毒手なので状態異常ポーション作る内職をしています
2-5
自己紹介のとき、俺はカティアさんには、「特技としてエネルギー弾を使うが、まだまだ未熟な身なので」と嘘をついたのだ。
彼女が「手から弾を出す方は沢山いるのですが、毒なんて初めて見ました」と言ったので、慌てて「状態異常の研究をしていて、その成果」と言うと、納得してくれた。
また、俺の側からすすんで三人の関係を説明したのも、事情を知っている二人に毒手のことをぺらぺら話されたく無いからである。
チカラのこと、言う必要は無いし、出来れば言いたく無い。ずっと関わるあなたたちならまだしも、初対面で、初めてパーティーになった、もう会うかどうからすら分からない人に。
使えない能力のことを言ったって、後でもの笑いの種にされるのがオチでしょう?
正直に言ったところでどうなる?
俺たち三人の方はそれぞれ「助手、薬屋、研究者」と自己紹介したが彼女は「冒険者で戦士」だと言っていた。
本職としての生粋の冒険者。それは今の俺がもっとも苦手とする人種だ。
冒険者は、酒場での会話だとか、任意で入るギルドだとか、独自のコミュニティの中で、情報共有がされる。
実際、俺の噂を聞いた冒険者の中で、同レベル帯の連中が次第に嫌な顔をするようになっていったのを知っている。
その度に俺は、あの冒険者学校時代に渡された古い資料の中に混じっていた、『月刊アドベントガールズ』の記事を思い出した。
――毒手は使えない。
――気取っててうざい。
あの雑誌はずいぶん古いものだったが、俺が冒険者に「使えない」と判断された瞬間、あの記事は、俺について書かれたものとなるのだ。
俺は初対面の彼女が「毒手という使えない能力」の噂をしてまわるという最悪の場面を想像した。
念のために言っておくと、カティアさんは少し見た限り、ちょっと不思議だがいい人だと思う。今まで会った冒険者の中でも、いい人ランキングの上位に入るだろう。
でも、それでも、これだけは無理なんだ。悪い想像もしてしまう。
冒険者である以上。
多分、流れからして、これから森を抜けるのに彼女と、「生粋の冒険者」と、1年ぶりにパーティーを組むことになるだろう。
ならば、俺の本当のところは最後まで隠しておきたい。
「やっぱり、昔のことかい?」
「……」
自らの能力をめぐり、俺はある出来事によってすっかり自信を無くした。決定打となる事件が、冒険を止めた少し前に起きた。
それは中二病という名の強烈な酒に酔っていた当時の俺を青ざめさせ、その酔いをすっかり冷まさせた。
以来、俺は自発的に、みずから進んで大きな冒険に出ることが出来なくなった。
パーティーである以上、俺にも責任があった。そして、全員と運命を共有する。そうだ。あの時の俺は何も知らなかった。でも、知らないことで許される筈は無いし、俺が自分を許せない、そう、あの時の、あの――、
「何かが、致命的な何かが過去にあった。でも君は研究所で聞いた時も何も話そうとしてくれないし……」
「……」
「過去」って言ってるけど、たかだか一年で、傷が癒えるわけ無いじゃないですか。
そもそもアイザックさんは、もっと何年も前に何かがあったと勘違いしているようだ。
それがまさか、たったの一年前のことだとは思わないだろう。
俺はただ、青くなってふるふると首を振るしか無かった。
アイザックさんにも、そしてカリンにも会話の流れで以前に何度か聞かれたのだけれども、俺はその度にこうして首を横に振り続けた。
俺の様子に、らちが開かないと感じたのか、
「……いったい何がコーキくんをそんなに……?」
そう呟いてカティアさんの方に向き直ると、今までの深刻さを全く感じさせないふうに明るく言った。
「僕から、質問。」
そういえば彼の質問はまだだったな。アイザックさんは前置きしてから言う。
「正確にはカリンが最初に聞こうとしてたやつなんだけど。」
「ん、わしは何か忘れていたか?」
「どうして魔物に謝っていたんだい?」
その問いに、カティアさんは少し恥ずかしそうに言った。
「前置きしますと、ダンジョンのボスさんは倒してもそのうち復活するじゃないですか。」
ダンジョンのボスは時間が経つと一部を除いて復活する。復活の原因は魔力によるものだ。
ダンジョンができる仕組みを簡単に言うと、めったに人の訪れない場所には魔力が溜まるが、溜まりすぎると最終的に魔物の住み処になるというわけだ。
それは人間の住む場所でも同じで、例えば建物なら、長年誰も住んでいなくて、人の寄り付かない洋館などでは魔力が蓄積し、最終的にダンジョンとなる。
そして、ダンジョンが出来るまでに溜まりすぎた魔力はなかなか分散しないため、その状態でこれらを取り除くのは難しいのである。
「いつも倒しちゃって申し訳ないな~って。
でも、それだけじゃなくて。
私、踏んじゃったんです」
「フンジャッタのじゃ?」
「……中ボスさんは昼寝しておられました」
「ええ」
お前それでいいのか中ボス。
「だから今回くらいはと思いまして。それに、今日は私一人だから分も悪いし。
でも、私が石ころか何か……いえ、たしか木の根っこを……そうです、木の根っこにつまづいちゃってそのまま――、」
「憐れみの心が仇となったんですね」
アイザックさんが苦笑する。そして、お得意の提案。
「それで、よろしければ目的地まで行動しませんか?
