ATM~それが私の生きる意味~

本屋綴@バーチャル小説家&Vtuber

幸香との出会い

「……久しぶり。こんなところで会うなんて思わなかった」

 幸香は驚いた表情でいった。

「……私もだよ」
「ここにいるってことは、恵未もアイドルになったってこと?」
「……うん。まだデビューはしてないけどね」
「そうなんだ」

 恵未の言葉を聞いた幸香は、喜びに満ちた表情を見せた。

「私はスカウトされたのに、なんで恵未はスカウトされなかったんだろうってずっと思ってた。でも、恵未がこうしてアイドルになることができたなんて、とても嬉しいよ」
「そんなこと……」
「ううん。本当にうれしい。同じ事務所ではないけど、お互い頑張っていきましょうね」

 幸香が右手を差し出す。
 恵未は少し戸惑いながらも、その手を強く握った。

「そちらの三人は同じ事務所のメンバー?」
「うん。私とユニットを組むことになってるの。ユニット名はATM」
「A、ATM……。なかなかインパクトのある名前ね」

 ほめるところを探すかのように言葉を搾り出した幸香。
 幸香はクロナたち三人のもとに行き、

「初めまして。私は紺野幸香です」
「あ、初めまして。私はクロナです。一応ATMのリーダーをやっています」
「クロナちゃんね、よろしく。恵未と一緒にユニットを組んでくれてありがとう」
「いえ、そんな。むしろ私たちが恵未ちゃんに助けられているので」

 クロナは照れ笑いを浮かべた。
 そんなクロナを、幸香はじっと見据えていた。

「……」
「あ、あの、何か……?」
「あ、いえ、何でもないの。ただ、どこかで見たことがあるような気がしたから」

 幸香は頭を捻らせている。

「……なら、見間違いですね。私は幸香ちゃんに初めて会いましたから」
「……そっか。ごめんね。あと、私に敬語は使わなくていいよ。年だって、そんなに離れてないだろうし」
「でも、芸能界では先輩だから……」
「そんなこと、どうでもいいのに」

 幸香はクスクスと笑った。

「そちらの二人の名前も聞いてもいいかな」
「あ、私は新屋彩希。よろしくね」
「私は天才美少女、錠本時雨だよ☆よ・ろ・し・くっ」
「ええ、よろしくね。もう次の仕事が入ってるから、挨拶は次の機会にさせてもらうね」

 最後に幸香は恵未を見て、

「じゃあね、恵未。まずは、私のところまで来て。そしたら、話したいことがあるから」
「え……」
「ATMの皆さん、またね!」

 幸香は手を振りながら駆け足で去っていった。



「まさか、こんなところで会えるなんて思わなかったな」

 駆け足で去る幸香を見ながら、恵未は呟いた。

「意外といい子だったな。トップアイドルは傲慢かと思っていたんだが」
「幸香はストイックで有名だからね。努力することを何よりも好むし、真面目に頑張っている人には誠実に対応する子だよ」
「ますます憧れちゃうなあ……」

 クロナは目をキラキラ光らせている。

「……」
「時雨? どうしたの」

 幸香が去った方向をじっと見つめる時雨を、彩希が心配そうに尋ねた。

「……ううん。何でもない」

 いつもの作ったキャラではなく、冷静に答える時雨。

「何か、懐かしい気持ちになっただけ」
「え、何で?」
「わからない。何でだろう?」

 当の時雨本人もわかっていないようだ。

「それにしても、『私のところまで来て』ってどういう意味だろう」

 恵未が幸香の言葉に疑問を抱いた。

「物理的な意味じゃないよね」
「多分、地位のことじゃないか?」

 信二が四人に向けて言う。

「言うまでもなく、紺野幸香はトップアイドルだ。だから、自分と同じくらいの人気や実力まで登ってこい、ってことなんじゃ」
「なるほど……」
「こりゃ、でかい目標を本人からもらったな」

 信二が四人を焚き付けるような言葉を放つ。

「……頑張ろう。目標と言わず、追い抜くつもりでいかなきゃ」

 クロナは大きな決意を小さい声で呟いた。

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