学園の人気者のあいつは幼馴染で……元カノ

ナックルボーラー

練習場所探索

 鹿原高校2年、古坂太陽はまだ日が昇って間もない霧のかかった早朝で、一人川辺の草部に座っていた。
 
「……たくよぉ……。あいつから頼んだ癖に遅刻って、あいつ”も”案外時間にルーズなのか?」

 太陽は手に握る携帯で時間を確認して不満を垂らす。
 時刻は午前5時30分で、彼女が指定した時刻は5時。
 30分の遅刻になる。
 なのに彼女の姿が見えない。
 
 彼女、晴峰御影なのだが、昨日の下校時に彼女が太陽にお願い事をしてきた。
 それは、この街で自主練に最適な場所はないのか、あるなら案内をしてほしいという頼みだ。
 御影は陸上のスポーツ選手。学校や部活が休みでも研鑽を怠らせたくないと練習に最適な場所を探していたようだ。
 偶然にも太陽はその場所に心当たりがあり、その頼みを請け負ったのだが。

「……もう帰ろうかな……眠ぃ……」

 ふわぁ……と大きな欠伸をして気だるそうに零す太陽。
 元々太陽は朝が強い訳ではないが、頼み事をされればやぶさかではなく、眠気が残る体に鞭打って来たのだが、肝心の御影はいなかった。
 もしかして騙されたか?と思ったが、御影の性格からしてないだろうと除外され、残るは、

「寝坊か……。てか、なんでこんな朝なんだ? 別に夕方でも休みの日でもいいのによ……」

 そもそもな疑問を言っても遅い。
 太陽は来ない相手を待ってても時間の無駄だと腰を浮かせた時だった。

「すみません古坂さん! お待たせしました!」

 中腰の態勢でピタリと止まった太陽は声の聞こえた方へと顔を向ける。
 その目線の先には走ってこちらに向かっている御影の姿があった。

「遅いぞ晴峰! お前、30分の遅刻だぞ、まったくよ! お前が頼んだ癖に!」

「ご、ごめんなさい……。少し迷ってしまって」

「迷ったって……。ここに来る道をか?」

 太陽は呆れて首を傾ける。
 二人が今いる場所は二人が初めて?出会った川辺だ。
 ここなら二人も分かると言い出したのは彼女の方だ。
 だが、彼女はあっけらかんとした表情で、

「いえ、行くか行かないかで迷ってふがっ!」

「なに、ピクニックで持っていくパンの名前をしたコンビのネタみたいなボケしてるんだゴラッ」

 とんでもない御影の一言に太陽は口よりも早くにチョップが彼女の頭を打った。
 ヒリヒリするのか御影は叩かれた部分を摩りながら言い訳を述べる。

「だってですよ。練習で疲れ切った体に染み渡るお風呂。空腹の虫が鳴るお腹を満たすご飯。そして、私を優しく包み込み夢の世界に連れて行ってくれるお布団――――――こんな至福の三重を味わった私は、朝早くになんて起きれませんよ! 正直、後1分遅かったら私はここに来ずに3度寝してました!」

「うん、OK。お前もう喋るな。俺の中でのお前のイメージが全速力で瓦解してるから」

 話せば話すほどに太陽は御影の残念さを思い知らされる。
 しかも、それなら先ほど太陽が言った様に、夕方が休日にすればいいのにと理解不能である。
 太陽は陰鬱にため息を吐くと、自分たちが行く方角を指さし。

「もう茶番はいいからさっさと行くぞ。学校に遅れちまうからよ」

「そうですね」

 登校までにはまだ時間に余裕があるのだが、無駄に時間を費やす訳にも行かず、太陽はさっさと頼み事を済ませたかった。
 太陽が先導をして、その後を御影が追いかける。

 二人が歩き出して15分ぐらいの所。
 表通りではなく、裏道を通り、少し複雑な道を進んだ道で太陽は足を止め。

「えっと、お前の要望だと、足腰が鍛えられる様な坂や階段がある場所はないのかだったよな?」

「はい。スポーツ選手は足腰が大事ですから、出来れば負担の掛かる様な長くて急な坂か階段がいいですね」

 太陽は事前に御影の要望を聞いており、太陽は自分が知りえる中でその要望に沿った場所をピックアップして、ここを選んだ。

「ならここはいいんじゃないか? 小さい頃は良く上り下りしてたが、めちゃくちゃきつかったぞ」

 太陽が指さしたのは石で整備された階段と坂があり。
 長く続く階段、S字が続きながら登れるようになっている坂。
 幼少の頃の太陽は良くこの道を使ったが、当時は全力が最後まで続かない程に辛かった。
 
