毒手なので状態異常ポーション作る内職をしています
第5章 なんか同居することになりました 5-1
「――うん??」
気が付くと、見知らぬ家の中で、椅子に座っていた。
「ここは?」
やや低めの天井と、板を当てて補強した窓から見える緑から察するに、森かどこかにある簡素な家のようだ。
目の前には食事用の木製テーブル。
ここは居間だろうか。ムダ無く配置された必要最小限の家具の他に、大きな本棚にぎっしりとつまった調合学の本が目についた。
さっきまで、確かに冒険者学校にいた筈。
テレポートの魔方陣が見えたが、まさか誰かが魔法を使ったのか?
「コーちゃん、お願いがあるの!」
「うわっ!?」
突然、今の今まで何も無かったテーブルの上にツインテールの女の子がぱっと現れた。
彼女はテーブルに座ったまま俺を見ている。
レイラに付き従っていた、ウタだった。
「こ、コーちゃん???」
「うん。名前がコーキだから」
「はぁ……」変な呼び方だなあ。
「たしか、ウタさんでしたよね?
どういうことでしょうか、これは。
あ、名前はさっき体育館でレイラと話してたのが見えたんで、それで」
「こっちのほうが年下だし敬語じゃなくて良いよ」
「う、うむ……わかった。
それで、どこだろうかここは。
冒険者学校は? レイラ達は?」俺は浮かんだ疑問を口にする。
「そんなことよりも、『お願いってなに?』って聞いて!」
「いやいやいや、先にもっと言うべきことが――」
「いいからいいから!」彼女はこちらの話を聞く気は無いようだ。
「はぁ…………お願いって何?」
俺がいかにも仕方無さそうな感じの声音で言うと、
「――レイラ様を助けて欲しいの」
彼女は真剣そうな顔で言った。
ただし、テーブルの上に膝をついたまま。
「助けるって――?」
それどころか、こちらが助けてもらう側だったんだけど。
「いやその前にここがどこかくらいは教えて欲しいや。
お前がワープを使ったのだけは辛うじて分かったが……」
「結界の中だよ。
テレポートをしたのは、あのまま教室にいても埒(らち)が明かないと思ったからね。
ここは外側からバレないように、とある山の奥に隠してあるんだけど」
「結界だと? 」
「ウタの魔法なの。すごいでしょ」
「それにしたって……」結界ってたしか、相当強力な魔法じゃないか。
「山奥って、具体的にはどのへんだよ 」
「うん、とりあえず冒険者学校からずっと離れた場所だね」
「……もっと詳しく」
「そうだなあ、だいたい――」
ウタは言うと、自分がさっき座っていたテーブルの上に片手を置いた。
「ランプリットから」右手がテーブルの端に。
「エーテル・エペまでの」左手がテーブルの真ん中に。
「四倍の距離」
置いた手をぱっと離すと、両手を飛び立つ瞬間の鳥のように目一杯広げた。
「それ、本気で言ってるのか?」
俺は冗談のつもりかと思い、今にもハグしてきそうな格好になっているウタに聞いた。
長距離のテレポートなんて、巨大な転送装置で魔力を増幅してやっとできるレベルだというのに。
しかもこの場所を悟られないよう、結界との合わせ技をするなんて、そんな仰々しいものをたった独りで……
俺が驚いていると、
「お茶どうぞ~」
ウタがいつのまにかティーカップを二つ手にしていた。
「どっから出したんだよ……」
カップからは良い香りの湯気が立ち上っている。
「今のあいだに、結界でリビングとキッチンを繋いで淹れたの。便利でしょ?」
「それ以上に手際良すぎだろ」
ちょうど喉が渇いていたので、一口すすった。うまい。
それはさておき。
「お前ってレイラの味方なんじゃ無かったのか?
本題に戻すけど、彼女を助けて欲しいってどういうことだ」
俺が聞くと、
「レイラ様は生き急ぐあまり、道を間違えちゃってるみたいでね」
ウタはため息をついて言った。
「どういうことなんだ?」
「うん、あの方は昔、いろいろあったんだ」
「昔って、俺が会うより前?」
「今はまだ、コーちゃんを完全には信用してないから詳しいことは言えないんだけど――あの中で知ってるのは彼女のお姉様とウタだけなんだ――」
ウタは含みを持った言い方をしてから、こう続けた。
「レイラ様の魂は今、七年遅れなの。
ようは、十歳の子供なんだ。
でも、もともと神童と呼ばれた人だから知能の発達は早くて、そのおかげであまり不自由はしてないみたい。
問題はね、考え方がまだ幼いってこと。
――あの事故が、彼女を文字通り変えてしまった。
最近は周りにきつくしたり、コーちゃんに八つ当たりしたりして、誰が見ても悪い方向に彼女は向かってる」
「――十歳? あの事故?なにを言って……?」
「少し辛い話かもしれないから無理に聞かなくても良いけどね、どうしよっか?」
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