悪役令嬢のままでいなさい!

顔面ヒロシ

★間章――蛍御前



 日本列島内、某所の社にて、1人の神が居た。
山奥に住まいの大社を人知れず構え、地方の民話に語られる『彼女』は、江戸期より代替わりしてそこに棲んでいる。信仰はなくとも、神の能力を有してそこにひっそりと息づいていた。
 感じるのは、ただひたすらなる――平安なる倦怠な日々。
心やすらかなるは良き事なれど、仕事もなく過ごすのは、もううんざりしきっていた。


「……白蓮や、白蓮や!」
「なんでしょう、主様」


 己の神使に語り掛けるも、その中身は大したことではない。新聞の地方紙を広げ、正座をしたその神は、こう薄紅の唇を開いた。


「まだ甲子園は始まらないかのぉ……」
「主様、夏の甲子園は8月からなのね。本日のテレビ番組でしたら、踊るさ○ま御殿などはいかがなのね?」


「白蓮。それは夜の番組ではないか。妾にそれまで何をするともなしに待てと申すか?」
 ひどく機嫌の悪そうに、拗ねた口ぶりで神は言った。主に仕える神使のアヤカシは、その瞳を瞬かせる。


「では、トランプはどうなのね?」
「それはもう飽きた」


「……では、このゲーム機は」
「もう、そのソフトは遊びつくしたわ。ネトゲも、もう飽きた」
 その神の姿は、初めて見る者には10歳ほどの幼児に見えるだろう。長髪は人間ではありえぬ色彩……水色に輝き、その瞳は黄金色をしている。


 その神、蛍御前はすっかりふてくされた格好になる。
しばらく目を閉じた後に、(こうなったら、しばらく旅行でも行ってくるかの)と思考を始めた。


「主様~、やることないなら、ポケ○ンで通信対戦しましょ?」
――少々頭の悪いこの神使を社に置いて、いっそどこかに出かけてみようか。
 そろそろ、この停滞した日常に刺激が欲しい頃である。
そんな思い付きを胸に秘めながら、蛍御前はポツリと呟いた。




「……ああ、退屈じゃのう……」







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