毒手なので状態異常ポーション作る内職をしています
1-3
俺は机に座らされていた。目の前にはアイザックさんとカリン。
アイザックさんが「これから一緒に研究するに先だって、自己紹介も兼ねて君のことを知っておきたい」と言うので、意味の無い面接をすることになった。
「冒険者にもいろいろあるけど、魔法やら、剣、斧といった武器ごとの必殺技、果ては盗賊がよく使う『鷹の目』や『スリ』まで、数ある特技の中から、どうして毒手を選んだんだい?」
面接と言うよりはほぼ雑談で、俺はお茶を飲みながら二人と話していた。
俺が毒手を選んだ理由、それはあまり答えたくない質問だ。
「……実は、若気の至りだったんです……」
「は、はい?若気の至りだって?」
「その……説明するのも大変恥ずかしいのですが、
誰しも自分が他の人間とは違う存在ということに目覚める時期があるじゃないですか。
ほら、思春期の一時期に発症するアレです……
俺はその病に蝕まれた頭で、思ったんです。
『あえて毒手という不遇な技を使いこなすことで俺の才能を周りに誇示できる』『テクニカルでトリッキーな俺カッケー』……とかいろいろ……
そしてその頭のまま俺は毒手の習得を選んでしまい……
ううう、ダメだ、これ以上思い出したくないです…… 」
たしか、冒険者学校の指導教官には、「うちには前例が無いから」と古い資料の山だけを渡されたんだっけ。
文献は、千年も前に異文化の国で存在した毒手という技のことが主で、どの資料をめくっても、そういった真偽不明の伝説的な記述しか無かった。
当然、ここ最近の毒手持ちの目覚ましい成果などあるはずもなく、本当に生きた使い手がいるのかすら知り得ない。
その中に一冊だけ『月刊アドベントガールズ』という雑誌が混じっていて付箋が貼られていた。
そのページを見ると、
『連載―こんな男子はNG!―第7回 どマイナーな特技は地雷冒険者の証だ!
8位:毒手
・1度PTで遭遇したんですけど使えなさすぎて引きました。普通の特技の方がダメージ通りますよね (20代/冒険者/A美さん )
・お前それ使いたいだけだろ(笑)って感じ。そうやって「俺トリッキーです」ってアピールしてんのがマジうざい同じトリッキーならオシャレなトリックスター系の技のほうがマシ (10代/宿屋/ピサさん)』
そのとき初めてことの重大さを知った俺。
しかし、俺は思い上がっていた。
―使えないのなら、俺が伝説を作ればいい―
あの時の自分を、ああ殴りたい。
アイザックさんが困ったように言う。
「えっと、それはつまり、その……思春期の一過性の感情による、ある種の悲劇ともいうべき……」
言葉を選んでいるようだが、なんか悲劇にまで高められている。
「中二病じゃな」
「遠慮が無い!!」
カリンにはハッキリ言われた。そうさ、俺はまさに中二病だったのだ。
「え、それじゃあさ」
引っ掛かることがあったのか、アイザックさんが聞いてきた。
「質問は二つ。ひとつ目――、
前読んだ本に書いてあったんだけど、毒手は性質上、使用者から武器のように簡単に引き剥がせない能力、悪く言えば呪いみたいなものなんだよね。
それで君に迷いは無かったのかい?
もうひとつ――、
毒手持ちをこの世に二人と見つけられるかどうかすら分からない状態で、君はどうやってそれを身につけたんだい?」
「ええ、ひとつ目の質問は……それもまた若気の至りで、当時の俺は『呪いか、フッ、それもまた面白い。』なんて抜かしてました。
呪いという響きが、中二病の当時はとても魅惑的に思えて……いまはとても後悔してます……
それともうひとつ、毒手の習得、それはまた、別の話になるんですけど……」
俺は二人にダルトラ神殿のことを語った。
ダルトラ神殿。
神に願うと"能力"を得られると伝えられる場所。
そこに冒険者達が秘術を求めて足を踏み入れる。
俺もそこへ足を運んだのだ。推奨レベルは特に無かったし魔物も出ないので問題は無かった。
冒険者の中にも、強力な術を得て満足する奴と、なにも起きなくて肩を落とす奴とがいた。
当時の俺は低レベルに出来る限り、思い付く限りのことをやったけど能力を習得することができなかった。
そうして万事を尽くし、この神殿で何も起きなかったら諦めよう、そう思っていた。
まさか、たかだかレベル20の俺が神殿で力を得られるとは誰も思わなかったのだろう。俺も思わなかった。
俺はわらにもすがるような思いで、願った。本気で願った。
すると……
「ソナタノネガイ、タシカニキキトドケタゾ」
「えっ」
俺は謎の声とともに、神殿の中央部にまつられた御神体から光が出るのを見た。
そして――
「……う、うあぁぁぁ!手が!手が!俺の左手がぁ!」
こうして俺は、毒手を手にしてしまった。
「……若気の至りとは言え、レベル20に過ぎなかった君の全身全霊の願いを神殿は聞き届けてくれた。
神様も酔狂だねぇ」
「酔狂すぎるじゃろ!!」
今ここでこの二人と話しているのもその酔狂のおかげなんですけどね。
とにもかくにも、俺はこうしてファルガーモ研究所で助手をすることになった。
ただし、まだ内職は続ける。
(二章に続く)
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