声の神に顔はいらない。

ファーストなサイコロ

386 運命の日 21

「どうだった彼女? 見込み有る?」
「見込みって……どういう事?」

 田中さんがオーデションに向かっていってしまったので、私と宮ちゃんは静川秋華の所に戻ってきた。こいつはトップを独走してて、声優というカテゴリーに収まらない活躍をしてる奴だからかな? 私達が離れてもなんか一人だったみたいだ。
 知り合いが少ないわけではないと思うけど……今の段階ではまだ静川秋華に気軽に話しかけられる格の声優がここには居ないんだろう。

「お姉さま! 持ってこさせましたわ!」
「ご苦労さま」

 いや違った一人しっぽを振ってる子がいた。最初高圧的に接してきた本郷雅さんだ。彼女はお嬢様なのか、高飛車で、そして今トップの静川秋華に対抗心をメラメラと燃やして突っかかってきたが、今や完全に静川秋華の虜になってしまった哀れ人だ。
 一番にオーデションしたから、すでにここいる必要はないはずだけど……だって別にオーデションの結果がすぐに此の場で発表されるわけじゃない。全体で言えば多分百人を超えるくらいの声優を呼んでる筈。最期に合格者を発表するとか、そんなシステムだと、それだけの声優の時間を拘束することになる。
 流石にそんな事はしないし、出来ない。大半の声優というのは暇だけどさ、一部はそれこそ仕事が詰まってる訳で、すぐに別の現場に行かないと行けなかったりする。
 まあオーデションがどれくらいかかるかとかわかってないし、余裕を持って此の日のスケジュールは組んでると思うが、それでもこの日の仕事がこれだけじゃない声優はいるだろう。私はこれしかないけどね……だから多分、本郷さんもその口なのかも。
 しかもなんか持ってきたらしい。流石に彼女の小さなバックに最初に見せたチョコ以上のお菓子が入ってた様にはみえない。ブランド物……なのかはわからないが、質が良さそうな小さなバックを彼女は持ってる。私はくたびれた黒いバックを愛用してるんだけど……アマゾンで三千円で買った奴……やはりお嬢様となると、小物から違う。まあ私の様な可愛らしさの欠片もないのを持ってる人なんて他には誰も居ないけど……

「それでどうだったんですか? 彼女」

 いやいや、普通に本郷さんが持ってきたお菓子を口に含みながら、さっきと同じ質問してくるけど、私的にはそのお菓子が気になるんですけど……細長い感じの皮の中にチョコをが詰まった感じのお菓子だ。
 ポッキーと似てるけと、それよりも太くて、サクサクしてそうで、その皮になんかイラスト的な物が描かれてる。なんか凝ってるよ。同じ様なお菓子は多分普通に見たことあるけど、こんな凝った絵が入ってるのは初めてみた。絶対これも高いよ。そもそもが本郷さんが差し出してる箱からして高級感あるし、細長いこのお菓子が十本くらい並んでて、一枚の絵にもなってる感じ。かなり考えて作られてるよこれ……
 こんな物をパシって持ってこさせるってどうなの? さっき知り合ったばっかりじゃん。

「ああ、ととのちゃんも食べたいですか?」
「お姉さま、それは……これはお姉さまに持ってきたんです。この人へではありません。ふん」

 あ、私には高飛車なままなんだ。いや、寧ろ安心したけど……いきなり下手になられても……ね。私の全身を見て、鼻で笑われたけど、これが普通だから腹は立たない。いや、ぐさっとは来るけどね。
 一応今日は運命の日だからこれでもオシャレしてる方だ。それでも地味だってのは、周囲を見ればわかるけど……

「そっか、ならほい、どうぞととのちゃん」
「おねえさまあああああああああああああ!?」
「きゃあああああああああああああああ!!」

 いやいや、うるさい。二人共うるさい。しかもなんで宮ちゃんまで叫んでるの? しないからね。ポッキーゲームみたいに咥えて反対側を静川秋華が差し出してきたけど、しないから!!

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