学園の人気者のあいつは幼馴染で……元カノ

ナックルボーラー

合宿編11

 入浴時間を終えて、各々が今日使用した練習着を選択し終えて干した後は、就寝時間までは完全な自由時間となる。
 
 部屋でゆっくりする者。
 施設のロビーで男女問わずに集まり談話する者。
 レクリエーション室で卓球などのテーブルボールをする者など。
 各自で自由な一時を過ごしている中、光含む2年女子一同は。

「それでそれで! 先刻さっきの続きなんだけどさ。光さんの彼氏ってどんな人なの!?」

「だから、その話はしたくないって言ったじゃん!」

 宿泊する部屋で恋バナに花を咲かせていた。
 だが満開とまではいかず、光が渋って答えようとせずに話が進まない状態だった。

「晴峰さんもその、光さんの彼氏を見たんだよね? 本当に顔を思い出せないの?」

「そう言われましても。私が会ったのは一回の、しかもかなりの短時間です。顔の印象も薄かったのであまり覚えてないといいますか……」

「なら他に特徴になるもの。喋り方とか」

 光が口を閉じてしまったからには、優菜は細い紐を辿る様に御影の記憶を頼りにするのだが、御影自身も本当に覚えてないのか腕を組んで唸り。

「そう言われましても……。私からすれば、その人同様に皆さんの喋り方も中々独特と言いますか。案外皆さんって言葉が訛ってるんですね?」

「いや、確かに他県の人からすれば訛っているかもだけど……。東京出身の御影さんの喋りは所謂標準語なんだけど。ウチたちからすれば、そっちの方が可笑しいんだから」

 外国人からすれば自分も外国人と同じ理論で返す優菜に、そうですか? と御影は首を傾げる。
 そしてポンと手槌を打つ御影はある事を皆に質問する。

「よくドラマなどで薩摩や鹿児島の登場人物で、「おいどん」とか「ごわす」とかを言ったりしますが。本当に言っているのですか?」

「「「言ってるわけない!」」」

 生まれも育ちも鹿児島の3人はユニゾンして否定する。
 だが、優菜は少し苦笑いの表情で日頃感じた事を話す。
 
「まあ、年寄の人で極稀に方言の人がいるけど、同じ県出身のウチたちからすれば、あれは一種の外国語だよね。何言ってるか分からない」

 優菜の方言に対する意見に光が同調して。

「それ分かるよ。私の近所に生粋の鹿児島弁のおばあちゃんが住んでいるんだけど。昔「おまはビンタがわりかね!」って私に怒った事があるんだよね、初めて聞いた時、え、ビンタ、えっ……私ビンタしてないよ?ってハテナしたな……」

 あるあるの事に1人付いていけてない御影は隣に座る千絵に意味を尋ねる。

「どういう意味なんですか?」

「ビンタってのは頭ってこと。つまり光ちゃんが怒られた言葉を翻訳するなら「お前は頭が悪い」ってことになるね(ボリボリ)」

 なるほど……と未知の言葉に感心を持つ御影。
 胡坐をかいた膝に手を乗せ、前のめりに優菜は御影に詰め寄り。

「てかさてかさ。前にテレビの特集で見たんだけど。私たちが普通に使っている言葉で、御影さん標準語の人に通じない言葉があるんだって。今後御影さんの為にそれを教えといた方がいいかもね」

 得意げに胸を張る優菜に釣られて何故か拍手する御影。
 確かに良い案と思ったのか、千絵は顎を指でトントン叩いて言葉をピックアップする。

「そうだね。そう言えば一番上のお兄ちゃんが仕事の用事で東京に行った時、「はわいてくれ」って言ったら疑問な顔されたって言ってたっけ」

「「はわく」……ですか? 言葉のニュアンス的には「掃く」つまり掃除してくれって意味ですか?」

 そう、と頷く千絵。

「別に標準語を馬鹿にしているつもりはないけど。いつも「掃わく」って言っているから、私からすれば「掃く」って言葉の方が少し違和感が……同じ読みで「吐く」ってのがあるし……(ボリボリ)」

