学園の人気者のあいつは幼馴染で……元カノ

ナックルボーラー

多数の誤解

 時刻は夕暮れを過ぎ、日が沈み、月が上りかけた頃。
 太陽は一人、校門の壁に凭れて誰かを待っていた。
 その太陽の待ち人の人物は、

「あれ? 古坂さん。どうしてまだここにいるんですか?」

 陸上部の練習を終え帰宅するであろう晴峰御影。
 彼女と一緒に下校をしようと付いていたのか、他の陸上部員もいた。
 太陽は背中を壁から離し、御影に向き直ると端的に目的を言う。

「お前を待ってたんだよ、晴峰。お前に言いたい事があって」

「…………はい?」

 太陽は無意識に口にした所為で分からなかったが、何故か御影は頬を紅潮させており、彼女と下校を共にしようとしていた陸上部員も近所迷惑にならない程度の声量で黄色い歓声を上げていた。
 太陽が彼女たちの反応に訝し気にしていると、部員の一人が、

「ではでは。ここからは若い者たち同士で、ごゆっくり、晴峰さん!」

「なんですかその親指、あっ、皆さんも!? って、練習後で疲れたーって言ってませんでしたっけ!? 元気に走り出して、ちょっと待って!」

 部員たちは全員親指を立てご武運をと言わんばかりのエールを送ると、練習後で疲労いていたはずの部員たちは颯爽とその場を離れて行った。
 嵐の様に去って行く部員たちをポカーンと眺めていた御影。
 良く分からないと太陽は後ろ髪を掻くが、彼女たちが居なくなってある意味丁度良いと御影へと向き直り。

「なあ、晴峰」

「ちょーっと待ってください!」
 
 太陽の声に我に返った御影は手を激しく振り太陽の口を止める。
 今に破裂しそうな程に顔を真っ赤に染める御影は、あたふたとしながら。

「ま、待ってください、古坂さん! 少し早すぎませんか!? 私たち、まだ会って2日目ですし、まだ互いの事を知らないと言いますか!? いや、別に古坂さんが嫌だって言う訳じゃなくて、ありかなしかと言われればありと言いたいですが、少し心の準備が出来てませんし、もう少し順序を踏まえて、互いの事を知ってからもう一度―――――」

「…………何言ってるんだ?」

 顔を紅葉の様に真っ赤に染めながら狼狽していた御影は、冷静な太陽の問にへ?とまぬけな声を漏らす。
 そして――――――――

「んで? お前は何と勘違いしてたんだ?」

「…………聞かないでください聞かないでください聞かないでください」

 壊れたCDプレイヤーみたいに同じ言葉を連ねて発しながら、今度は違う意味で顔を真っ赤にして、そんな顔を手で覆いながらしゃがんで俯いていた。
 どうやら御影は何かと誤解していた様で、太陽の用事を聞くと誤解が解け、羞恥で立っていられない様子。

「……それでですが。なんですか私への用事って……。私、練習後で疲れてるんですが?」

 自分の事はこれ以上追及するなと言わんばかりの悪態づく口ぶりで唇を尖らす御影。
 太陽も御影が何を勘違いしていたのか問いただしたい所だったが、彼女の言う通りに御影は陸上の練習後で疲労してるだろうし、時間もそこそこ遅い。
 自分も早く帰りたいことと、彼女をあまり呼び止める事も出来ないので話を進める。

「……なんだ、あの、その……ごめんな」

「ん? なにを謝ってるんですか古坂さん? 私、古坂さんに謝らせる様な事されましたっけ?」

 太陽の謝罪に訝し気に首を捻る御影。
 太陽は自らの謝罪の意味を言う。

「ほら、渡口の事だ。黙っててスマン……」

 太陽が謝罪の理由を言うと、御影は納得とあぁーと零し。

「別に古坂さんが悪い事はないです。あの後部員の方にも聞いたら、渡口さん本人と同じ事を言われました。そして「黙っててごめんなさい!」って謝れもしました。今の古坂さんみたいに」

 へへ、と頬を掻きながら半笑いの御影は、そっと沈んだ瞳を下げ。

「私の方こそすみませんでした。知らなかったとは言え、私は嬉々として渡口さんとの再戦を言ってましたから、真実を言おうとも言えなかったのですよね? ……もし、私も逆の立場なら同じ様な事をしていたと思います。ですので、本当に気にしないでください」

 御影の笑顔に悲嘆の色が混ざるが、太陽に向けての怒りは見受けられなかった。
 逆に相手に心苦しい想いと気遣いをさせてしまった事への罪悪感を感じられる。

 本当に彼女は気にしてないのだろうが、太陽にはもう一つ謝るべき事があった。
 
「後、渡口の態度、それも謝っとく」

「さっきのもですが、それこそなんで古坂さんが謝るんですか? キツイ言葉ですが、古坂さんには関係なくないですか?」

 最もな疑問だ。太陽はその返答への返しも考えていた。

「あいつとは腐れ縁でな。あいつの態度でお前の気分を害したんじゃないのかって思ってよ」

「そうだったんですか……そう言えば、何となく二人は知り合いって雰囲気でしたものね。ここは小、中の学校数が少ないですから、不思議ではないですね」

 勿論だが、日本の都市である東京生まれの御影は田舎を皮肉で言っている訳ではない。
 そして太陽も、諸々の理由がある故に知人と名乗ったが、元恋人という関係は伏せていた。
 
