……ぶう!?
残りを片付けようと飲んでいたスープを噴き出しそうになる。俺の顔がたちまち真っ赤になっていくと、誤解されたことに気付いたエイリスが慌てて言った。


「あ、もちろんメイド的な意味ですよ?」
「紛らわしいことを言うなよ!!」
 今の流れだとエイリスは俺に嫁に貰われたいのかと思ったじゃないか! 5歳差の姉さん女房なんて俺の世界じゃザラにある話なんだぞ! 金の草鞋を履いてでも探せってことわざがあるぐらいなんだからな!


「まあ、出世したら嫁探しくらい好きにすればいいと思うわよ。どうせ今のモスキーク家と婚姻を結びたいようなもの好きな貴族なんてそんなにいないんだから。私だって豪商の出なんだし」
 地味に悲しい現実をサラッと語った義母の言葉に、俺は不整脈に陥りそうになる。
ドキドキドキ……ハッキリ言おう。前世が年齢=童貞のオッサンだった俺にとって、エイリスは充分に魅力的だ。


 今までは姉のように思っていたけれど、身分が平民でも健康的な美人で、そのけしからん胸を持っていることといい十分素敵な物件に見えるのだ。
しかし、うっかり薔薇色の妄想の世界に旅立ちそうになった俺とは違って当のエイリスは困り顔だ。


「私はただのメイドで充分ですって。マケイン様のお相手だなんて、そんな差し出がましいことは夢にも思いません」


 義母は呑気に笑う。
「私は気に入っているのだけどねえ」
「そういうことは俺のいないところで話してください……っ」


 貴族ならこの歳で婚約者がいてもおかしくないだろうけど、かといってこんな赤裸々な会話を聞かされても色々なものがこみ上げるだけだからな!
前世からモテなかった俺には、こういう方面のスルースキルは鍛えられていないのだ。
冷静になれ、マケイン。むしろここで犬のようにがっついて、そんな約束していましたっけ? とか大人になった後で言われたら自殺したくなってしまうかもしれない。


 忘れてはダメだ。
俺は貧乏男爵家の子ども。こんな風が吹けば飛ばされてしまうような身分で調子に乗ったら絶対に散々な目にあうこと間違いなし……っ


 う……ううっ


「あの、マケイン様が血の涙を流しているのですが……」
 エイリスがこちらを見て、少し引いていた。







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