皇国の守護神・青の一族 ~混族という蔑称で呼ばれる男から始まる伝説~
交差点
ロワーナとリューゴの交流が始まってから、その回数は次第に数え切れなくなっていく。
ロワーナにとっては、婚約までの話。しかも政略であるが、リューゴの方はまんざらでもなく、后として迎え入れる体勢が整えられていった。
そんなことばかり話が進んでいくと、両国内でめでたいムードになるはずが、やはりそれに水を差す事件が起きる。
そんな両国の都合などお構いなしに現れる魔族。
その後も何度かガーランド国内で二人は会うことにするが、その日に丁度その場所付近で魔族が出現した。
「全員戦闘……いや、リューゴ皇太子とロワーナ王女を護衛体勢! そのままこの場から退避!」
「親衛隊の皆さん、申し訳ありません! お二人をお願いします! 退避先は真っすぐ向こうの方向へ! 我々は付近の住民を避難させます! 魔族への攻勢は我々の攻撃隊が向かいますので!」
リューゴ皇太子の護衛部隊も加わり、両国共同での避難行動に移った。
魔族はやはり一般に知られない種族。
エノーラ達は、皇国に出現する魔族と比べて第二級クラスと想定する。
大きな黒い球体。その物質は不明。
その左右両側にカマキリの両腕がついたような姿。それが二体。
魔族討伐はガーランド王国の攻撃部隊に委ね、二人は馬車に乗り、親衛隊はほかの馬車に分乗。
ロワーナ達が乗る馬車を守るように囲みつつ、その場から急いで走り去った。
「……この国でも、あのような魔族が?」
「ええ。最近は出現するペースが多いようです。そして見慣れているバンパイヤやスケルトン、死霊の出現率は減っているようなんです」
リューゴの話を聞き、やや首を傾げた。
国王のラッドンは、レンドレスの飛び地があるらしい話を知っている。
しかしリューゴからはその様子が感じられない。
飛び地の存在を知らされていない可能性はある。
余計なことを口にするのは得策ではないと判断し、ただ考え込むふりをする。
ガーランド王国の王宮や地方に点在する宮殿は、魔族の襲撃の避難場所にも使われている。
ロワーナとリューゴが会う場所は、いつもその宮殿の近くにしている。
何かの災害がが起きた場合に備えてということだが、そんな普段の心がけが我が身と来賓を安全に導くことが出来た格好となった。
宮殿にも衛兵や軍隊がいる。
彼らも防戦に備えるが、ロワーナも、そしてこの国も初めての体験をすることにる。
「リューゴ殿下! ご報告申し上げます! 魔族が消えました!」
「消えた?」
報告を受けたリューゴは、そう言うことがあり得るのか? と問いかける目でロワーナを見る。
ロワーナも魔族が突然消えるなど聞いたことがない。
「……お前達が攻撃した効果じゃないのか?」
「いえ! 攻撃する前のことです。魔族は何のダメージも負っていませんでした!」
リューゴはしばらく思案する。
そして指令を出す。
再度出現したときに先手を取れるように態勢を続ける。
付近の住民達は避難したまま。
丸一日過ぎたらば付近の探索。以上なしなら警戒態勢解除。
その指示を受け、報告した兵は全部隊に通達する。
「攻撃を受けて退散というのは何度かあったけど、あまり……」
そこまで言いかけて思い出した。
大量のスケルトンが一気に消えてしまったことを。
魔族を操る魔術師がいる。
そしてこの国には、レンドレスの飛び地が存在する。
辺りを探索したくても、今の立場ではとても無理。それは親衛隊とて同じこと。
ガーランドの攻撃部隊は、リューゴの指示通りに動くだけ。
ロワーナはもどかしい気持ちになるが、ここはこらえるしかない。
いずれ魔族が消えたということは、魔術師が倒れたかいなくなったか。
その推測の結論を出すのが精一杯である。
周りの様子が落ち着いたのを見て、ロワーナはダメ元で辺りの探索の協力を進言するが、リューゴからは大切な来賓にそんな真似をすることは出来ないと拒否された。
しかし彼の様子からすれば、敵対国の飛び地が自分の国に存在するという話は知らないと見ていい。
王家の内部で何かの事情があるのだろうが、そこまで関わる必要はない。
婚約止まりの前提の付き合いである。深くは介入することはできない。
そしてこの宮殿に、国王からの護衛部隊が到着した。
「ロワーナ姫! リューゴ殿下! ご無事ですか!」
国王からの命を受け、護衛部隊単独で救助に来たとのこと。
非常事態故に、今回二人はここで別れることになる。
ロワーナは護衛部隊に親衛隊ごと守られながら無事に帰国。
リューゴも王宮に帰還となった。
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