カリン、いいだろう?」
「なぜ私に聞くのじゃ。」
「あと、コーキくん」
「……別に構いませんが。肝心のカティアさんがほら。」
三人のパーティーと、今日は仕方無くソロをしている一人の冒険者。
もう答えは決まっているようなものだけど。
「大変図々しいのは承知してるんですが、一人ではあの有り様でして……どうか最後までご一緒させてください……。」
まあ、そうなるだろうな。
全員の賛成と当人の同意を得、パーティーは四人体制になった。
「へ~それはまた丁寧なお仕事ですね!」
「いやはや、基本はだらしなくてですね。アイデアを生むためには定期的に遊び心も補給しないといけません」
「遊び心、ですか。」
「むしろ師匠のカラダの半分は遊び心じゃよ。
この前も何に使うのかも分からない新薬を作るため、『調合は爆発だ』とか言うて、それがまた失敗の嵐で、しまいには棚にあった瓶まるまる空っぽにしてたのじゃ」
「おいおい、それじゃまるで僕がいつもしくじってるみたいじゃないか」
「あははは」
森も後半でいいかげん慣れてきたし、かつしばらく敵も出てこなさそうな雰囲気なので、四人で雑談をしながら進む。
俺の前を三人が楽しそうに談笑しながら行く。やや後ろにいる俺もたまにカティアさんに話しかけられるが、返事を適当に返していた。
「状態異常ポーションですか?
まあ、ポイズンにパラライ、スロウ……いろいろ作りますね。」
俺の隠し事がある以上、会話はなんだかぎこちない。
カティアさんに気にした様子が無いのが幸いだ。
その間、カリンとアイザックさんの師弟コンビは、わざとか又は無意識か、俺に話を振ることは無かった。
能力のこと、言うのか言わないのか、それくらい自分でなんとかしろということだろうか。
これも悪い想像だ。いかんなあ。
途中で、アイザックさんが盛り上がる女性二人の会話から離脱し、俺に耳打ちした。
「毒手のことなんだけどね」
彼女に正直に話せってことだろうか。
だが、そうでは無かった。
「君が能力を使ってポーションを作るとき、少し気になることがあるんだ」
「……気になること?」
思いがけない話に、目を見開く。
「君が左手から垂らす毒には、不純物が全く無いようなんだ」
不純物が無い?気になるとはどういうことだろう。
「はぁ、それはつまり?」
「調合というのは非常に繊細な作業で、ちょっとした汗や手の油が混じることでも作成が成功する確率はぐんと下がる。
にも関わらず君は毒系統のポーションなら、90パーセント以上の確率で成功する。
仮にも、毒は手から直接出る。それなのに、その成功率。
――これは、ありえないことなんだ。」
ありえないだって?でも――、
「でも、現に俺はそのくらい成功します。
今言ったことが本当なら、これは一体……?」
「そこなんだよ、コーキくん。」
彼の眼鏡の奥が光る。
「君は神殿でチカラを手にしたよね。それから、毒手のことは文献で既に知っていた。――このまえ冒険者学校の話はしてくれたよね。ほら、教官に手渡されたあの『アドベントガールズ』じゃないほうの、古い資料。」
俺は毒手のコントロールのヒントを掴むため、アイザックさんに全ての経緯を改めて説明していたのだ。
――そういえば、あの変な雑誌、たしか二十年以上も前のものだったな。ずいぶん黄ばんでたし、古いものには間違いない。
関係無いようなことを突然思い出したけれど、何かが引っ掛かる。
「これは僕の仮説なんだけど、まず、毒手というものはそもそも存在しない可能性がある。」
「え!?」
今、何て。
――存在しない?
