皇国の守護神・青の一族 ~混族という蔑称で呼ばれる男から始まる伝説~
出撃の後処理 幕間 その2
「それにしてもさ、刀傷の治療でこんなに長引くなんて思わなかった」
「痛みを与える魔術が組み込まれてる武器なんて初めて聞いた」
「まったくよね。って言うか、そんな魔法があるってのも初めて聞いた」
刀剣や飛び道具などの攻撃に、さらに四元素などの魔術が組み込まれている武器や防具は普通に存在する。
毒や麻痺などの、体調を崩す効果のある魔法も広く普及されているが、何のダメージもなく、直接五感に不快な感覚を与えるのみの魔法は、百戦錬磨の彼女達ですら見たこともない。
「俺もそうですが、けどそんな武器があったら手放したくはないですよ」
冒険者稼業は、その収入は水物である。
依頼を受けて達成しても、苦労の割には実入りがほとんどないこともある。
散々苦労するが、それをはるかに上回る報酬を手にすることもある。
しかしそんなことはほとんどない。
単独で仕事に取り掛かる冒険者もほとんどいない。
大金や高価な品物を手にすれば、仲間同士で山分けすることになる。
誰かが極端に羽振りが良くなることは、冒険者をしている限りはほぼあり得ない話である。
「まぁ自分の場合は参加手当てしかもらえませんでしたが」
傭兵時代ばかりではなく、それ以前の冒険者時代でも、『混族』の偏見は当然存在していた。
ギュールスの話はよその会話を耳にしたことだけ。
それでも生業としての冒険者業の情報は、彼女たちにとって貴重だった。
金銭や、道具作りの素材となる金属や宝石は、実はあまりトラブルの元にはならない。
ほぼ均等に山分けが出来、さらに功労が多い者には少ない者から分配しやすいためである。
ところが、武器や防具が見つかった時、使ってみて初めて判明する効果もある。
そこに羨んだり嫉妬したりという、チーム内のトラブルが発生することもある。
そして特別な武器や防具を手にした時には、換金する者はほとんどいない。
手にした金で手に入れられる物は、それよりも価値が低い物が多いからだ。
「不死系の魔族相手に、ダメージをそれほど与えず痛みを与える武器って、確かにあまり意味がないわね」
「けど生物系なら効果ありますよ。動きは止められるし、戦況を見て判断は出来るけど、体が言うこと聞かないからフラストレーション溜まるし」
冒険者同士が組むチームは、生き残りやすくする工夫のため、阿吽の呼吸で行動を起こすことが出来る者同士になることが多い。
つまり冒険者職のバランスは二の次三の次となる。
「魔法が使えない者ばかりの冒険者チームに、あんな武器があるのは有効ですし重要です。凶悪な武器だから没収するというのは酷な話です」
ギュールスは、自分に斬りかかってきた者を庇うつもりはない。だがそんな冒険者業の生活を目耳にしていると、生きていく上で必要な物を国が取り上げることで、国の活気が消えていく恐れまで予測できる
「道具には意思はない。使う者によって変わる、か」
ケイナの呟きはギュールスに、魔族の属性を持つ力についていつかロワーナから言われたことを思い出させた。
「いくら良いことを言っても、看護師さんからお目玉食らったあとじゃ様になりませんね」
エリンの余計な一言は、彼女自身にケイナから余分な一撃を食らう。
「ところで第一部隊の活動に参加出来なくなってすいません……」
「医者の話によれば、もうじき退院だろう?」
「特に出動はなかったよ。街中の警備巡回くらいだったから、ギュールスには逆に良かったんじゃない?」
スケルトン襲撃の時の傭兵部隊は全員静観していたことが、のちの調査で判明した。
つまり、『混族』が近衛兵達と一緒に行動していたという話も繁華街界隈では話題に上がりっぱなしということも考えられた。
事実警備中の近衛兵達を見て、何か話しかけようかという様子の冒険者達の数が今までになく多かった。
国軍への評判も良くない中で、もし話しかけられたとすればその話題は間違いなくギュールス中心になっていただろう。
そんな中で近衛兵師団第一部隊と共に街中の警備をして回るギュールスの姿を見られた日には、彼はどんな目にあわされるか分からないし、そんな傭兵達、冒険者達にどう対応していいかも分からない。
通常通りギュールスも任務に当たることが出来たなら、彼だけ別に行動させることは、身内から批判され、近衛兵全体の士気にまで影響を及ぼしかねなかった。
彼の入院という事情により、彼への処遇を考える時間がロワーナに与えられたとも言える。
そう考えるとこの入院は、いろんな意味で幸運な出来事となった。
