学園の人気者のあいつは幼馴染で……元カノ
心に残る傷
今日使用する教科書と筆記用具を鞄に入れ、支度を終えた太陽は、行って来ます、と言い、リビングから父と母からの、行ってらっしゃい、と返事を貰って言えを出る。
まだ本格的に夏が到来してないからか、朝は少し肌寒い。
だが、昼頃になればこの寒気が嘘だと思わせる様に暑くなるから、タオルを鞄に入れたか再確認する。
鞄を漁りながら家の敷地を出た太陽だが、塀の門を出た辺りで、バッタリと人に当たりそうになる。
「あっ、すみま…………ちっ」
前歩不注意で人と衝突しそうになったが、ギリギリの所で止まって事なきを得た。
だが、その当たりそうになった人物と目を合わせた事で、脊髄反射で口にしかけた謝罪を飲み込み、小さく舌打ちをしてしまう太陽。
「……なんだ、お前か……」
太陽は悪態付く様に目を細めて相手を睨む。
肩に掛かる毛先が癖毛となっている亜麻色の髪、身長は女子高生の平均程度、スタイルは出てる所は出て、引っ込んでる所は引っ込んでるが、ボーイッシュな雰囲気を漂わす女性。
名は渡口光。
同じ土地で生まれ、家が隣同士って事と、父親同士が親友ってことで、小さい頃から兄妹の様に一緒に育って来た幼馴染で―――――太陽が最も嫌う人物だ。
多分、光は太陽の事を待っていたとかではないないのだろう。
太陽が出た時間と同じに光も家を出たのだろう。
太陽の顔を見て気まずそうに顔を逸らしてせわしなく肩を揺らすのが証拠である。
そもそも、光が太陽を待つ理由が、今では思いつかないでいる。
そんな太陽とバッタリ遭遇して固まる光の横を太陽は無言で素通りする。
「ま―――――待ってよ太陽!」
太陽が通り過ぎた事で我に返ったのか、朝の空気を通る少し声を張り上るが、太陽はピクリとも反応せずに歩みを止めない。
光もそれが分かっていたのか、呼び止めと同時に急ぎ足で太陽の後を追いかけた。
そして、太陽の横を並行して歩き出すと、ぎこちない笑顔を向け。
「た、太陽……えっと……おはよう」
「…………はよ」
太陽自身は適当に返したはずなのだが、何故か光は嬉しそうにはにかんだ。
最近では、そもそも外や学校で会っても無視したりしてたから、返事を貰えた事も久しかったのだろう。
だが、太陽は嬉しそうにする光の表情を見て内心イラついていた。
「(なんでテメェがそんな反応するんだよ! 俺がこうなったのは、テメェが原因だってのによ!)」
必死に表面で平静を保っているが、内面ではぐつぐつと怒りがマグマの様に煮えたぎっていた。
「そうだ、太陽! 昨日ね、面白い事があったんだよ!」
太陽から返事を貰えた事で気分を良くしたのか、光が昨日の出来事を話す。
千絵と、最近仲良くなった咲良という女子とのやり取りらしいが、口頭だけでは面白さが伝わらず、太陽は鉄仮面の様にピクリとも表情筋を変えない。
そもそも、太陽は光といて笑えれるような心の状態は持っていない。
「それでね。その後千絵ちゃんが――――――」
「……なあ、光」
ん、なに? と太陽が足を止めてから三歩歩いた地点で歩みを止める光は後方の太陽へと踵を返す。
人の気も知らない光の態度に、太陽は押し寄せる怒りを抑えて口を開く。
「お前、先刻から何平然と話しかけてるんだ? お前と俺が、今どんな関係なのか知っているよな?」
穏やかな態度で接しようと試みるも、やはり過去の出来事を尾を引いて、無意識に上擦った声になっていた。
だが、一度口を開けば、まるでダムが決壊して水が漏れる様に、今までため込んでいた感情を吐き出す。
「お前さ。自分から振った相手によ、何事もなかった様に話しかけるとか、何考えてるんだ? なんだ。俺に対しての僅かな罪悪感からか? それとも同情か? それとももう昔の事は関係ないと俺を馬鹿にしているのか?」
「い、いや……。私はそんなつもりじゃぁ……」
「そんなつもりでもそうでなくても、そう感じるんだよ! 少しは人の気持ちを考えろや馬鹿がッ!」
朝の住宅街に轟く怒号。
太陽も自分がここまでの怒声を張り上げた事に内心驚く。
だが、この今太陽を支配する黒い感情こそが、今目の前の嫌いな人物に向ける本音だと気づく。
普通に話しかけるつもりだった気持ちは太陽から消え去り。
いつもより低い声の太陽に光はビクリと怯えた様に身体を震わせた。
