学園の人気者のあいつは幼馴染で……元カノ

ナックルボーラー

合宿編6

「おい千絵に信也! お前ら、掃除道具取って来るのにどんだけ時間掛かってるんだよ!? 洗い物こっちはとっくに終わってるんだぞ!」

 予想以上に時間が掛かった千絵と信也に詰め寄りがなる太陽。
 だが、太陽の表情からは怒り半分と、元カノとの気まずい空気からの解放の安堵が入り混じっていた。
 
「ごめんね太陽君。掃除道具は何処にあるのか迷っちゃって。ちゃんと持って来たから、はい」

 そう言って千絵は倉庫から運んだモップを太陽に手渡す。
 それに対して太陽は苦笑いをして、

「…………ちゃっかり残った組俺たちの分も持って来てる辺り、良い性格しているな、お前」

「へへへへ。それはどうもだよ太陽君」

「皮肉で言ってるんだよ!?」

 皮肉が通じず嘆息する太陽は文句を言いつつも千絵からのモップを受け取る。
 続いて光も千絵からテーブル拭きを受け取ると、2人がいない間の事を話す。

「そう言えば千絵ちゃん、後新田君も。先刻さっきコーチの人が来て、今日の午後から気温が上がって来るかもしれないから、スポーツドリンクは多めに作って、なるべく早く準備してくれらしいんだ。掃除に4人でするのもなんだし、私はそっちに行っていい?」

「そうなの? ならお願い。けど、1人で大丈夫? キーパーとか重たいし、光ちゃん1人は大変だよね」

 そう言って千絵は助け舟を出そうかと太陽の方に目を向ける。
 だが、当の太陽は聞こえないふりをしているのか、視線を千絵達の方に向けず、せっせと真面目に床掃除をしている形を作っていた。
 
 千絵と光は数秒太陽の方に視線を向けた後に顔を見合わせ。

「大丈夫だよ千絵ちゃん。作るのは1人でなんとかなるよ。勿論満タンのキーパーは重いから運ぶのを手伝って貰うと思うけど、小分けのボトルは1人で運べるし、そっちが終わってから手伝いに来てくれてもいいから」

「うん、分かった。けど、大変だったら声をかけてね?」

 分かった、と返して光はスポーツドリンク作りの為に食堂を出る。
 ドリンクの粉やキーパー、ボトルなどは入り口付近に置かれた練習道具に交じっており。
 外にある水飲み場でも作れる為に厨房で作らなくともよく、光は1人でそっちに向かう。

 今度は光が抜けて3人残った食堂。
 何かに没頭をして我関せずの構えをする太陽を他所に、各々掃除道具を片手にする千絵と信也が小言で話す。

「おい高見沢。お前の目論見外れてねえか? 俺たちが出て行く事で何かしらの進展を図ったって言ったよね?」

「……別に私の考えが全て思い通りに行くなんて慢心してないから……。まっ、そんな簡単に行くわけないんだけど……」

 沈んだ様な眼の千絵、その眼を見て信也は何を察したようで、

「……お前、もしかして悩んでいるのか?」

「悩んでるって、それはさっき倉庫で―――――」

 違う、と信也は一蹴する。

「お前が悩んでいるのは、自分の行動に対してだ。お前は言ったよな? 自分はお節介だって、それは、望んでないのに勝手に横槍を入れる自分に対して自己嫌悪しているんじゃないかって」

 信也の指摘が間を射抜いたのか、千絵は呆れた様に肩を竦める。

「信也君って人の心にズガズガと入り込むよね……。もしかして私も、太陽君や光ちゃんからそう思われてるのかな……。これって同族嫌悪って言うのか分からないけど、なんだか嫌だね……」

「類は友を呼ぶっていうやつだろ。俺も一応はあいつらの友達だからな、仲直りしてほしいって気持ちに偽りはないが、本当にそれが正しいのかってのは自信がないな」

 親しき中にも礼儀あり、幼馴染とは言え血の繋がりのない他人に違いはない。
 そんな相手に口を挟まれれば嫌な気持ちになる。
 千絵もそれが分かっているのか、少し苦悩する様に眉根を寄せ。

「アドバイスありがと、新田君。けど、これだけは言っておくよ。……私にもそれは分からない。決意した様に口で言っているけど、心の底では私は何がしたいのか、自分にも正直良く分かってないんだ」

 自分の事は自分が一番している。だが、時と場合では自分自身も自分が分からなくなる。

「太陽君と光ちゃんが仲直りして欲しいのは本当だけど。その先は自分が何をしたいのか。太陽君に自分の想いを伝えるのか、それともまた二人が恋人になる様に助力するのか。それとも、それらをせずに今度は最後まで”ただの”友達として一緒に過ごすのか……。私って何がしたいんだろうね」

 知らねえよ、内心で信也がそう呟いていた。

「おいお前ら。何話しているのか知らねえが、無駄口叩いてないで掃除しろよな」

 太陽に諫められ、太陽に背中を見せていた千絵は振り返り。

「ごめんね太陽君、直ぐにやるから。よーし! 使用する前よりも綺麗にしよう!」

 おぉー! と腕を上げる千絵に、太陽も「お、おー?」と困惑気味に釣られて腕をあげる。
 先ほどまでの自分に嫌悪して暗い表情だったのに一転して笑顔になる千絵。
 千絵の切り替えの早さは異常で、影が潜み明るくなる。