「他にも「なおす」って言葉もあるよね」

「「なおす」ですか……? 何か物が壊れた時に使う言葉とか?」

 違う違うと光は手を振り。

「「なおす」ってのは所謂片付けろってこと。多分部活とかで一番使われる言葉だと思うから覚えといた方がいいよ」

「あぁー。確かに何度か耳にした事がありますね。その時に何か機材が壊れたりしたのですかね?と疑問に思ってましたが、これで合点いきました。はぁ、同じ国だと言うのにここまで違うモノなんですね……」

 様々な言葉の違いにカルチャーショックを受ける御影に千絵が、

「まあ、大体若い人たちはあまり鹿児島弁を使う事はないし。言葉に困った時は気軽に聞いてくれればいいから(ボリボリ)」

「ありがとうございます高見沢さん……ですがその前に、先程から何を食しているのですか?」

「え、ポ〇チだよ? 因みに味は九州しょうゆ味」

 千絵が見せるのはパーティーサイズ用の大きめな袋のジャンクフード。
 自宅から持参した菓子を1人ボリボリと頬張る千絵に対して、御影達3人は顔を青ざめた。

「い、いえ……別に味の方はいいのですが……。もう少しで就寝時間ですよ? なのに、そんなバリバリとお菓子を食べてたら……」

 この先の言葉は言いたくないとばかりに言い淀む御影。
 代表して優菜が口にする。

「いえ、ね……高見沢さん。こんな夜遅くにお菓子なんか食べると……太るよ?」

 年頃の、否、女子の一生の悩みたるそれを口にした優菜に対して、千絵はキョトンとした顔で。

「え? 別にこれぐらいの時間帯に食べるのは普通だよ? よく自習している傍らでお菓子とか摘まんでるし。それに私は幾ら食べても太らない体質だからセーフセーフ♪」
 
 尚も手を止めずにボリボリ菓子を口に運ぶ千絵に、3人は恐怖と羨望で戦慄させた。

「……高見沢さん、少しお腹を触ってもいいでしょうか……」

 ゆらりと近づく御影は千絵の有無を聞かずに千絵の腹を摘まむ。
 ぷにぷにとした弾力。だが、これは決して肥えているのではない。
 最低限の脂肪は削ぎ落されたかの様な、女性特有の柔らかさ。
 少々の贅肉はあるのかもしれないが、夜遅くに菓子を食べて尚のこの体型は嫉妬を通り越して尊敬してしまう……が、御影にとってはやはり嫉妬なのか、千絵の後ろに回り込み。

「お腹に行く栄養が全てこっちに行っているってことですか!? 羨ましい! 誠に羨ましいですよ高見沢さん!」

「いや、ちょ……やめっ。あっ……。そんな強く揉まないでッ!」

 握りつぶさんばかりに後ろから千絵の豊満な胸を揉みしだく御影。
 彼女がどれだけ優秀なスポーツ選手だとしても肉体の差は否めない。

「ウチも揉みたい。晴峰さん、片方私にも揉ませて」

「いいですよ! 一緒にこの女の敵を陥落させましょう!」

「なに人の胸を勝手に! しかも2人共地味にテクニシャン!?」

 女性にとって禁句のワードを口にした罰を実行する御影と優菜。
 女性でなければ事案の光景を目の前に、光は小さくガッツポーズ。

「……よしっ。これであの話が流れてくれれば―――――」

「高見沢さんの胸の秘密と光さんの彼氏の件はこの後じっくり語り合おうか! 今夜は寝かせないよ!」

「うん、やっぱり覚えてたか――――ッ!」

 どん底に落された光の叫びを無視して、御影は優菜に対して手を挙げる。

「いえ池田さん。確かにお2人のお話は興味はありますが、まず先にやらないといけない事があると思います」

「と、言うと?」

 と聞き返す優菜に御影は拳を握りしめ。

「それは勿論――――――男子部屋に突入です!」

 突拍子もない事だと思われるが、何故か3人は驚かなかった。
 というよりも、もしかしたら……と3人は薄々予想していたのかもしれない。
 御影は入浴時間に旅行など、男性の部屋に行くのに多少の憧れの姿勢を見せていた。
 だが、これとそれとでは話が別として。

「いや、なんか予想はしてたんだけど。晴峰さん。それは駄目だよ? 合宿の規則として、原則どちらかの部屋に行くのは禁止されてるから。会うんだったら、ロビーとかで待ち合わせるをするしか」