それってつまり、俺のこれは、毒手じゃないと言うのか?
「――いや、あの雑誌のことがあるから、少なくとも数十年前までは存在『していた』、とでも言うべきだろうか。むしろ、その雑誌の記事が本当なら、使い手の一人二人は四半世紀前にはいたのだろう。
当然、君は実際に自分以外の誰かが毒手を使うのを見たことはない。」
「それがいったい?」
単にマイナーなだけでは?でも……一人も見たことがないなんて、よく考えたら異常だ。
俺はむしろその稀少性ひいてはオリジナリティーに魅力を感じていたのだけれど。
「――神殿だ。」
「……まさか」
「もはや存在しない能力」「直接見たことが無い」「神殿」、これらの語で何となく、彼の言わんとすることを理解できた気がする。
「実は、神殿の神様は『本来の毒手』という能力を与えたのではなかった。
あくまでも神殿は、『コーキくんが願った、コーキくんのイメージする毒手』を叶えた。
……こう考えると、筋が通るんだよ。
願いを叶える際、ずばり、君の毒手のイメージがそのまま形成されたのだ。
そして文献を読んでいた君は多分、――間違っていたらごめんね。『もしかして、これでポーションを作ったら売れるんじゃないか』という思いつきがあった。
それが、『毒系統のポーションを作る能力』として具体的なかたちになったのかもしれない。」
イメージ。
俺だけが描いたイメージ。
これ、ポーション作れるんじゃね――
たしかに、思った。
文献の記述を思い出す。
「――手から毒を出す」「――毒の気を撃ち出す」
そして雑誌の記事も。
「うざい」、「使えない」、
「使えない」――
――まさか。
彼女が「手から弾を出す方は沢山いるのですが、毒なんて初めて見ました」と言ったので、慌てて「状態異常の研究をしていて、その成果」と言うと、納得してくれた。
また、俺の側からすすんで三人の関係を説明したのも、事情を知っている二人に毒手のことをぺらぺら話されたく無いからである。
チカラのこと、言う必要は無いし、出来れば言いたく無い。ずっと関わるあなたたちならまだしも、初対面で、初めてパーティーになった、もう会うかどうからすら分からない人に。
使えない能力のことを言ったって、後でもの笑いの種にされるのがオチでしょう?
正直に言ったところでどうなる?
俺たち三人の方はそれぞれ「助手、薬屋、研究者」と自己紹介したが彼女は「冒険者で戦士」だと言っていた。
本職としての生粋の冒険者。それは今の俺がもっとも苦手とする人種だ。
冒険者は、酒場での会話だとか、任意で入るギルドだとか、独自のコミュニティの中で、情報共有がされる。
実際、俺の噂を聞いた冒険者の中で、同レベル帯の連中が次第に嫌な顔をするようになっていったのを知っている。
その度に俺は、あの冒険者学校時代に渡された古い資料の中に混じっていた、『月刊アドベントガールズ』の記事を思い出した。
――毒手は使えない。
――気取っててうざい。
あの雑誌はずいぶん古いものだったが、俺が冒険者に「使えない」と判断された瞬間、あの記事は、俺について書かれたものとなるのだ。
俺は初対面の彼女が「毒手という使えない能力」の噂をしてまわるという最悪の場面を想像した。
念のために言っておくと、カティアさんは少し見た限り、ちょっと不思議だがいい人だと思う。今まで会った冒険者の中でも、いい人ランキングの上位に入るだろう。
でも、それでも、これだけは無理なんだ。悪い想像もしてしまう。
冒険者である以上。
多分、流れからして、これから森を抜けるのに彼女と、「生粋の冒険者」と、1年ぶりにパーティーを組むことになるだろう。
ならば、俺の本当のところは最後まで隠しておきたい。
「やっぱり、昔のことかい?」
「……」
自らの能力をめぐり、俺はある出来事によってすっかり自信を無くした。決定打となる事件が、冒険を止めた少し前に起きた。
それは中二病という名の強烈な酒に酔っていた当時の俺を青ざめさせ、その酔いをすっかり冷まさせた。
以来、俺は自発的に、みずから進んで大きな冒険に出ることが出来なくなった。