 それは好きな人太陽の前だから笑顔なのか、それとも自分の心を見透かされない様にする為に偽りの仮面なのか、見て分からない。
 
 だが、その千絵の姿を見て、信也は少しイラついた。。
 その怒りの矛先が自分を偽る千絵に対してなのか、千絵の好意に気づかない太陽に対してなのか、それとも……何も出来ない無力な自分に対してなのか、信也も自分で自分の心が分からないでいた。

* * *

「おも……重たいなこれ……。満タンのキーパーってこんなに重いのかよ……。しかも×2って」

「男の子なんだからぶつくさ言わない。部員全員に行き渡る様にだから、多くて損はないからね」

 あの後、食堂の掃除を終えた3人はスポーツドリンク作りをしていた光に合流。
 部活で幾度か作った経験のあった光はてんてこ舞いする事は無く、全て作り終えており。
 完成した中身の入ったキーパーとボトルを持って練習場に持っていくのだが、

 満タンに入って1つ20キロ程度のキーパーを2つ。計40キロ。
 それを片手ずつに持って運ぶ帰宅部の太陽は限界に近かった。
 しかも練習場まではそこそこ距離もある為に腕だけでなく足腰にも負担がかかっているのも要因の1つ。
 ついでに千絵と光の女性陣はボトルとタオルの為に太陽よりかは軽い。

 太陽同様にキーパーを2つ持つ信也も苦行の表情である事を思い出す。

「そう言えば、さっき倉庫で掃除道具を探してた時に台車があったよな? あれ使った方が楽なんじゃないか?」

「おい! なんでそれを先に言わねえんだよ! もう半分以上来てるし、戻るのも面倒な距離だぞ!?」

「え? 倉庫に台車なんかあったっけ?」

 遅い思い出しにがなる太陽だが流され、千絵に信也は答える。

「あっただろ、覚えてないのか? お前思いっきり触ってたじゃねえか。そんで邪魔、って言ってコロコロ転がして退かしてただろ」

「…………………」

 思い出したのか冷や汗を流す千絵。
 確かに倉庫に2つ台車があり、それを使えばここまで苦労せずに練習場に水分を届けられたかもしれない。
 千絵の見落としに太陽は諫める様な視線を送り。

「……千絵?」
 
 名前を呼ぶも千絵は謝る素振りは見せず、逆に開き直った表情で、

「――――――うん! 日頃勉強と遊びで鈍った体にはこれぐらいの疲れは丁度良いよね! よーし! 後少しだよ! 皆頑張ろう!」

「なに開き直ってるんだよ! お前、俺のここまでの苦労を返しやがれ!」

「苦労は返せないよーだ! それに、忘れてた物は仕方ないじゃん! そもそも、私だけじゃなくて信也君も忘れれたんだから同罪じゃん! 私だけが悪い訳じゃないよ! 信也君も、言わなければその事黙っていれば隠し通せたのに!」

「俺が悪い……よな。忘れてたんだし」

 怒って無駄に体力を消耗した事で遂に腕に限界が訪れた0太陽は、キーパーをアスファルトの道に降ろす。

「マジ……辛いんだけど……。こんな事なら日頃からしっかり鍛えとけばよかったぜ……。なんか、凄く惨めって感じだし……」

 練習場では自分以上に過酷に体を酷使している人たちもいるのに。
 たかが2百メートル程度の道を40キロの荷物を運ぶだけで根をあげる脆弱ぶり。
 日頃の体力作りなのだろうが、自分が情けない様子。

「……まあ、俺も案外キツイし。なんだったら俺が倉庫まで台車を取りに行くか」

「そうだね。効率的に考えても、帰りの方も考えると、あった方が便利だし、信也君お願い」

 OKと信也が施設の方に踵を返そうとした時だった。

「なら私がキーパーこっちを持つから、太陽はタオルとボトルこれをお願い」

 信也が台車を取りに行くことで少し休憩をしようと腰を下ろそうとする太陽に、光が提案する。
 光が持っていたのは比較的軽量のタオルとボトル数本。
 太陽が持っていたのは荷物の中で一番比重の高い満タンに入ったキーパー。

 男性が重いのを持って、女性が軽いのを持つ。
 一見して男女差別とも思えるが、肉体的にはそれが正しい部分もある。

 なのに、女性の方が重いのを持って、軽いのを男性に持たせるのは、男性からすれば癪に障る。 
 特に太陽の様な負けず嫌いのきらいがある男性は効果的かもしれない。

「あ? お前に代わって貰う程落ちぶれちゃいねえよ! これぐらい、余裕でこなしてやるから見てやがれ!」

 先ほどまで根を上げていた太陽だが気分を浮上させたかの様に降ろしていたキーパーを持ち上げ颯爽と歩き出す。
 ズガズガと無駄に闊歩しながら1人先に行く太陽を唖然と見送る千絵と光。

「……光ちゃん。今のワザとでしょ?」

 千絵が含み笑いで光に尋ねる。
 
「え? なにを言ってのか分からないなー」

 光の態度は完全に確信犯そのものだった。
 光は熟知している。太陽の性格を、太陽がああ言われればムキになって頑張ることを。
 
 そして1人行く太陽の背中を眺めていた2人は互いに顔を見合わせ、面白そうに楽しく笑い合った。

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