皇国の守護神・青の一族 ~混族という蔑称で呼ばれる男から始まる伝説~
取り調べは王の部屋
「あ、ギュールス! 何か、この人たち急に出てきて……。あなたは大丈夫だった? それと……これは一体どういうこと?」
「ギュールスさん……あ、ニューロス王……いかがなされました? ってそちらの方は……?」
王の部屋に先に戻ってきたギュールスを見て、ミラノスが傍に駆け寄ってきた。
自分のことよりもギュールスの身を案ずるが、そのあとについてきた親衛隊とニューロス、そして初めて見る研究員達の姿を見て、事態を把握できずに混乱している。
ヘミナリアも夫であり王であるニューロスを心配するが、普段とは違う様子に戸惑い、そしてその後に続くその研究員達について言及する。
「その前にニューロス王、あなたから軍部へ通達してください。どんなことがこの国に起こっても非常事態ではなく、通常勤務から離れないようにと。ロワーナ王女、彼らはオワサワール皇国の兵なのでしょう? おそらくこの国を包囲もしていることでしょう。ここの国軍が決起することがなければ穏便に事が済むはず」
ニューロスはギュールスの言うことに素直に従い、これでひとまずこの国とその周辺国に訪れるかもしれない危機は去った。
「一体……ニューロス王の様子も変ですし、何が起こったのです? 説明なさい、ギュールス」
いつもは穏やかなヘミナリアも、ギュールスには厳しい言葉を投げつける。
ミラノスはその間を取り持とうとするが、やはりギュールスへの不安と疑惑がその心配そうな表情に複雑に混ざっている。
「王妃、そして我が妻ミラノス……その実態は妻とは言い切れないかもしれない。お前はそのつもりでいたかもしれないが、俺はずっと偽り続けてきたんだからな。だから二人には、俺から謝罪するのが当然だと思ってるだろう。だが俺には……」
片づけが終わっていない夕食があるテーブルの上。
かなり時間は経っているが、そこにある飲みかけのお茶を飲み、口の中を潤す。
「やはりここは俺の居場所じゃない。ずっとそう思い続けていた……」
「ギュールス……。すべてを語っていただけませんか? 今まで何度も私はあなたに尋ねてきました。ですが、返ってくる答えはどれも大したものではありませんでした。母はもちろん、彼女達も、すべてを話してくれるまで納得はしないはずです」
縋る思いでギュールスに話しかけるミラノス。
しかしその一途に見つめる彼女の瞳は力が宿っている。
彼の口から語る内容によっては、ギュールスには温厚な彼女も、どうしようもない怒りの感情も込み上げてくるだろう。
話を聞くまではその思いも我慢して、最後まで話を聞く石をギュールスに伝えた。
ヘミナリアもロワーナも、ミラノスの言葉に黙って頷く。
「……みんなが俺の話に最初から付き合ってくれるなら。その前にミラノス、お茶、淹れ直してくれないか。流石にこれまでのことを考えるとな……」
椅子に座って力なく後ろに重心をかけるギュールスは顔を宙に向け、そのまま静かに目を閉じる。
新しいお茶がギュールスの前に置かれる。
ゆっくりと目を開け、ティカップを手に取り小さく一啜り。
「……三か月くらい前か? 半年前か? いろいろあって時間の感覚が分からなくなってきてるな。……王妃、ミラノス。この国の陸続きになってる国で、どこの国からもその力に依存することなく成り立っている国は知っているか?」
「すぐそばならガーランド、よね? あなたがここに来る前にいたとこ……」
なぜギュールスがガーランド王国にいたのか。何のためにそこにいたのか。
いろいろと問いただしたいロワーナだが、一通り話し終えるまでは、まずは彼の話を聞くことにする。
「この国で魔族の研究をしていると聞いた。……彼女から話は聞いたか? 俺がロワーナ王女の国で、彼女の近衛兵部隊に所属していたこと」
ヘミナリアは驚くが、ミラノスは黙って頷く。
「ミラノス、あなた……」
「元々はオワサワールで冒険者業をしてたんですよ。ですが御覧の通り『混族』でしたから、この国とは正反対の扱いを受けてました。当時近衛兵部隊の隊長だったロワーナ王女と、たまたま街中で出くわしましてね」
ヘミナリアからミラノスにとがめる言葉を遮りながら、細かい部分は端折りつつ、ギュールスは話を続ける。
住民達の命を無駄に落とし、食し、弄ぶ魔族に向かい、誰もが憤り、憎み、そして怒りを向ける。
それはギュールスに対しても同じであるが、これまではそんな話はヘミナリアもミラノスも何度も聞いていた。
だが、研究室で見せたギュールスの新たな能力である、目から射出する映像も加えると、二人は口に手を当てて息をのむ。
彼が体験したことを第三者の目線からの映像。
「自分に向けられたというより、自分の半身である魔族に向けられたものですからね。異常に見えるかもしれません。ですが健全な精神ですよ。家族、身内、仲間をなぶり殺しにされりゃそんな感情が爆発するのも当然」
「でも……話に聞いていたけどこんな……そんなことになった原因は、あなたのせいじゃないでしょう?!」
私が守っていた。守り切っていた。
そんな思いがミラノスの中で重ねられていく。
研究室でも見せた、傭兵に背中を斬り付けられたギュールスの姿。
他にも、背中を普通ではない火でエルフに焼かれているギュールス。
街中で取り押さえれられている様子。
被害者はギュールスだが、その映像の内容の問題点はそこではない。
「じゃあ誰のせいだ? 俺の背中を斬り付けた傭兵か? エルフの子供を守ろうとした母親か? ロワーナ王女の呼びかけに俺を取り押さえた町の住民か? ……魔族なんだよ。その魔族の研究をここで行われている噂を聞いてな」
しかし残念ながら、そんな噂も、その事実も二人には知らされていなかった。
「……俺が背中から襲われたときにな、あの後、魔族を操る魔術師が発見された。調査の結果、この国の魔術師であると判明した」
ロワーナからもその経緯の話が出た。
レンドレスへの疑惑はあったが、先入観を持って調査すると、偏った結果が出る。
中立的な立場から調査を進めるようにと厳命された調査の結果である。
「指示を出した者の立場や意図は不明だが、魔族をある程度操れる者がレンドレス共和国にいたということは証明された」
ヘミナリアはニューロスのそばに移動しようとしたが、ギュールスが止める。
確認などはすべての話が終わってからでないと、物事の進行が遅くなる。
ギュールスは一息入れてから、その後のことを語り始めた。
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