そして太陽は熱が入った様に、一気に捲し立てるかの如く叫んだ。
「テメェは俺を振る時に自分が言った言葉を覚えているよな!? 振られる理由の中で、あれがどれだけ相手を傷つけるのか分かっているのか!? なのに、お前はそれを俺に対して平然と言ってのけたんだぞ? テメェがどれだけ俺を傷つけたのか、分かっているのか、おい!」
感情を塞き止めるダムが決壊して、奔流する感情の赴くままにヒートアップした太陽は、言い終わるや否や息を乱していた。
本音と感情を露わにして叫びたてた顔に熱が籠る太陽とは別に。
太陽の怒声と蔑みに、光は太陽の顔を見ずに俯き、その目元には涙が見える。
太陽が住宅街の真ん中で考えもなしに叫んだことで、住人や登下校、通勤途中の者達が『痴話喧嘩か?』と野次馬を作り出す。
徐々に増える人集りに、太陽は我に返り、少しの間太陽と光の間に沈黙の空気が流れる。
太陽は野次馬たちからの視線が集まり、居た堪れなくなると、吐き捨てる様に喉を鳴らして光の横を通り過ぎる。
その際、太陽の脳裏に封じ込めていたあの光景が蘇る。
太陽は永劫に思い出したくないとさえ思える。だが、忘れ難い苦い思い出、太陽の心に一生消えないであろう傷の原因の出来事。
太陽と光が中学を卒業する、中学生の制服を着る最後の日。
満開の桜と在校生達、世話になった恩師たちに見送られる晴天の青空の日。
光の呼び出しで二人キリとなった体育館裏での一連の会話。
『……太陽、別れよ。……私達』
『どうしてか、聞いて……いいよな?』
『……他に好きな人ができたんだ。私はその人に振り向いてほしい。だから、ごめんだけど、別れて』
思い出しただけで胸が苦しくなる。
フラッシュバックと呼ぶべきか、一瞬立ち眩みを起こすも、必死に踏ん張り感情を殺す様に落ち着かせる。
一方的に別れを切り出された太陽は、あの時は現実から逃げる様に走り去ったが、その後に光の気持ちを汲んで別れる事に同意をした。
その時も淡々と光から『ありがとう。太陽もこんな私じゃなくて、他の人と幸せになってね』と言われ、二人の関係は呆気なく終わりを告げた。
その後の太陽は大変だった。
暫くの間失恋のショックで部屋に塞ぎ込み、食事を摂る事も拒絶して痩せはじめ、そもそも生きる気力さえも失う程に太陽は落ち込んだ。
それもそうだ。
相手は小さい頃から好きだった幼馴染で、同じ時を刻んだ最愛の彼女だったのだから。
何度も死のうと自殺を試みた。だが、やはり小心者で臆病の太陽は死ぬのが怖くて今も生きている。
そして、卒業式を終えてから二週間が過ぎ、高校の入学式が差し迫った頃。
太陽はこのままでは駄目だと、このままでは両親や友達に迷惑がかかると思い、部屋を出た。
だが、他に好きな人が出来たと告げられ受けた心の傷が癒えるはずもなく、太陽を大きく変える起因になったのに違いない。
太陽はうじうじしていた昔の自分を思い出し、恥ずかしさと怒りで自身の金髪の髪を掻き乱す。
現在の太陽は金髪に耳にピアスと、普通の高校生からすると客観的に不良と思える外見をしている。
だが、中学までの太陽はお世辞にも普通の冴えない黒髪の真面目な生徒だった。
だが、光に振られ、失恋にケジメと一区切り付けようと、今も光に捨てないでくれと縋る自分を捨てようと、高校を入学を期に大幅なイメチェンを施したのだ。
それもこれも。
全てのあの卒業式から大きく歯車を歪ませたから。
そして、その時太陽は否応なしでも気づかされたのだ。
――――永遠に続く愛なんて、どこにもないのだ、と……。
「そう言えば、お前。最近バンドを始めたんだってな? 動画見たぞ」
「……そうなんだ。けど、ヒドイよね。私達の演奏……。見てくれてありがとう」
互いに顔を合わせずに会話をして、太陽は鼻を鳴らす。
「お前と千絵は下手だが、他の奴らは上手えよ。なんで元陸上のお前がバンドを始めたのかは知らないが。まあ、精々頑張って好きな人に振り向いてもらえるように頑張るんだな」
皮肉に嘲笑をして、太陽は光に背を向けながら歩き出す。
「(完全に終わったな……)」
太陽は元々人に悪口を言える程に心が強い方ではない。
相手が一番の嫌いな相手だからと言って、言い過ぎたのではと心臓を締め付ける。
しかし、留まることはないと決心したから、太陽は最後の手向けとばかりに言い放つ。
