毒手なので状態異常ポーション作る内職をしています

桐生 舞都

3-3

「ど、どうするんですか!」


「金品を引き渡すか、戦うか……どちらかしかないね」


「戦うってこの数で?カティアさんはともかく、俺たち三人は見事に非力じゃないか」


「私だって、出来ることならとっくに撃退してますよ。

ですが、私が良くても、その隙に皆さんが首に刃物を当てられて人質にでもされたら大変ですから、手が出せません」


「……これはあまり刺激しない方がよさそうだ」
'

今は街中なので、ポーション類は鞄にしまってある。鞄をごそごそとすれば、その隙に刺されてしまうだろう。


間を詰めてくる少年達。俺たちは背中合わせにくっつく。


腰の短刀を確認する。だが、ここでナイフを抜いてしまったら最後、少年達は一気に襲いかかってくるだろう。


しかも、こちらの方が人数的に分が悪い。


どうする……?


と、


「ぐはあっ!?」


俺達を囲んでいたうちの一人が突然うつ伏せに倒れる。


少年達が驚いた様子で仲間が倒れた場所を見る。


頭を押さえて倒れた少年の横には、鍋が転がっていた。


どこからか飛んできたのか?


と、俺達ではない誰かの声がした。


「……無視を決め込もうと思っていたが、またやってしまった。


暴漢を見ると、つい反射的に闘いを挑んでしまう。」


次の瞬間、倒れた奴の両側にいた仲間の体が持ち上がった。


「ぐ……ごご……は、なせぇ!」


そこを見ると、片手に一人ずつ、二人の少年の服の襟をつかんで持ち上げている、長髪の男がいた。


「なんだぁ!貴様ぁぁ!ボコボコにされてえのか!!」


リーダー格らしい、子供の中でもひときわ綺麗な服の少年が初めて言葉を発した。


その恫喝する言葉に、男が毅然として答える。


「我は単なる流浪の者。


――近頃ここらを騒がす窃盗団、それがいかほどの強さか知るべく……

全員まとめて、お手合わせ願おう。」


男はそう言うと、掴んでいた少年を乱雑に放り投げた。投げられたメンバーの内一人の身体は、他の仲間にぶつかると、その身を下敷きにして倒れた。


突然現れた乱入者に、俺たちがポカンとしていると、


「ナメたマネしやがって!!」


一人の少年が男にナイフを向ける。


と、服をつかんでそれを止める別の少年。


「――おい、止めろ、にいちゃん!」


ナイフを向けた一人を止める少年の声は、まだ声変わりのしない高音である。


「なんでだよ放せよこの下っ端!」


「アイツが全身から発してる気、只者じゃあない!」


「知るかそんなもん!!」


そう言うと、彼の制止する腕を振り払い、男の方に向き直り、突進する。


それに続くように、さらに二人の声。


「へっ、どうせこけおどしさ!」
「全員まとめて来いたぁ、身のほど知らずめ!」


そう言うと、棍棒を上段に構えて襲いかかる。


が、


「ぐはぁっ!」


男が少年のみぞおちに手刀を食らわせ、地面に引き倒した。


「なにをぅ!」
「まだまだ!」


「……」


光るナイフの切っ先。


男はそれを難なくかわすと、それを叩き落とし、首筋を殴打した。


「……フン!」


もう一人の棍棒に至っては、男は空気を切って頭上に落とされたそれをなんと片手で受け止め、腰に蹴りをお見舞いした。


そうして三人の少年が倒れる。


「やりおるのう、あやつ」


カリンが目をきらきらさせ、男の身のこなしに見入っていた。


男は口許に不敵な笑みを浮かべて言った。



「どうしたのだ。こいつらを除いては、皆腰抜けか?


――我はまだまだモノ足りぬぞ」



真っ青に竦み上がった少年達。


そして、


「こ、こいつがどうなってもいいのか!?」


自棄を起こした様子の少年の一人が、俺達のうち一人の首筋に手を回し、ナイフを突きつけた。




カティアさんだった。




あ、待てその人は……


ゴツン。


「ぎぃやああああ!!?」


思う間も無く鈍い音と悲鳴がした。


彼女が少年の腕を軽く振りほどき、ジャンプするように頭突きをしたのだ。


少年が苦しそうに片手で顎を押さえている。


そして、ナイフを持ったもう一方の手は、


「折りますよ?」


カティアさんに掴まれ、今まさに捻られようとしていた。


「うわあああん!痛い!痛い!

ごめんなさいごめんなさい放してください!!

手が砕けるよぉ!」


強い握力で握られた手からナイフが滑り落ち、少年が悲痛な叫び声を上げる。


「女だからって、甘く見ないでください。


――折れないように加減するの、けっこう難しいんですよ?」そう言うと、少年の腕を放した。


気弱そうな見た目で判断して彼女を人質に取ろうとするなんて、とんだミスだったな。


彼は嗚咽しながら、残りの少年達の方によろよろと駆け寄り、後ろに隠れた。そして――



「うわああん、ひっく、この、この、


――メスゴリラ!!」



メ……


お、おいバカ、その言葉は――!



次の瞬間、空気が凍りついたのを感じた。



しんと静まり返った、止まったような時の中で、俺は恐る恐る彼女を見た。



真顔のまま、口だけが割けたかのように不自然に笑っている。そしてその形相は――。


カティアさんの身体から殺気が立ち上ったのが分かった。


男がもともと発していた殺気に加え、新たに燃え盛る殺気。


その二つによってピリピリした空気が風を起こし、俺の頬を打つようにして掠めた。


念のために言っておくが、カティアさんはあくまでも、可愛らしい、可憐な女性である。



「お、おい、引き揚げるぞ!!」

「ヒイイィィ!!」


慌てたようなリーダー格の合図に、少年達が背中を向けて走り出す。そのまま市場の出口の方に走ると、左右に別れて路地の方へ消えていった。


少年達が見えなくなると、男を取り囲んでいた殺気が薄れた。


そして、それに呼応するかのようにもうひとつの殺気も消える。


特殊能力『馬鹿力』持ちの女戦士、カティアさんが落ち込んだ様子で言った。


「はぁ、なんですかメスゴリラって。


せめて、アマゾネスと呼んでくださいよ」


アマゾネスは別に良いんかい!


「いやいやいやいや!!


アマゾネスて、カティアさんは別にムキムキでもがっしりした肩幅でも何でもないですから!


あなたのはそう言う能力ですからね!しっかりして下さい!」


「そちは体型も中身もしっかりおなごじゃから、そうあまぞねすなどと卑下するでない!」


「ほ、ほら、この話はもう終わりにしよう、ね?」


先ほどの豹変を目の当たりにした俺たちは彼女を慰めるのに必死である。


かたわらで、乱入してきた長髪の男が下を向いて何か呟いている。


「……あまぞねす、あまぞねす……くっ……、っふ……」



この人はなに肩震わせて笑い堪えとんねん!


しつこいようだけど、カティアさんはあくまでも何処にでもいそうな感じの、きゃしゃな人ですからね!



「あのー、すいません」


俺は冷ややかな眼差しで、肩を震わせ続ける男に声をかけた。


「ハッ……ゴホン。」


男が慌てて咳払いをする。


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