皇国の守護神・青の一族 ~混族という蔑称で呼ばれる男から始まる伝説~

網野ホウ

変わり始める流れ その3


 ロワーナの言う通り、その三日後には近衛兵師団全員が、その兵科の解散の情報が行き渡る。
 直接団長から聞いたために邪推する者はいない。
 ただ、解散からいきなり親衛隊結成というのも難しい話。
 まずは第七部隊と第六部隊がほかの兵科に人事異動となった。
 そして第二部隊が解散と同時に親衛隊に新規結成。
 第一部隊を先に親衛隊にすると、巡回部隊からの出動要請で安定した戦力を派兵することが難しくなるためだ。

 それでも緊急出動はなく、近衛兵師団の解散が順次行われた。
 結局第一部隊の解散は最後となる。

「ギュールスはどうなるんだろうね」

「団長はあまり話したがらなかったな。まさか解雇……」

「なくはないと思うよ? だって婚約する相手が、ただの親衛隊であっても団長のそばに他の男性がまとわりついてたらさぁ……」

「……容姿はともかく、中身も大事なわけだし、それを考えると、私も……」

「え? ケイナ、ひょっとして狙ってたの?」

「ダメだよー、ケイナちゃん。私が一番最初に狙ってたんだからー」

「メイファ……。確かにわたしとあなたしか傭兵時代の彼を知らないわけだけど……」

 第一部隊のメンバー全員で、ギュールスのことを話題にあげている。
 本人がそこにいたらどう反応するだろうかと思う者もいる。

 しかし彼はいまだに入院中。
 彼女らは交代で毎日見舞いを続けていた。

「さて、今日は誰が行くんだっけ? 当番がいなけりゃあたしが行こっかなー」

「メイファ、出し抜くのは止めろ。今日はナルアとエリンとアイミじゃなかったか?」

「でも軍部もいろいろ改編してて、巡回部隊も強化されてるじゃない? 一人くらいプラスしてもいいじゃない」

 エノーラはやれやれと肩をすくめる。
 第一部隊もそろそろ解散し、すぐ親衛隊に配属になると思われる。
 何人かはギュールスの予見と同じ意見を持っていた。
 婚約の身となる以上他の男性を傍に置くのは難しいということを。
 エノーラも深刻に考えていた。
 せっかくの人材を手放すことになりかねない。
 上層部からは特に何も通達はなし。
 ギュールスの性格だと、ひょっとしたら突然姿を消すかもしれない。

 楽しそうに病院に見舞うメイファも、同じ心配をしていた。
 姿を消そうと病室を出るその場に居合わせる者が三人より四人の方が難なく捕獲できるだろう。
 ギュールスの様子を見に行くのが楽しいという気持ちはあったが、そんなことも考えていた。

 しかしギュールスが一枚上手だった。

 四人が病室に入ると誰もいない。
 トイレかリハビリかと誰もが思ったが、テーブルの上に一通の封筒が置かれていた。

「何これ……。辞表……。辞表?!」

「ギュールスの名前と宛名が団長! メイファさん! これって!」

「ちょっ! 団長にはあたしが連絡する! エリンとアイミは辺り探して!」

「私看護師さんに連絡してくる!」

「うん! ナルア、お願い! 団長―っ! 早く出てーっ!」

 俄かに慌ただしくなるその階。
 何とかロワーナと連絡が繋がり、事の詳細を伝えるメイファ。

 しばらくして駆け付けたロワーナは、メイファから辞表を受け取る。

「……一身上の都合により……」

「……んぁあんのバカッ!」

「……何か心当たりはありませんか? 団長」

 ロワーナはナルアの問いには何も答えず、その手紙の短い文を遠い目で見つめ続けるだけ。

「ナルアさーん! メイファさーん! って団長、いらしてたんですか! あ、看護師さんから、男子トイレのごみ箱から大量の包帯が捨てられてて」

「……ギュールスのもの、か」

 ロワーナの呟きに、二人は頷く。

「……守る約束をしてくれた。だがそばにいなくても守ることは出来る、だそうだ」

 四人はロワーナの言葉の意味を考える。
 しかしギュールスの行く先の手掛かりにはなりはしない。
 いくら考えても、むなしく時間が過ぎていくのみであった。

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