「とは言っても割り当てられた任務は二回。その欠勤くらいは大したことはないさ。気にせず養生するんだな」
「ギュールスが感じた痛みってのも、検査で客観的にどれくらいのものかってのも分かったんだけど、傷の方が意外とほっとけなかったらしかったんだって。入院期間も適当な長さだったし、わざと入院を長引かせてるっていう批判はないよ。でもね……」
何か問題があるのだろうかと、次に来るであろうエリンの言葉にギュールスは身構える。
「女性へのプレゼントは、部外者よりも先に身内全員に配るべきだと思うんだ」
腕組みをしてうんうんと頷くケイナ。
気が抜けるが、戦闘に使える道具よりもアクセサリーを求めたがる同僚達に納得がいかない顔をするギュールス。
道具も使ったはずなのに、その効果は役に立てたかどうかの話は全くギュールスには届いていない。
「あ、うん。あれはすごく便利だったけどさぁ……」
「団長、髪飾りみたいに付けたんだよね、あれ。綺麗でさぁ……。私もあんなの、欲しいなーって……」
第一部隊は、瓢箪から駒。
ギュールスは、藪をつついて蛇を出す。
両者間には微妙な思いのすれ違いが生じている。
「えーと……」
「あの飾りをつけた団長を見て、みんな欲しがってたよ?」
「私達も、みんなからそう思われる格好は憧れてるししてみたいしね」
「つまり……」
「うん」
「退院して真っ先にする仕事は、それですか?」
「期待してるよ? ギュールス」
ケイナが最上の笑みをギュールスに向ける。
作ってみたい道具は後回しということになる。
ギュールスは確かに綺麗に作ったつもりではあったが、そこまでニーズがあるとは思いもしなかった。
だからみんながそこまで熱望しているとは思ってはおらず、それが不思議でならない。
「何と言うか……乙女心とか、女心も分かるようになろうね?」
「……食べられるキノコと食べられないキノコの見分け方が分かることの方が俺にとっては重要で……」
「あたしらはキノコ以下か」
…… …… ……
「ということで、みんなのアクセを作ってもらうことになりました」
ケイナとエリンが見舞いから戻っての報告で、第一部隊全員から歓声が上がる。
「でもキノコと比べられるのは屈辱だから、作ってもらった後でみんなでシめることにしましょう」
こうしてギュールスの道具作りの予約が決まったと同時に、受難も予約決定となった。
「痛みを与える魔術が組み込まれてる武器なんて初めて聞いた」
「まったくよね。って言うか、そんな魔法があるってのも初めて聞いた」
刀剣や飛び道具などの攻撃に、さらに四元素などの魔術が組み込まれている武器や防具は普通に存在する。
毒や麻痺などの、体調を崩す効果のある魔法も広く普及されているが、何のダメージもなく、直接五感に不快な感覚を与えるのみの魔法は、百戦錬磨の彼女達ですら見たこともない。
「俺もそうですが、けどそんな武器があったら手放したくはないですよ」
冒険者稼業は、その収入は水物である。
依頼を受けて達成しても、苦労の割には実入りがほとんどないこともある。
散々苦労するが、それをはるかに上回る報酬を手にすることもある。
しかしそんなことはほとんどない。
単独で仕事に取り掛かる冒険者もほとんどいない。
大金や高価な品物を手にすれば、仲間同士で山分けすることになる。
誰かが極端に羽振りが良くなることは、冒険者をしている限りはほぼあり得ない話である。
「まぁ自分の場合は参加手当てしかもらえませんでしたが」
傭兵時代ばかりではなく、それ以前の冒険者時代でも、『混族』の偏見は当然存在していた。
ギュールスの話はよその会話を耳にしたことだけ。
それでも生業としての冒険者業の情報は、彼女たちにとって貴重だった。
金銭や、道具作りの素材となる金属や宝石は、実はあまりトラブルの元にはならない。
ほぼ均等に山分けが出来、さらに功労が多い者には少ない者から分配しやすいためである。
ところが、武器や防具が見つかった時、使ってみて初めて判明する効果もある。
そこに羨んだり嫉妬したりという、チーム内のトラブルが発生することもある。
そして特別な武器や防具を手にした時には、換金する者はほとんどいない。
手にした金で手に入れられる物は、それよりも価値が低い物が多いからだ。
「不死系の魔族相手に、ダメージをそれほど与えず痛みを与える武器って、確かにあまり意味がないわね」
「けど生物系なら効果ありますよ。動きは止められるし、戦況を見て判断は出来るけど、体が言うこと聞かないからフラストレーション溜まるし」