「だからもう元カレの俺に話しかけるんじゃねえぞ。じゃあ、渡口さん」
これが二人の運命だったのだと、太陽は自分に言い聞かせた。
まだ本格的に夏が到来してないからか、朝は少し肌寒い。
だが、昼頃になればこの寒気が嘘だと思わせる様に暑くなるから、タオルを鞄に入れたか再確認する。
鞄を漁りながら家の敷地を出た太陽だが、塀の門を出た辺りで、バッタリと人に当たりそうになる。
「あっ、すみま…………ちっ」
前歩不注意で人と衝突しそうになったが、ギリギリの所で止まって事なきを得た。
だが、その当たりそうになった人物と目を合わせた事で、脊髄反射で口にしかけた謝罪を飲み込み、小さく舌打ちをしてしまう太陽。
「……なんだ、お前か……」
太陽は悪態付く様に目を細めて相手を睨む。
肩に掛かる毛先が癖毛となっている亜麻色の髪、身長は女子高生の平均程度、スタイルは出てる所は出て、引っ込んでる所は引っ込んでるが、ボーイッシュな雰囲気を漂わす女性。
名は渡口光。
同じ土地で生まれ、家が隣同士って事と、父親同士が親友ってことで、小さい頃から兄妹の様に一緒に育って来た幼馴染で―――――太陽が最も嫌う人物だ。
多分、光は太陽の事を待っていたとかではないないのだろう。
太陽が出た時間と同じに光も家を出たのだろう。
太陽の顔を見て気まずそうに顔を逸らしてせわしなく肩を揺らすのが証拠である。
そもそも、光が太陽を待つ理由が、今では思いつかないでいる。
そんな太陽とバッタリ遭遇して固まる光の横を太陽は無言で素通りする。
「ま―――――待ってよ太陽!」
太陽が通り過ぎた事で我に返ったのか、朝の空気を通る少し声を張り上るが、太陽はピクリとも反応せずに歩みを止めない。
光もそれが分かっていたのか、呼び止めと同時に急ぎ足で太陽の後を追いかけた。
そして、太陽の横を並行して歩き出すと、ぎこちない笑顔を向け。
「た、太陽……えっと……おはよう」
「…………はよ」
太陽自身は適当に返したはずなのだが、何故か光は嬉しそうにはにかんだ。
最近では、そもそも外や学校で会っても無視したりしてたから、返事を貰えた事も久しかったのだろう。
だが、太陽は嬉しそうにする光の表情を見て内心イラついていた。
「(なんでテメェがそんな反応するんだよ! 俺がこうなったのは、テメェが原因だってのによ!)」
必死に表面で平静を保っているが、内面ではぐつぐつと怒りがマグマの様に煮えたぎっていた。
「そうだ、太陽! 昨日ね、面白い事があったんだよ!」
太陽から返事を貰えた事で気分を良くしたのか、光が昨日の出来事を話す。
千絵と、最近仲良くなった咲良という女子とのやり取りらしいが、口頭だけでは面白さが伝わらず、太陽は鉄仮面の様にピクリとも表情筋を変えない。
そもそも、太陽は光といて笑えれるような心の状態は持っていない。
「それでね。その後千絵ちゃんが――――――」
「……なあ、光」
ん、なに? と太陽が足を止めてから三歩歩いた地点で歩みを止める光は後方の太陽へと踵を返す。
人の気も知らない光の態度に、太陽は押し寄せる怒りを抑えて口を開く。
「お前、先刻から何平然と話しかけてるんだ? お前と俺が、今どんな関係なのか知っているよな?」
穏やかな態度で接しようと試みるも、やはり過去の出来事を尾を引いて、無意識に上擦った声になっていた。
だが、一度口を開けば、まるでダムが決壊して水が漏れる様に、今までため込んでいた感情を吐き出す。
「お前さ。自分から振った相手によ、何事もなかった様に話しかけるとか、何考えてるんだ? なんだ。俺に対しての僅かな罪悪感からか? それとも同情か? それとももう昔の事は関係ないと俺を馬鹿にしているのか?」
「い、いや……。私はそんなつもりじゃぁ……」
「そんなつもりでもそうでなくても、そう感じるんだよ! 少しは人の気持ちを考えろや馬鹿がッ!」
朝の住宅街に轟く怒号。
太陽も自分がここまでの怒声を張り上げた事に内心驚く。
だが、この今太陽を支配する黒い感情こそが、今目の前の嫌いな人物に向ける本音だと気づく。
普通に話しかけるつもりだった気持ちは太陽から消え去り。
いつもより低い声の太陽に光はビクリと怯えた様に身体を震わせた。
そして太陽は熱が入った様に、一気に捲し立てるかの如く叫んだ。