パーティーである以上、俺にも責任があった。そして、全員と運命を共有する。そうだ。あの時の俺は何も知らなかった。でも、知らないことで許される筈は無いし、俺が自分を許せない、そう、あの時の、あの――、
「何かが、致命的な何かが過去にあった。でも君は研究所で聞いた時も何も話そうとしてくれないし……」
「……」
「過去」って言ってるけど、たかだか一年で、傷が癒えるわけ無いじゃないですか。
そもそもアイザックさんは、もっと何年も前に何かがあったと勘違いしているようだ。
それがまさか、たったの一年前のことだとは思わないだろう。
俺はただ、青くなってふるふると首を振るしか無かった。
アイザックさんにも、そしてカリンにも会話の流れで以前に何度か聞かれたのだけれども、俺はその度にこうして首を横に振り続けた。
俺の様子に、らちが開かないと感じたのか、
「……いったい何がコーキくんをそんなに……?」
そう呟いてカティアさんの方に向き直ると、今までの深刻さを全く感じさせないふうに明るく言った。
「僕から、質問。」
そういえば彼の質問はまだだったな。アイザックさんは前置きしてから言う。
「正確にはカリンが最初に聞こうとしてたやつなんだけど。」
「ん、わしは何か忘れていたか?」
「どうして魔物に謝っていたんだい?」
その問いに、カティアさんは少し恥ずかしそうに言った。
「前置きしますと、ダンジョンのボスさんは倒してもそのうち復活するじゃないですか。」
ダンジョンのボスは時間が経つと一部を除いて復活する。復活の原因は魔力によるものだ。
ダンジョンができる仕組みを簡単に言うと、めったに人の訪れない場所には魔力が溜まるが、溜まりすぎると最終的に魔物の住み処になるというわけだ。
それは人間の住む場所でも同じで、例えば建物なら、長年誰も住んでいなくて、人の寄り付かない洋館などでは魔力が蓄積し、最終的にダンジョンとなる。
そして、ダンジョンが出来るまでに溜まりすぎた魔力はなかなか分散しないため、その状態でこれらを取り除くのは難しいのである。
「いつも倒しちゃって申し訳ないな~って。
でも、それだけじゃなくて。
私、踏んじゃったんです」
「フンジャッタのじゃ?」
「……中ボスさんは昼寝しておられました」
「ええ」
お前それでいいのか中ボス。
「だから今回くらいはと思いまして。それに、今日は私一人だから分も悪いし。
でも、私が石ころか何か……いえ、たしか木の根っこを……そうです、木の根っこにつまづいちゃってそのまま――、」
「憐れみの心が仇となったんですね」
アイザックさんが苦笑する。そして、お得意の提案。
「それで、よろしければ目的地まで行動しませんか?
カリン、いいだろう?」
「なぜ私に聞くのじゃ。」
「あと、コーキくん」
「……別に構いませんが。肝心のカティアさんがほら。」
三人のパーティーと、今日は仕方無くソロをしている一人の冒険者。
もう答えは決まっているようなものだけど。
「大変図々しいのは承知してるんですが、一人ではあの有り様でして……どうか最後までご一緒させてください……。」
まあ、そうなるだろうな。
全員の賛成と当人の同意を得、パーティーは四人体制になった。
「へ~それはまた丁寧なお仕事ですね!」
「いやはや、基本はだらしなくてですね。アイデアを生むためには定期的に遊び心も補給しないといけません」
「遊び心、ですか。」
「むしろ師匠のカラダの半分は遊び心じゃよ。
この前も何に使うのかも分からない新薬を作るため、『調合は爆発だ』とか言うて、それがまた失敗の嵐で、しまいには棚にあった瓶まるまる空っぽにしてたのじゃ」
「おいおい、それじゃまるで僕がいつもしくじってるみたいじゃないか」
「あははは」
森も後半でいいかげん慣れてきたし、かつしばらく敵も出てこなさそうな雰囲気なので、四人で雑談をしながら進む。
俺の前を三人が楽しそうに談笑しながら行く。やや後ろにいる俺もたまにカティアさんに話しかけられるが、返事を適当に返していた。
「状態異常ポーションですか?
