毒手なので状態異常ポーション作る内職をしています
5-3
***
「……まさか、こんな場所でホーリーポーションが作れるようになるなんて」
あれから、三週間近くが経った。仲間達がここに来る気配は無い。
ここはウタの家で、彼女が言うには隠れ家らしい。
俺は調合をしていた。
大鍋に材料を入れ、煮詰める過程。
独特のニオイのする干した薬草を熱湯の中にいくつも投入する。
錬魂菜(れんこんさい)、ライトリーフ、天使の山草(やまくさ)――
これらの薬草は乾燥させるとどれも似たり寄ったりな見た目になるので、種類を間違えないよう細心の注意が要る。
山奥なので、ポーションを作るには足りない材料もあるが。
ホーリーポーションの材料がたまたま揃っていたので、うまいこと作ることができた。
このホーリーポーションを作るための材料、貴重とまではいかなくても中々手に入りづらいのが現状だ。
その上、自分の調合の腕前がまだ未熟なので、せっかく材料がそろってもめったに完成品を拝むことができなかった。
特にここのところはずっと失敗続きだったので、次々とホーリーポーションが出来ていくのには驚いた。
――まさか、四連続で成功するとは。
確率の神様も、ここまで面倒見は良くないだろう。
そう、確実に上達している。しかも、以前にも増してかなり。
成功した透明な液体の瓶。
冷却がてら棚に置いておく。
ふと、テーブルの上に置いておいた本に目が止まる。
調合中級者レベルの本。
この家には調合の本がたくさんあったので、暇さえあれば読んでいたのだ。
アイザックさんの研究所のように、最新のものが全てそろっているわけではなかったが、それでも十分すぎるくらいの量。
まるで、かつて誰かがここで調合の勉強でもしていたみたいだ。
ウタに聞くと、実際そうだった。
『むかしエルが使ってた本だね。
あと、この家のことはレイラ様も知らないみたい』
途中まで話してくれた、エルという人の話。あの続きはまだ聞き出せていない。
事故と言っていたが、無事だったのだろうか。
そのことを思いだしながら、本を取ろうとして、ふと隣にあるハードカバーの本に気付く。
調合の本らしいが、なんだか他のものとは雰囲気が違っていた。
タイトルは『新・魔法生物体論』。
手にとってパラパラめくると、挿絵と図の中間くらいのリアルさで描かれた、人間型の魔物の絵に目がいった。
その二足歩行の生物は、手足が奇妙にひょろ長い。
他の挿絵を見ると、にょろにょろしたものから猫に似たものまで様々あった。
……これは?
「ホムンクルス~」
「うわっ!」
いつのまにか部屋にいたウタが横から言ってきた。
「ほ、ほんくむす?」
「ホムンクルス。
調合を使って作れる魔法生物のことだね。ほら、アルケミスト系の職業でたまに、スライムとか変な鉄屑とかを使役してる冒険者がいるでしょ? 
ああゆうヤツね」
「ホムンクルス、ホムンクルス……
うーん、そんなの知らなかったな」
つまり、材料と方法が分かれば、ペットのような魔物を作れるということだろうか。
可愛い魔物が使役できるのなら、少しだけ試してみたい気もする。
「もっとも、作るには魔法の知識もけっこう要るみたい」
「なあんだ、じゃあ俺専門外だ」
「ウタも一応……」
「ん? 作ったことあるのか?」
「あるにはあるけど……」
なんだか口ごもった。
「うまくいかなくて」
***
夜になった。
台所の鍋と目の前の皿からは良い香りが漂ってきて、俺の鼻腔をふわりとくすぐっている。
「今日はシチューの仕上げに干したハーブを入れたの。
出来上がる時に手でパリパリってね。もういい匂い」
今日の夕食はウタの番だ。
食事は初めは全て彼女が作っていたが、さすがに任せっきりでは悪いので、交代交代で作ることになった。
あつあつの液体をスプーンですくい、やけどしないように気をつけながら自分の口まで運ぶ。
……うまい。
年下の女の子に美味しい手料理。男なら憧れの状況。
けれど、そういうのとは何か違うのだ。
誤解を恐れずに言うなら、なんだか、そう、お手伝いさんが作ったみたいな味。
手料理と言うよりは、完全に仕事としてこなしているような、そんな。
彼女の料理には何が足りないんだろうか。
***
「おやすみ~」
「ああ」
流石に寝るときは別の部屋だ。
山奥の仮住まいには勿体ないくらいの、ふかふかの布団が気持ちいい。
布団に体を潜らせると、すぐに眠気が襲ってくる。ああ。
一日を振り返る。
…………。
まずい。非常にまずい。
何がって、山奥で閉じ込められている状況に適応していること。
とは言え、別段ウタが危害を加えてくるわけでも無い。
彼女を倒してしまえば結界とやらが解けるのではとも思ったが、そういう大層なものが使えるということは、きっと相当の強さだろうから、そもそも無理だろう。彼女もそれをわかってこんな行動に出ている筈だ。
お互いに敵意は全く無いし、ここは大人しくしていた方が賢明だろう。
それに俺はあくまでも、ここにレイラを呼んでウタの“お願い”とやらを叶えてもらうためのエサらしい。
だから、その時が来てみるまで何も出来そうにない。いや、何もしなくて良い。
暇なのでポーションを作ったり、散歩ついでに外で採集をしたりして、ウタに麓の村で換金してもらってはいるが。
だけど、本当にこれで良いのか? 
