皇国の守護神・青の一族 ~混族という蔑称で呼ばれる男から始まる伝説~

網野ホウ

気が休まらない休養日

「それにしても……」

「そりゃ魔族全滅の瞬間を見てはいませんでしたから……」

「体質の特性を活かすと、立ち回りがこうまで役に立つとは思いませんでしたが……」

「期待……外れ、ですよねぇ」

 第一部隊のメンバーから、ギュールスの低評価が次々と出される。

 魔物討伐の出撃から帰還した翌日の訓練を行っている第一部隊。
 まずはギュールスの魔族の特性を活かした格闘術やその実力を測る意味で、一対一の武力と魔力を使った模擬戦を行っていたのだが、結果、このようなギュールスの有様である。

「だって魔族相手の方が簡単じゃないですか」

「簡単? 何が?」

「手加減しなくていいし、好きに暴れていいし、やり過ぎなんて言われることないですし」

 訓練で怪我をして、その影響で出撃や活動、日常に支障が出ることを恐れていたギュールスは、どうしても手加減してしまう。
 無理もない。
 帰還した翌日のスケジュールは、昼まで休養。午後は、体力が万全でないときに戦場に出ることになったときの戦術を練り、それを試す実戦の訓練。
 ギュールスの実力も知るいい機会ではあるが、その感想はこの評価である。

「そりゃ訓練で致命傷を受けるわけにはいかんが」

「じゃあ、ちょっと試しに……」

 体を休めていたギュールスはゆっくり立ち上がり、右腕を本来の腕からスライム上の鞭のような形状に変えた。
 そして力を蓄え、地面に全力の一撃を食らわす。
 軽く土埃が舞う。
 そして大小の石数個がはじけ飛ぶ。
 そのうちの大きめの石二個ほどが、六十メートル以上の高さがある天井に、弾道一直線で直撃。
 地面には、叩きつけた鞭状の腕が埋まるほど深い溝が出来ている。

「……おぉぅ……」

「半端ないね……」

 乳幼児の遊び相手をする大人が、その後で意外と疲れる原因と似ている。
 全力を出すことよりも、加減を考えた上、出し過ぎになりそうな力を抑え込むにも力が必要になる。
 結果として、ちょうどいい力加減になるが、出す力と抑える力を出す必要があるため、力の消費量も意外と多い。

 力の出しすぎによって仲間の体調に支障をきたすより、出力を控えめにして仲間の身に何事もなく訓練を終了させる方が大事とギュールスは判断。
 そしてこの評価となった。

「訓練よりも実戦派か」

「団長! お忙しいのではないのですか?」

「次の予定の移動の途中さ。どうだ? ギュールスとの連携は」

 新人の道の実力はまだ発揮されていないことはロワーナにも分かっている。
 帰還後の公的な予定までの休養期間は、彼女ら第一部隊の自主性に任せているが、全員一致でその目的での訓練の予定を組んだ。

 全員から大体の報告を受けたロワーナ。

「実戦向きということか」

「はい。我々も同じ見解です」

「俺もそう思います」

 さりげなくギュールスも口を挟む。
 それが滑稽だったのか、ロワーナは相好を崩す。

「自分で言うか。ふふ。まぁ昨日の今日だ。あまり無理するな」

「はい。でも俺は全く酒には手を付けてませんから平気ですが」

「「「「「「「そっちじゃないっ!」」」」」」」

 魔族の大軍を全滅させて戻ってきた翌日とは思えない第一部隊の一場面。
 そんな彼女たちを見て、つくづく頼もしい部下を持ったものだとロワーナは実感する。

「お、いたいた。こんちわー! 行き当たりばったりの取材に来ましたー!」

 彼女たちがいる訓練場は、傭兵として登録している冒険者達も自由に出入りできる数少ない施設の一つ。自己責任の上で一般の者達も立ち入りが許される、駐留本部内のごく一部のエリアである。
 その訓練場の扉が突然開き、そこから遠くに見える一団が近衛兵師団の一部隊と気付いた女性が一人駆け寄ってきた。

 四角い鞄を肩から下げた、眼鏡をかけたスーツ姿のその女性を姿を見たロワーナは、その顔から笑顔が消え、他のメンバーはうんざりした顔になる。

「お、まさかまさかの第一部隊、しかも新人さん付きで合えるとは思いませんでしたよ! 噂の『混……」

「侮辱する気か! 貴様っ!」

 その女性の言葉に即座に反応し、威嚇するロワーナ。
 ギュールスをかばうように、彼女の前に立ちはだかった。

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