「テメェは俺を振る時に自分が言った言葉を覚えているよな!? 振られる理由の中で、あれがどれだけ相手を傷つけるのか分かっているのか!? なのに、お前はそれを俺に対して平然と言ってのけたんだぞ? テメェがどれだけ俺を傷つけたのか、分かっているのか、おい!」
感情を塞き止めるダムが決壊して、奔流する感情の赴くままにヒートアップした太陽は、言い終わるや否や息を乱していた。
本音と感情を露わにして叫びたてた顔に熱が籠る太陽とは別に。
太陽の怒声と蔑みに、光は太陽の顔を見ずに俯き、その目元には涙が見える。
太陽が住宅街の真ん中で考えもなしに叫んだことで、住人や登下校、通勤途中の者達が『痴話喧嘩か?』と野次馬を作り出す。
徐々に増える人集りに、太陽は我に返り、少しの間太陽と光の間に沈黙の空気が流れる。
太陽は野次馬たちからの視線が集まり、居た堪れなくなると、吐き捨てる様に喉を鳴らして光の横を通り過ぎる。
その際、太陽の脳裏に封じ込めていたあの光景が蘇る。
太陽は永劫に思い出したくないとさえ思える。だが、忘れ難い苦い思い出、太陽の心に一生消えないであろう傷の原因の出来事。
太陽と光が中学を卒業する、中学生の制服を着る最後の日。
満開の桜と在校生達、世話になった恩師たちに見送られる晴天の青空の日。
光の呼び出しで二人キリとなった体育館裏での一連の会話。
『……太陽、別れよ。……私達』
『どうしてか、聞いて……いいよな?』
『……他に好きな人ができたんだ。私はその人に振り向いてほしい。だから、ごめんだけど、別れて』
思い出しただけで胸が苦しくなる。
フラッシュバックと呼ぶべきか、一瞬立ち眩みを起こすも、必死に踏ん張り感情を殺す様に落ち着かせる。
一方的に別れを切り出された太陽は、あの時は現実から逃げる様に走り去ったが、その後に光の気持ちを汲んで別れる事に同意をした。
その時も淡々と光から『ありがとう。太陽もこんな私じゃなくて、他の人と幸せになってね』と言われ、二人の関係は呆気なく終わりを告げた。
その後の太陽は大変だった。
暫くの間失恋のショックで部屋に塞ぎ込み、食事を摂る事も拒絶して痩せはじめ、そもそも生きる気力さえも失う程に太陽は落ち込んだ。
それもそうだ。
相手は小さい頃から好きだった幼馴染で、同じ時を刻んだ最愛の彼女だったのだから。
何度も死のうと自殺を試みた。だが、やはり小心者で臆病の太陽は死ぬのが怖くて今も生きている。
そして、卒業式を終えてから二週間が過ぎ、高校の入学式が差し迫った頃。
太陽はこのままでは駄目だと、このままでは両親や友達に迷惑がかかると思い、部屋を出た。
だが、他に好きな人が出来たと告げられ受けた心の傷が癒えるはずもなく、太陽を大きく変える起因になったのに違いない。
太陽はうじうじしていた昔の自分を思い出し、恥ずかしさと怒りで自身の金髪の髪を掻き乱す。
現在の太陽は金髪に耳にピアスと、普通の高校生からすると客観的に不良と思える外見をしている。
だが、中学までの太陽はお世辞にも普通の冴えない黒髪の真面目な生徒だった。
だが、光に振られ、失恋にケジメと一区切り付けようと、今も光に捨てないでくれと縋る自分を捨てようと、高校を入学を期に大幅なイメチェンを施したのだ。
それもこれも。
全てのあの卒業式から大きく歯車を歪ませたから。
そして、その時太陽は否応なしでも気づかされたのだ。
――――永遠に続く愛なんて、どこにもないのだ、と……。
「そう言えば、お前。最近バンドを始めたんだってな? 動画見たぞ」
「……そうなんだ。けど、ヒドイよね。私達の演奏……。見てくれてありがとう」
互いに顔を合わせずに会話をして、太陽は鼻を鳴らす。
「お前と千絵は下手だが、他の奴らは上手えよ。なんで元陸上のお前がバンドを始めたのかは知らないが。まあ、精々頑張って好きな人に振り向いてもらえるように頑張るんだな」
皮肉に嘲笑をして、太陽は光に背を向けながら歩き出す。
「(完全に終わったな……)」
太陽は元々人に悪口を言える程に心が強い方ではない。
相手が一番の嫌いな相手だからと言って、言い過ぎたのではと心臓を締め付ける。
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