不可抗力とはいえ、冒険とか昔の因縁とか、全部中断してうやむやにして、山奥でポーションを作って。
ここでの生活にも、ウタが当たり前のようにいることにも、すでに少しずつ慣れてきてしまっている。
これから一体どうなってしまうんだろう。
「……まさか、こんな場所でホーリーポーションが作れるようになるなんて」
あれから、三週間近くが経った。仲間達がここに来る気配は無い。
ここはウタの家で、彼女が言うには隠れ家らしい。
俺は調合をしていた。
大鍋に材料を入れ、煮詰める過程。
独特のニオイのする干した薬草を熱湯の中にいくつも投入する。
錬魂菜(れんこんさい)、ライトリーフ、天使の山草(やまくさ)――
これらの薬草は乾燥させるとどれも似たり寄ったりな見た目になるので、種類を間違えないよう細心の注意が要る。
山奥なので、ポーションを作るには足りない材料もあるが。
ホーリーポーションの材料がたまたま揃っていたので、うまいこと作ることができた。
このホーリーポーションを作るための材料、貴重とまではいかなくても中々手に入りづらいのが現状だ。
その上、自分の調合の腕前がまだ未熟なので、せっかく材料がそろってもめったに完成品を拝むことができなかった。
特にここのところはずっと失敗続きだったので、次々とホーリーポーションが出来ていくのには驚いた。
――まさか、四連続で成功するとは。
確率の神様も、ここまで面倒見は良くないだろう。
そう、確実に上達している。しかも、以前にも増してかなり。
成功した透明な液体の瓶。
冷却がてら棚に置いておく。
ふと、テーブルの上に置いておいた本に目が止まる。
調合中級者レベルの本。
この家には調合の本がたくさんあったので、暇さえあれば読んでいたのだ。
アイザックさんの研究所のように、最新のものが全てそろっているわけではなかったが、それでも十分すぎるくらいの量。
まるで、かつて誰かがここで調合の勉強でもしていたみたいだ。
ウタに聞くと、実際そうだった。
『むかしエルが使ってた本だね。
あと、この家のことはレイラ様も知らないみたい』
途中まで話してくれた、エルという人の話。あの続きはまだ聞き出せていない。
事故と言っていたが、無事だったのだろうか。
そのことを思いだしながら、本を取ろうとして、ふと隣にあるハードカバーの本に気付く。
調合の本らしいが、なんだか他のものとは雰囲気が違っていた。
タイトルは『新・魔法生物体論』。
手にとってパラパラめくると、挿絵と図の中間くらいのリアルさで描かれた、人間型の魔物の絵に目がいった。
その二足歩行の生物は、手足が奇妙にひょろ長い。
他の挿絵を見ると、にょろにょろしたものから猫に似たものまで様々あった。
……これは?
「ホムンクルス~」
「うわっ!」
いつのまにか部屋にいたウタが横から言ってきた。
「ほ、ほんくむす?」
「ホムンクルス。
調合を使って作れる魔法生物のことだね。ほら、アルケミスト系の職業でたまに、スライムとか変な鉄屑とかを使役してる冒険者がいるでしょ? 
ああゆうヤツね」
「ホムンクルス、ホムンクルス……
うーん、そんなの知らなかったな」
つまり、材料と方法が分かれば、ペットのような魔物を作れるということだろうか。
可愛い魔物が使役できるのなら、少しだけ試してみたい気もする。
「もっとも、作るには魔法の知識もけっこう要るみたい」
「なあんだ、じゃあ俺専門外だ」
「ウタも一応……」
「ん? 作ったことあるのか?」
「あるにはあるけど……」
なんだか口ごもった。
「うまくいかなくて」
***
夜になった。
台所の鍋と目の前の皿からは良い香りが漂ってきて、俺の鼻腔をふわりとくすぐっている。
「今日はシチューの仕上げに干したハーブを入れたの。
出来上がる時に手でパリパリってね。もういい匂い」
今日の夕食はウタの番だ。
食事は初めは全て彼女が作っていたが、さすがに任せっきりでは悪いので、交代交代で作ることになった。
あつあつの液体をスプーンですくい、やけどしないように気をつけながら自分の口まで運ぶ。
……うまい。
年下の女の子に美味しい手料理。男なら憧れの状況。
けれど、そういうのとは何か違うのだ。
誤解を恐れずに言うなら、なんだか、そう、お手伝いさんが作ったみたいな味。
手料理と言うよりは、完全に仕事としてこなしているような、そんな。
彼女の料理には何が足りないんだろうか。
***
「おやすみ~」
「ああ」
流石に寝るときは別の部屋だ。
山奥の仮住まいには勿体ないくらいの、ふかふかの布団が気持ちいい。
布団に体を潜らせると、すぐに眠気が襲ってくる。ああ。
一日を振り返る。
…………。
まずい。非常にまずい。
何がって、山奥で閉じ込められている状況に適応していること。
とは言え、別段ウタが危害を加えてくるわけでも無い。
彼女を倒してしまえば結界とやらが解けるのではとも思ったが、そういう大層なものが使えるということは、きっと相当の強さだろうから、そもそも無理だろう。彼女もそれをわかってこんな行動に出ている筈だ。
お互いに敵意は全く無いし、ここは大人しくしていた方が賢明だろう。
それに俺はあくまでも、ここにレイラを呼んでウタの“お願い”とやらを叶えてもらうためのエサらしい。
だから、その時が来てみるまで何も出来そうにない。いや、何もしなくて良い。
暇なのでポーションを作ったり、散歩ついでに外で採集をしたりして、ウタに麓の村で換金してもらってはいるが。
だけど、本当にこれで良いのか? 
不可抗力とはいえ、冒険とか昔の因縁とか、全部中断してうやむやにして、山奥でポーションを作って。
ここでの生活にも、ウタが当たり前のようにいることにも、すでに少しずつ慣れてきてしまっている。
これから一体どうなってしまうんだろう。
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