冒険者同士が組むチームは、生き残りやすくする工夫のため、阿吽の呼吸で行動を起こすことが出来る者同士になることが多い。
つまり冒険者職のバランスは二の次三の次となる。
「魔法が使えない者ばかりの冒険者チームに、あんな武器があるのは有効ですし重要です。凶悪な武器だから没収するというのは酷な話です」
ギュールスは、自分に斬りかかってきた者を庇うつもりはない。だがそんな冒険者業の生活を目耳にしていると、生きていく上で必要な物を国が取り上げることで、国の活気が消えていく恐れまで予測できる
「道具には意思はない。使う者によって変わる、か」
ケイナの呟きはギュールスに、魔族の属性を持つ力についていつかロワーナから言われたことを思い出させた。
「いくら良いことを言っても、看護師さんからお目玉食らったあとじゃ様になりませんね」
エリンの余計な一言は、彼女自身にケイナから余分な一撃を食らう。
「ところで第一部隊の活動に参加出来なくなってすいません……」
「医者の話によれば、もうじき退院だろう?」
「特に出動はなかったよ。街中の警備巡回くらいだったから、ギュールスには逆に良かったんじゃない?」
スケルトン襲撃の時の傭兵部隊は全員静観していたことが、のちの調査で判明した。
つまり、『混族』が近衛兵達と一緒に行動していたという話も繁華街界隈では話題に上がりっぱなしということも考えられた。
事実警備中の近衛兵達を見て、何か話しかけようかという様子の冒険者達の数が今までになく多かった。
国軍への評判も良くない中で、もし話しかけられたとすればその話題は間違いなくギュールス中心になっていただろう。
そんな中で近衛兵師団第一部隊と共に街中の警備をして回るギュールスの姿を見られた日には、彼はどんな目にあわされるか分からないし、そんな傭兵達、冒険者達にどう対応していいかも分からない。
通常通りギュールスも任務に当たることが出来たなら、彼だけ別に行動させることは、身内から批判され、近衛兵全体の士気にまで影響を及ぼしかねなかった。
彼の入院という事情により、彼への処遇を考える時間がロワーナに与えられたとも言える。
そう考えるとこの入院は、いろんな意味で幸運な出来事となった。
「とは言っても割り当てられた任務は二回。その欠勤くらいは大したことはないさ。気にせず養生するんだな」
「ギュールスが感じた痛みってのも、検査で客観的にどれくらいのものかってのも分かったんだけど、傷の方が意外とほっとけなかったらしかったんだって。入院期間も適当な長さだったし、わざと入院を長引かせてるっていう批判はないよ。でもね……」
何か問題があるのだろうかと、次に来るであろうエリンの言葉にギュールスは身構える。
「女性へのプレゼントは、部外者よりも先に身内全員に配るべきだと思うんだ」
腕組みをしてうんうんと頷くケイナ。
気が抜けるが、戦闘に使える道具よりもアクセサリーを求めたがる同僚達に納得がいかない顔をするギュールス。
道具も使ったはずなのに、その効果は役に立てたかどうかの話は全くギュールスには届いていない。
「あ、うん。あれはすごく便利だったけどさぁ……」
「団長、髪飾りみたいに付けたんだよね、あれ。綺麗でさぁ……。私もあんなの、欲しいなーって……」
第一部隊は、瓢箪から駒。
ギュールスは、藪をつついて蛇を出す。
両者間には微妙な思いのすれ違いが生じている。
「えーと……」
「あの飾りをつけた団長を見て、みんな欲しがってたよ?」
「私達も、みんなからそう思われる格好は憧れてるししてみたいしね」
「つまり……」
「うん」
「退院して真っ先にする仕事は、それですか?」
「期待してるよ? ギュールス」
ケイナが最上の笑みをギュールスに向ける。
作ってみたい道具は後回しということになる。
ギュールスは確かに綺麗に作ったつもりではあったが、そこまでニーズがあるとは思いもしなかった。
だからみんながそこまで熱望しているとは思ってはおらず、それが不思議でならない。
「何と言うか……乙女心とか、女心も分かるようになろうね?」
「……食べられるキノコと食べられないキノコの見分け方が分かることの方が俺にとっては重要で……」
「あたしらはキノコ以下か」
…… …… ……
「ということで、みんなのアクセを作ってもらうことになりました」
ケイナとエリンが見舞いから戻っての報告で、第一部隊全員から歓声が上がる。
「でもキノコと比べられるのは屈辱だから、作ってもらった後でみんなでシめることにしましょう」
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