毒手なので状態異常ポーション作る内職をしています

桐生 舞都

3-2

俺はアイザックさんの仮説を思い出す。


「簡単に言うと、俺の持っているイメージが現実化したんですよね?」


「うん、それは間違いない。君の能力と毒手の文献を比べてみれば明らかだ。


けど、それ以上は何もわからない。あまり大きな声では言えないけれど、神殿に本当に神がいるのかどうかもね。


ただ、神殿が冒険者に特技を与える、その事実のみが冒険者の間で理解されている。


それが、その場所自体に宿る不思議な力によるものなのか、神様がわざわざ一人一人の願いを聞き分けているのか。それは分からないね。


少なくとも、今は憶測で考えるしかないよ」


「自分達より上に立つ存在が願いを叶えてくれるのに、イメージの現実化っていう一定のパターンがあるなんて、なんか神様っていう存在からはしっくりこないんですよね。

神様がいるとして、もしそれが意図的なものなら、まるで自ら威厳を否定しているかのようですね。」


「神がいる、と仮定すれば、もしかしたら神様達にも人間関係が、派閥があって、その中でも神殿の神様は生き残りのための戦略を採っているのかもしれないよ。」


「生き残り……冒険者の信仰を集めたかったというのですか?」


信仰を集め、下界の人間を一人でも多く支配するのに少しでも有利に。そうだ、冒険者から信仰を得よう。私が直々に彼らに力を与える、そうすれば彼らは私を信仰するだろう。


俺はそんなことを考える神様を想像した。


「興味深いデータがあってね。


二十年前を境に、叶えられた願い――と言っても特技の習得のお願いだけど、の数が極端に減っているんだ」


「データって……わざわざ聞き取った人が?」


「いるんだなそれが。どの分野にも、なんでそんな調査したんだ!?みたいなよくわからないのがね……とにかく、ある時を境に神殿で特技を覚えるのが難しくなった」


「それはいったい……じゃあ以前はポンポン特技が覚えられたってことじゃないですか。


神殿に、何かあったんですかね?」


「わからないね、これ以上は何も。憶測で考えるとすれば、神殿の不思議な力が何かのきっかけで弱まった、または神様――神殿を担当する神様がそういう方針を採ったか」


アイザックさんはそれきり黙った。


俺はもうひとつ聞きたいことがあった。


「最後に、俺に森で仮説を言ったのは、ショック療法だったんですか?」


俺の質問に、アイザックさんはぷっと吹き出して言った。

「まさか」


「あっさり否定ですか」


「そんなことをしなくても、君が手袋を外せるように、少しずつ冒険に慣れさせていくつもりだよ。


僕の研究も進むしね。」


「あー、それが目的ですか」


「これは立派な対価だよ、君が助手をする――」


「上手いですね、やり方が」


「褒められたのか皮肉られたのか。


ん?――そういえば、あの二人はどこに?」


「え?」


俺は前を見る。


いつのまにか他の二人はいなくなっていた。


俺たちは辺りを見回すが、カリンもカティアさんもどこにもいない。


俺がアイザックさんと話に夢中になっている間にはぐれてしまったのか。


周りの人間を見わたしても、荷物を抱えたおばさんや行商人、若いカップル、そして談笑する少年達のグループしかいない。


ん、少年達の集団?


「まさか」


「もしかして」


俺たちは同時に思い至る。そして、談笑しながら歩くその集団に、走って追い付いた。


「おい、君たち!!」


「……」


アイザックさんが声を掛けると、その集団は無言でポケットから刃物を取り出した。


身長は俺達より高いか同じくらいかだが、その顔はまだ幼い。歳は俺よりも下であろう。


やはり、先ほど言っていた窃盗グループのようだ。


俺たちは逃げる間も無く少年達に回り込まれ、そのまま囲まれた。


そして、ボロボロの汚れた服をまとった数名が集団の中から出てきた。


背が低く、着ているものはみすぼらしかったが、目だけがぎらぎらと光っている。


「……」


彼らも手にナイフや棍棒を持ち、じりじりと詰め寄ってくる。


そうしてあっという間に輪の中心部に追い込まれたのは、俺とアイザックさん、そして


「おお、師匠も狙われたのか!?」


「まさか言われたそばから窃盗団に遇うなんて……!

この首飾りのせいでしょうか!?」


カリンとカティアさんだった。


「いや僕たちは助けに来たんだよ!一緒にしないでよ!」


「……囲まれちゃってますけどね」


見ると、少年達は既に全員が武器を構えている。

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