「だから、よ。あいつの怪我は仕方ない事だから気を落さないでくれ。折角転校して来たんだからさ、気分を害したままで過ごすのも勿体ないし、ここは田舎だけど、山に囲まれて自然が一杯で―――――」

 狼狽気味にあわわと御影に取り繕いの言葉を投げるが、これは決して光の為ではない事を理解してほしい。
 太陽はあくまで御影を励ます為に夕日が沈む時刻まで彼女を待っていたのだ。

 御影は東京に残れる環境があるにも関わらず、車が無いと不便な田舎に引っ越して来た理由は散々語られた。
 中学に天才と謳われ同級で無敗だった自分を打ち負かした好敵手との再戦。
 しかし、その夢はその者の怪我と言う形で気泡に終わった。
 御影のモチベーションは光との再戦。
 だが、それが叶わなくなってしまった今、それを燃料にして頑張って来た御影の熱意が損なわれるのではと危惧をして、太陽は少しでも持ち直させようと躍起になっているのだが、

「もう、そんな心配しなくても大丈夫ですよ。私、気にしてませんから」

 クスクス笑う御影の言葉に太陽は目を点にして、

「そ、それはないだろ……? お前、めちゃくちゃあいつとの再戦楽しみにしてたんじゃねえか。あんな目をキラキラ、闘志をギラギラしてたお前が気にしてない訳がないだろ」

 太陽の反論に御影は苦笑して、

「ハハッ……バレちゃいましたか。まあ、正解なんですが。気にしてない……と言われたら嘘になりますが、やっぱり精神的には来てますね。あの後も少し調子を崩してばてちゃいましたから」

 お恥ずかしいと手を後頭部に当てながら空元気に笑う御影。
 太陽、そして自らを誤魔化す様な笑いをする彼女だが、徐々に途切れ途切れになって最後は口を閉じ。

「……私にとっては渡口さんは超えるべき存在で、初めてもう一度戦いたいと思った相手です。ですが、やっぱりしょうがありませんよ。怪我をした渡口さんが一番辛いんですから」

「お前、あいつの時も同じ事を言ったが、渡口はお前との約束を忘れてたんだぜ? そんな相手に気遣いの言葉を言う必要はあるのか?」

 太陽は光の心情を知っている。
 だが、敢えてそれを言う必要はないと言い、光の心情を聞かずに離れたままの御影に合わせる様に会話を続ける。

「こんな事言うのはどうかと思うが、怪我をして辛いのは兎も角でも、自分の身体の管理が出来なかったあいつの自業自得だろ? だから、晴峰は怒る権利はあれど、斟酌する義理はないだろうに」

「……そういう事、あまり言わないでほしいですね」

 御影の反応に太陽はそっと彼女の方に目線を向ける。
 
「確かに古坂さんのおっしゃる通り、スポーツ選手は不意でも故意でも怪我をしてしまえば自業自得です。ですが、それでもこれまでの努力が水泡に戻る辛さは想像を超えます。それに、私の気のせいかもしれませんが、渡口さん、私との約束を忘れていないと思います」

 ピクリと太陽の眉が反応する。
 太陽は直接本人から言われたから知っているが、あの事は御影は知らないはずだ。
 
「……なぜ、そんな事が言えるんだ?」

 純粋な疑問に御影は自らも分からないとばかりの顎に手を当て。

「自分でもよくは分かりません。ですが、筋肉の動き……でしょうか? 渡口さん。あの時体全体に力を入れていると言いますか、凄く狼狽えている感じでした」

 太陽は彼女が何を言っているのか全然理解出来なかった。
 筋肉の動きと言うが、学校の制服は下はスカートで上は半袖だから確かに肌は見える。
 だが、筋肉の動きは客観的に捉えられるのかと甚だ信じられない事項だ。

「(……だけど、変な所で鋭いなこいつ。殆ど正解じゃねえかよ)」

 スポーツ選手としての勘なのか、それとも単なる当てずっぽうなのかは定かではないが、一応正解している事に内心感嘆の声を漏らす。
 
「それが当たってたら、お前はどうするんだ?」

「うーん、とですね。正直分かりません。あれが嘘だったとしても、何故嘘を吐くのかと疑問に思いますし、許せる事ではありません。こればかりは渡口さん本人に聞くしかありませんから」

 確かにそうだと太陽は苦笑して返す。
 そして、御影はそっと少しだけ目を閉じると、揚りかかってる丸い月を仰ぎ。

「それに……これでも分かりませんが。渡口さん……本当にこのままで終わるんですかね?」

 地味に御影の勘は当たる。
 これは太陽がその事実を知っているから検証できる事であって、今口にした言葉に良い返しが出来ず。

「……さあな」

 とだけ返す。
 それに御影も、

「そうですよね」

 と笑って返す。
 ハハハッと笑い合う二人。
 傍から見れば二人は何に見えるだろうか。
 
 暫く笑い合った二人だが、そうでしたと御影が笑いを切り。

「そう言えば私、古坂さんに頼みたい事があったんでした」

「俺にか?」

 太陽は自分に指を差し聞き返すと、はいと御影は頷き。

「正確に言えば誰でもいいのですが。丁度タイミングが良いですので、この際古坂さんに頼みましょう」

「……お前、俺に喧嘩でも売ってるのか?」

 この際と言われてカチンと来ない人間はいるのだろうか?
 失言と可愛らしく舌を出す御影に、太陽はバツの悪い顔で髪を掻き。

「……んで? 俺に頼みってなに?」

「えっとですね、それは――――――」
 

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