皇国の守護神・青の一族 ~混族という蔑称で呼ばれる男から始まる伝説~
彼を迎え入れるために その1
ロワーナは、ギュールスを部屋で再度待機させ、一旦部屋を出る。間もなくして数名の部下を引き連れ再び待機室に入っていった。
駐留本部とは、国王直属の精鋭の兵達で結成されている近衛兵団か治安担当の国軍が持ち回りで宿泊しながら、普段は首都ニュールの治安を守るための拠点となる施設である。その本部を中心として、首都内の要所や各地域ごと、そして国内の主要都市ごとにも駐留支部として、同じ役割を果たす目的で設置されている。
駐留本部は、この世界には存在しない警察のような役割を果たすのだが、今の首都や国内各所でたびたび起きる魔族の襲撃を受けているときは、その対策本部として機能を発揮する。
支部は三棟か四棟の建物を有している。
兵士ばかりではなく事務や雑務担当の職員も所属している上、住民達の苦情を受け付ける窓口もあるため、意外と大所帯になっている。
しかし本部となると、いくつかの建物だけでは用を成さない。
広い敷地を有し、ちょっとした商店街のような施設まで構えている。もちろん兵士や職員専用で、一般人は絶対に立ち入ることは出来ない。そこで勤務する者達ももちろん国の役人扱いである。
ロワーナとその部下達に連れられたギュールスが向かった先は、本部内にある防具屋だった。
「『混族』特有の青い体だから、というわけではない。彼女らを見たまえ」
ロワーナはそう言いながら、改めて部下達の出で立ちをギュールスに見せた。
彼女らを初めて見た時と同じ、白銀の鎧に身を固めている。
上半身の装備には、華の模様が刻まれている。
「我々第一近衛兵団は他の兵団とは違い、メンバーは固定されている。他の兵団は時々改編のため、メンバーの入れ替えが行われるが我々は違う。そして別名、白薔薇隊と呼ばれている。強化された白銀の金属に薔薇の模様で白薔薇というわけだ」
「薔薇、ですか。まだ食べたことはないですね」
部下達はギュールスの感想を聞いてコケる。
「薔薇に栄養があるなどと、聞いたことがないぞ?」
大事なところはそこじゃない。
しかし上司、いや、国王の娘相手にそんな口は畏れ多くて利けるわけがない。
「それにそんな女性が身に付ける防具、体の形に合うわけがないじゃないですか」
「なぜ彼女らの防具をそのまま身に付ける発想が出てきたのか、不思議で仕方がないのだがな。男性用があったとしても、サイズはまちまちだ。種族によっても合わない物もある。そこで寸法を測りに来たというわけだ」
ギュールスは彼女の後ろをついて歩いているのだが、その距離がさらに離れる。
「えっと、この格好のままでもいいんですが」
きらびやかな防具を身にまとい、腰に帯剣している柄と鞘も、見事な金属の彫刻がなされている。
首都の中をこのメンバーがその格好で同じように歩いていたら、目にする者達全員が立ち止まって、その美しさに目を奪われるだろう。
しかしその感覚や価値観がもはや普通の者達とかなりかけ離れているギュールスは、それを見ても何も感じずにただついて歩いていたが、ロワーナからの説明を聞くやいなや、その歩幅は次第に狭くなっていく。
足が重い、気が重いといった風な表情。
彼女らに似た姿になったなら、その姿を見た者達全員から何をされるか分からない。
そんなギュールスの姿はいつもと変わらず、ところどころ破けたシャツの元々の白い色は見る影もない。小川でいつも手洗いをしているが、それで清潔を保てるわけもなく、全体的に黄ばんでいる。
部下達が彼を見て快く思えないのは、彼の素行や考え方のせいでもあるが、体以外の外見の影響もあるのだろう。
「曲がりなりにも我々の仲間になったのだ。同じような装備とまではいかないが、統一感のある物を身に付けてもらわねば困る」
「……まぁそれも処罰の一つというのであれば甘んじて受けますが……」
卑屈になる言葉がいちいち出るのも、皮肉に聞こえて癪に障らないでもないが、ロワーナ自身がカモフラージュのために駐留本部に呼び寄せた口実である。それについて注意するのも矛盾を感じさせる気がするので、ロワーナはあえて我慢する。
「ただ、今言った通り彼女らが身に付けている者は女性用だ。防具屋に見繕ってもらうのは男性用ではなくギュールス、お前の専用の装備だ。だから統一感ばかりではなく装備品の目的に沿ったものを作ってもらうが、それを踏まえた上での要望は聞き届けよう。何かあるのではないか?」
ロワーナに聞かれたギュールスは、足が完全に止まった。
今まで要望を聞いてくれる相手はいなかった。それを怪しんでいるというのもあるが、そんな経験がないため何を言っていいのか分からないでいるようだった。
「……報告にもあったが、たとえば……体を変化させる能力があるのだそうだな? 体全体を覆う装備だと、その能力が十分発揮できないのではないか? ……たとえばその能力でいろんなものを体に取り込んで溶かしたり、とか」
ロワーナの話を聞いたギュールスの表情は、一層暗くなった。
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