皇国の守護神・青の一族 ~混族という蔑称で呼ばれる男から始まる伝説~
気が休まらない休養日 本部の道具屋にて
エノーラからの指示通り、ギュールスは先に道具屋に向かうことにした。
今回は本部の施設内の道具屋に足を運んだ。ライザラールの外れのいつも行くウォルト=ウァレッツ道具店に行きたいところだが、効果が不明。つまり思った通りの効果が出るかどうかは分からない。とは言え品揃えはこっちの方が格段に違う。
効果の不明を理由にして、私情を優先していい立場ではなくなったことも理解しているギュールスは、訓練場もさっきまでいたところ一か所ばかりではなく、道具の効果を試すことが出来る場所もあることを教わった。
そこで効果を確認した後で、街外れの道具屋に行くことにした。
「あいつしつこいのよねー」
「でもあの記者ってあの新聞社に入って二年目とか言ってたような」
「はぁ……」
ギュールスは、付き添ってくれているメイファとティルの愚痴を聞いても何のことやらさっぱり理解できない。
「……ひょっとして、新聞って見たことないの?」
「……何です? それ。食べられるんですか?」
「食い物じゃないわよ……」
一から説明しなければならないとは思わなかった二人は、これまでの愚痴が空回りだったことに肩を落とす。
「っと、そう言えば道具屋でも扱ってたんだっけ。説明するより実物見た方が早いわね。これよ、これ」
メイファは道具屋の店頭に置かれている新聞の販売専用の籠から一部つまみ上げる。
「『ニヨール宿場新報』よ。この国で一番中立な記事を掲載している新聞として、国が認めてるからここでも売られてるの」
「あぁ、その紙の束のことだったのか」
「「紙の束?」」
奇妙な表現をする。
怪訝な顔をギュールスに向けた二人。
「洟をかむときに使ったやつ。道端で時々見つけるんです。くしゃくしゃにされて転がってるの」
「は、鼻紙代わりって」
「ぷっ。お、可笑しすぎるっ」
メイファとティルは周りの目を気にせずに声をあげて笑う。
「……草の葉っぱとかだと、鼻がやられるときがあるんですよ。自分で治せるけど面倒だから」
鼻紙を買うような金銭の余裕はなかった。
あったとしても、ギュールスに物を売ってくれる店自体珍しい。
生きるための知恵を笑われたのかとややいじけた顔をするが、二人はそうではないと否定する。
「あんなに必死になってニュース探してた結果が鼻紙にされるって、滑稽すぎるからっ。あははは」
「いやいや。頑張ってる姿は認めるけど、報われないにもほどがあるっ。あははは」
嘲笑われてもそんな生き方しか許されてこなかったギュールスには、何となく自分が笑われているような気がした。
「あのね……団長のこの後の予定の一つ、聞いてたわよね?」
「ニヨール新報社に出かける予定もあったの、分かってるよね?」
「……あ、なんかそんな予定があったような気がする」
「気がするってあんた……」
早朝の集合時間に、その時点で分かっているスケジュールを全員で確認するようにしている。
しかし見慣れない言葉がたくさんあるギュールスにとっては、分からないところはすぐに調べられる状況ではないのでその部分は読み流す。
そのうちそのことが記憶からすぐに消えるので、ときどき忘れていることもある。
「で、取材には応じない、断る、嫌いって話じゃなくて、元々取材を受ける予定があったのよ。なのにあの記者が先回りして取材に来たってわけ」
「その事彼女に言えばよかったんじゃ」
「おそらく彼女はすぐ会社に戻るでしょうね。でもそこでおそらく上司とひと悶着あったんじゃない? その愚痴延々と聞かされて、取材の時間が無駄になったって団長が以前こぼしてた」
「それにもし彼女の取材受けてたら、取材の約束を取り付けた上司の面目丸つぶれでしょ?」
必死になっている姿を笑う。
けれどもギュールスの場合は、その方法しか知らないから。
彼女の場合は人を出し抜こう、物事の筋を通さずに自分の都合を強引に押し通そうとする姿。
「言ってみりゃ、彼女の方が横暴なのよ。彼女の上司だって団長に散々頭下げてたこともあったし。誠心誠意込めた上でいろいろと交渉してきて、それがようやく実を結んだの。それを横取りしようとしてるのが彼女ってわけ」
ギュールスが、頑張って働く姿に重ね合わせるその相手は彼女ではなく彼女の上司。
彼女は、今まで彼を虐げてきた周りの者達と同じ立場であることを理解した。
「頑張る方向が違うのよね」
「例えば素早い移動力でエノーラと張り合おうと頑張ったって、とても無理。そんな感じ」
みんな一様に似たような力を持っているのではないことをギュールスは初めて知る。
「個性も大事だし、その個性を互いに生かすのが……っと」
「あ、すいませ……って、し、失礼しました、メイファ一士!」
店の中に入ろうとしたメイファは、中から出てくる一人の女性と肩同士でぶつかる。
「っと、いや、歓談しながら歩いていた私達にも非はあるから、そこまで畏まらなくてもいいよ、えーと、ラッフィン五士、だな?」
ラッフィンと呼ばれた女性も、メイファとティルからすれば見劣りするも似たような防具を身に付けている。
「は、はいっ。では失礼します!」
緊張感がありありと見える彼女は、メイファとティルに向かって敬礼をする。
その敬礼を解いてその場から走り去ったが、その間一瞬だけギュールスと目が合った。
その顔はその時だけ、感情を露わにしてギュールスを睨みつけていた。
「えーと、……彼女は……」
「近衛兵師団の第七部隊所属ね。私達近衛兵は一等から五等まで区分されてるの。一等近衛兵はエノーラと私とケイナとナルアだけ」
「第一部隊では、エリンとアイミと私が二等。第二部隊は全員二等で、第三は何人かは二等だけどあとは三等と」
第四部隊は全員が三等。第五部隊は三等と四等。第六が四等で第七が四等と五等の区分で編成されている。
しかしそんな区分の事よりも気になることがあった。
「俺の事、何か気に食わなかったのかな、と」
「新入りで男性、種族は別。それに……あ、ギュールスには区分つけられてないんじゃない?」
「言われてみればそうですね」
いずれ嫉妬か何かだろうから気にするほどの事ではない。
ギュールスはそう話題を切り上げられ、六十ページほどの新聞を突き出される。
昨夜の酒場では、支払いを全て受け持ったが、散財とまではいかないくらい手元に金が残っている。
とは言うものの、その金額に物を言わせてこの店で欲しい分全て買い求めるわけにはいかない。
その効果の確認に手間取ることは間違いなく、時間を無駄に費やすことも有り得る。
元素の力を持つ呪符全種をいくつかと爆薬を五個。そして新聞を一部買い求め、また街外れのウォルトの道具屋に向かった。
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