「そうですね。確かにここなら良い鍛え場所になるかもしれません。……が、一つだけ不満があるとすれば」

 先ほどまで視界に入れたくないと見ぬフリをしていたが、御影はチラと横目を向ける。

「どうしたんだ? 何が不満なんだ?」

「いや、えっと……坂や階段に関しての不満はないんですが……」

 御影はちょんちょんと横を指さす。
 太陽も御影の指の動きに誘導されて彼女の指の先を見る。

「なんだ、墓地があるだけじゃねえか」

「そうです墓地です! 大事な祖先の方々が眠る墓地があります! それで何かないのでしょうか!?」

「ん? 墓地は墓地だろ?」

 何故御影が必死に大声を出すのか分からない太陽に御影はわなわなと体を震わせ。

「私! 早朝や練習後の夕暮れ、休日とかにもここを走ろうと思ってました! ですが、早朝や休日は兎も角、夕暮れとか怖すぎますよ!」

「なんだ。お前、お化けとか嫌いなのか?」

「嫌いとかではなく……不気味じゃないですか、墓地の近くを走るのとか……。他にはないんですか?」

「他と言ってもな……。ここは確かに田舎で坂は多いが、階段がある場所は―――――」

 あぁ、と太陽は思い出したと手槌を打ち。

「そうそう。長い階段がある場所がもう一つ心当たりがある」

「どこですか?」

 そこはな、と太陽は少し間を溜めて。

「俺たちが墓地坂って呼んでる場所でな」

「古坂さんの墓標をそこに立ててあげましょうか?」

「……お前、それ殺すというよりも怖いんだが……」

 勿論冗談なのだが、真顔の御影に恐怖しか感じられない。
 しかし、太陽の知る中で近場で長い階段は他にはなかった。
 
「スマンがここぐらいしか心当たりはねえわ。あっても遠いし、ここで我慢してくれ」

「むぅ……まあ、墓地以外を除けば最適な場所かもしれませんので、我慢します。最悪の場合は夜に走る時は古坂さんを連れてこればいいだけですしね」

「……お前、俺の扱い雑じゃねえか? 俺とお前ってそんな深い仲だったか?」

 太陽は眉を轢くつかせながら恐る恐る聞くと、彼女は黒い笑顔で、

「いやだな、古坂さん。私と古坂さんの関係は主と下僕友達じゃないですか」

「お前絶対に友達だって思ってねえよな!? なんか友達って言葉から凄い不安を感じられるんだが!?」

「冗談です冗談。先ほどの意趣返しって事で勘弁してください」

「……俺の場合は待たされたやつの意趣返しだったんだが……。まあ、いいや。次行くぞ」

「分かりました」

 そして太陽と御影は次の場所に移動を開始する。

「と言っても、この階段を昇った先なんだがな」

「そうなんですか? それじゃあ良い機会ですし、どちらが先に登れるか競争です! よーいスタート!」

「は? あっ、ズルッ!? てか速ッ!? 待てよおい!」

 先に急な階段を全力で駆け上がる御影の背を追いかけようと太陽も走り出した時、御影の姿があの頃の彼女の姿が重なった。

『ほら、太陽も早く早く! どっちが先に昇れるか競争ね! 負けた方は勝者にジュース奢り!』

『お前! 先に走り出してズルいぞ! 光ィ!』

 過去の記憶が横切り、階段を数段昇った所で足が止まる。
 太陽は階段の頂上を見上げ、自分から遠のく御影の背中を見つめながら呟く。

「……場所、変えて貰おうかな……」

 太陽は思いだした。逆になんで忘れていたのか不思議だった。
 この階段は太陽にとっても思い出が深く、そして彼女との思い出も沢山ある階段。
 
「……そうだ。ここ、あいつが良く筋トレで使ってた場所だったな……。足腰を鍛えるのに丁度良いって……」

 太陽は強くぶんぶんと首を横に振り。

「あいつが使ってただろうが今更どうでもいいだろうが、俺。あいつは怪我をして練習してねえし。つか、ここは別にあいつの所有場所じゃねえんだから気負いする必要もねえしな!」

 空元気に叫ぶ太陽は周りを一瞥すると、ふとある物を発見した。
 それは階段下付近にある石のベンチ。
 御影や他に目が行っていたから気づかなかったが、ベンチの上に小さな青色のポーチが置かれていた。

「……あれ、何処かで見覚えが……」

 記憶の隅でベンチに置かれたポーチが引っ掛かる。
 太陽はそれを間近で見ようと階段を降りようとするが、

「古坂さーん! どうしたんですかー! 私、もう昇り切ったんですが、ギブアップですか? 私がおぶって昇ってあげましょうかー?」

「高校男児舐めるな! これぐらいの坂登り切れるわ!」

 御影の呼びかけに大声で返した太陽の頭からポーチは抜け落ち、興味を失せた太陽はそのまま速足で階段を昇って行く。
 あのポーチが誰のだったのだろうか、太陽はこの後も思い出す事はなかった。
 

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