 現実的に語る光に御影は指を振り。

「何を言いますか渡口さん! 修学旅行でも規則として同様の禁足事項でそれはあります。ですが、それを掻い潜って向かうのが青春って物だと私は思います!」

 正論であって正論ではない珍妙な言葉だが、光は食い下がらず。

「け、けど見つかるリスクも多少あるからさ。今日はこのまま寝よ? 会いたいんだったら明日ゆっくりと話せば―――――」

「それじゃあ行きますよ渡口さん! 事前に目的の部屋は聞いておりますので、案内は私がしますので!」

「ねえ千絵ちゃん助けて! この人、人の話を全く聞こうとしない!?」

 何故か御影に手を引かれて連れ出されそうになる光は千絵にSOSを出す。
 だが、千絵が返すのは冷ややかな視線だった。

「(私の記憶だと。中学の修学旅行の時に、今の光ちゃんと同じことを私が言って、今の御影さんの様な返しを光ちゃんがしたはずだけど? 人の振り見て我が振り直せって事だね。因果応報ともいう)」

 今回の御影同様に、中学時代の修学旅行で止める千絵を引っ張り強行に走った経験がある光。
 今回は光が被害者なのだが、まるで2人の姿はあの時の自分たちを彷彿さえた。

 そしてこの時、千絵は夕食の準備の際に太陽が言って来た言葉を思い出す。

『……なあ千絵。俺の勘違いかもしれねえが。渡口と晴峰ってさ、何処か似てたりしねえかな……』

『似てるって、具体的にどこら辺が?』

『俺にもよくは分からねえんだが。その人の有り方って言うか……。無意識に人を引き寄せるっていうか……。何となくだが、俺はあいつらは似てるって思うんだ』

 ふーん? とその時は生返事に返した千絵だが、よくよく観察すれば確かにそうかもしれない。
 天真爛漫で、良くも悪くも猪突猛進のきらいがあって、方向性が違うが人を引き寄せるカリスマ性を有する。
 顔も体格も違う2人だが、魂か性格が何となく似ているようにも思えた。

「(似ている部分と言えば……もう1つあるか)」

 千絵は交互に光と御影を見比べる。

「(……恐らく光ちゃんは多かれ少なかれ、太陽君に対して未練というか恋心がある。そして晴峰さんも……本人は自覚してないのかもしれないけど、そうなる危険性を持つ……。確かに2人は似ているね)」

 まるで姉妹かの様に、と失笑する千絵。
 だが、千絵は心から笑えずに眼を沈める。

「(……ホント、女たらしというかハーレム系主人公というか……。近い未来、太陽君は決めないといけないのかもね。破滅か再生か……そして新たな恋か……けど、出来れば――――――)」

 ううん、と千絵はそれ以上の気持ちを押し殺した。
 自分で決めた事。それが最終的にどんな結末になろうと、千絵はそれを受け入れるつもりだ。
 
 もし、今の様に笑い合える関係が崩壊したとしても、それが人生だと諦める、と心に決め。

 千絵がそんな事を考えていると露知らずに、行くか行かないかの攻防を繰り広げていた光と御影だが、光の方が白旗を立て。

「分かった分かった! はい、私の根負けです! 今回は晴峰さんに付いて行ってスリリングな体験をしてあげるよ!」

「良かったです! これで道づ―――――仲間が出来ました!」

「ねえごめん。今不吉な事言わなかった? 道連れって言いかけてなかった!?」

 物問う光を流して御影は千絵の方に向き直り。

「高見沢さんも一緒に行きませんか? 絶対に退屈しないと保証致しますが?」

 光に続いて千絵も誘わるが、少し考えたフリを見せた千絵は首を横に振り。

「ごめん。私は少し勉強しないといけないから行けないや。他の人たちで楽しんで来て」

 断った千絵に寂しげな表情を見せる御影だが。

「分かりました。勉強をする人を無理に誘う訳にはいきませんので。では、行きましょうか、渡口さんに池田さん」

「はいはーい」

「あっ、私は付いていく前提だったんだ……」
 
 御影の憧れである男部屋突入の為に部屋を後にする3人を手を振って見送る千絵。
 
 3人が出て行き1人キリになった狭い部屋から覗ける月を見上げ。

「……やっぱり少し散歩しようかな」

 勉強よりも先に気分転換と少し時間が経った後に千絵も部屋を後にする。
 

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