皇国の守護神・青の一族 ~混族という蔑称で呼ばれる男から始まる伝説~
近衛兵のシルフ達 任務前 第一部隊
第一部隊が搭乗した、移送部隊の飛竜が到着する。
その場所は、団長室での指示通りの場所。ミニアム辺境国の海岸の西端が見える林の中。
エノーラから順番に飛竜から降り、第六部隊と合流。
第六部隊の全員は緊張を露わにしつつも、第一部隊との合流で安堵の表情を見せた。
「すまん。到着が遅れたか?」
「いえ、エノーラ一士。要請に応じてくださり、有難く思います」
第六部隊の隊長と思われる者がエノーラに答える。
「うむ。で、目標はあの二体、だな?」
「はい。ただの巨大生物かと思いましたが、魔力が伴っていたのが判明したので、活動が活発化してからでは遅いと」
いい判断だ。
エノーラはそう返事をした後、飛竜から降りた全員にその確認を促す。
第六部隊の面々は、そんな彼女たちを見て必要以上の緊張感から解き放たれた。
しかし、最後の一人を見て全員が険しい顔になる。
「一つ聞いてよろしいでしょうか? エノーラ一士」
「なんだ?」
「彼は……何者です? ……魔族の者ではありませんか。……『混族』ですよね?」
最後の一言に語意を強めるような力を籠める。
当然それはギュールスにも聞こえた。
踵を返し、それを口にした第六部隊の方に向かう。
「おい、ギュールス」
「申し遅れました。第一部隊に配属になりました、ギュールス=ボールドと言います」
反論でもするのかとエノーラは予想した。
戦場を前にして仲違いは避けたい彼女はギュールスを抑えようとしたがその予想に反して、ギュールスは手短な挨拶をしたあと軽くお辞儀をする。
しかし姿勢を戻した彼の目には、またも力を失ったような目つきになっている。
傭兵時代ではいつもの顔なのだろうとは思う。
それでもやるべき仕事はやり続けてきた報告は、エノーラも受けている。
しかし彼にとって決して良くない環境になってしまう。
その場から立ち去らせ、仲間と共に行動させるのが最善と判断した。
「ギュールス、皆の元へ」
「『混族』ごときがなぜ第一部隊と共に行動して」
「控えろ、ヨーナ四士! この編成は元帥からの辞令だぞ? まさか上からの命令をただ受けるだけしかできない第一部隊と愚弄する気ではあるまいな?」
「エノーラさん」
階級で呼ばず、さん付けで呼ぶギュールスにさらに不快な思いを現す第六部隊の、ヨーナと呼ばれた近衛兵。
「ギュールス、お前は……」
「みんなの所に戻っていいですか?」
発言を先回りされたエノーラは拍子抜けになった。
「う、うむ。打ち合わせは若干変更するつもりだ。分かるな?」
ギュールスは無言で頷くと、第一部隊の方に駆け出した。
ヨーナと呼ばれた近衛兵は、完全に会話がギュールスには聞こえないことを確信してからエノーラに声を上げる。
「エノーラ一士。我々は誇りある近衛兵師団の一員です」
「うむ、それで?」
「その誇りはまず、我々は国と皇族に忠誠をつくし、そしてシルフ族であることにも誇りを持っています」
近衛兵師団に所属する者の共通点である。
それはエノーラも否定はしない。
「ですが、汚れあるあの輩が我々と同じというのは、これは我々シルフ族の誇りに傷を付ける深刻な事案ではありませんか!」
「……ヨーナ四士。誇りばかり主張するようでは、国にとってはただの飾りにしかならん」
「エノーラ一士!」
「彼が近衛兵に登用されたのは結果論だ。だが、我々の失態の産物でもある」
「我々に失態など……!」
「うむ、同じ失敗は繰り返すべきではなく、それは我々も実践している。故に同じ失態は犯さない。しかしそれでもそれはあった。でなければそれを学習して次に生かすという行動自体もないぞ? そしてその現実を正面から受け止める強さもなければ、我々の存在に意義はない」
「我々は、シルフ族の中でも剛健な者であるという」
「それは、この国の安泰を守ることが出来たという実績で示せ。それが出来なかった事実があったからこそ、彼はここにいる。……今は魔族の討伐に集中しろ。我々第一部隊から第三部隊がここに集まる。それを待って団長から指示が出る。この場で話題に出すことは以上だ」
エノーラがその場から去ると、ヨーナの元に他の第六部隊のメンバーが集まる。
「あの青い奴、『混族』でしょ? なんでいるの?」
「魔族と一緒に戦う? 冗談じゃないわ!」
口々に『混族』の批判をする第六部隊。
しかしその目標に届かない口撃は、出撃要請を受けた三つの部隊が到着して集合したときには影を潜めた。
四部隊が揃い、ロワーナの前で整列する。
「魔族二体が活発になる前に仕留めることを最善とする。何か意見がある者は」
真っ先に手を上げた第六部隊のヨーナ。
発言を許された直後に出た言葉は。
「そこの『混族』と一緒に作戦を実行するなど我慢なりません! その輩に至急この場から退去命令を出してください!」
「退去させなければならない理由を述べよ。彼一人で三桁の魔族を退けた器量を持つ者を外すには、それなりの理由が必要だ」
第六部隊はざわつく。
近衛兵一人で大軍を撃退したという話は聞いたが、全員が『混族』とののしった者とは、第六部隊の全員は思いもしなかった。
「だ、だからといって、『混族』を入れなければならないという理由には」
「理由にはなる。彼がいなければ今回の要請に応じる部隊はいなかっただろう。できたとしても万全な体勢をとることは出来なかった。このあとすぐに他の部隊から要請が来ることも考えられる。全部隊が無駄な消耗を避けられる。これが理由だ」
第六部隊の全員は、心の底から悔しそうな表情をしている。
「団長。我々から作戦の案が出ました」
発言元はエノーラである。
移動中に立てた作戦とその理由をロワーナに伝えた。
しかしギュールスはもう一体に対処する計画は独断で変更。第一部隊の後詰役とした。
その突然の変更にも、第一部隊のほかのメンバーからは出ない。
第六部隊の反応を見れば、むしろエノーラの機転に流石と感心するばかり。
だがしかし。
「ギュールスの役割だが、第一部隊のみならず、もう一体の方の後詰も受け持ってもらう。第一部隊が当たる魔物討伐完了した時点でも待機状態なら、後詰ではなく参戦し討伐に当たるように」
ロワーナからの指示は、第一部隊の考えた元々の作戦と似たようなものであった。
第二、第三部隊には特に意義はない。彼女達も第一部隊動揺、ギュールスの無双ぶりの跡を目の当たりにしたのだから。
ロワーナと第六部隊はギュールスを見る。
第二部隊と第三部隊がいてくれれば、こいつの力は必要ない。
第六部隊は、軽蔑を伴うそんな思いを込めた視線をギュールスに向けた。
彼女らから見たギュールスは、ただ言われるがままを遂行する兵士。そんな風に見えた。
しかしロワーナにはエノーラが感じた様子と同じ様に、第一部隊に来たときのような覇気のない表情が気にかかった。
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