まあ、ポイズンにパラライ、スロウ……いろいろ作りますね。」
俺の隠し事がある以上、会話はなんだかぎこちない。
カティアさんに気にした様子が無いのが幸いだ。
その間、カリンとアイザックさんの師弟コンビは、わざとか又は無意識か、俺に話を振ることは無かった。
能力のこと、言うのか言わないのか、それくらい自分でなんとかしろということだろうか。
これも悪い想像だ。いかんなあ。
途中で、アイザックさんが盛り上がる女性二人の会話から離脱し、俺に耳打ちした。
「毒手のことなんだけどね」
彼女に正直に話せってことだろうか。
だが、そうでは無かった。
「君が能力を使ってポーションを作るとき、少し気になることがあるんだ」
「……気になること?」
思いがけない話に、目を見開く。
「君が左手から垂らす毒には、不純物が全く無いようなんだ」
不純物が無い?気になるとはどういうことだろう。
「はぁ、それはつまり?」
「調合というのは非常に繊細な作業で、ちょっとした汗や手の油が混じることでも作成が成功する確率はぐんと下がる。
にも関わらず君は毒系統のポーションなら、90パーセント以上の確率で成功する。
仮にも、毒は手から直接出る。それなのに、その成功率。
――これは、ありえないことなんだ。」
ありえないだって?でも――、
「でも、現に俺はそのくらい成功します。
今言ったことが本当なら、これは一体……?」
「そこなんだよ、コーキくん。」
彼の眼鏡の奥が光る。
「君は神殿でチカラを手にしたよね。それから、毒手のことは文献で既に知っていた。――このまえ冒険者学校の話はしてくれたよね。ほら、教官に手渡されたあの『アドベントガールズ』じゃないほうの、古い資料。」
俺は毒手のコントロールのヒントを掴むため、アイザックさんに全ての経緯を改めて説明していたのだ。
――そういえば、あの変な雑誌、たしか二十年以上も前のものだったな。ずいぶん黄ばんでたし、古いものには間違いない。
関係無いようなことを突然思い出したけれど、何かが引っ掛かる。
「これは僕の仮説なんだけど、まず、毒手というものはそもそも存在しない可能性がある。」
「え!?」
今、何て。
――存在しない?
それってつまり、俺のこれは、毒手じゃないと言うのか?
「――いや、あの雑誌のことがあるから、少なくとも数十年前までは存在『していた』、とでも言うべきだろうか。むしろ、その雑誌の記事が本当なら、使い手の一人二人は四半世紀前にはいたのだろう。
当然、君は実際に自分以外の誰かが毒手を使うのを見たことはない。」
「それがいったい?」
単にマイナーなだけでは?でも……一人も見たことがないなんて、よく考えたら異常だ。
俺はむしろその稀少性ひいてはオリジナリティーに魅力を感じていたのだけれど。
「――神殿だ。」
「……まさか」
「もはや存在しない能力」「直接見たことが無い」「神殿」、これらの語で何となく、彼の言わんとすることを理解できた気がする。
「実は、神殿の神様は『本来の毒手』という能力を与えたのではなかった。
あくまでも神殿は、『コーキくんが願った、コーキくんのイメージする毒手』を叶えた。
……こう考えると、筋が通るんだよ。
願いを叶える際、ずばり、君の毒手のイメージがそのまま形成されたのだ。
そして文献を読んでいた君は多分、――間違っていたらごめんね。『もしかして、これでポーションを作ったら売れるんじゃないか』という思いつきがあった。
それが、『毒系統のポーションを作る能力』として具体的なかたちになったのかもしれない。」
イメージ。
俺だけが描いたイメージ。
これ、ポーション作れるんじゃね――
たしかに、思った。
文献の記述を思い出す。
「――手から毒を出す」「――毒の気を撃ち出す」
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