声の神に顔はいらない。

ファーストなサイコロ

377 運命の日 12

「ふ、ふん! こんな……こんなに美味しいのに。そんな安物とは味が違いますのに!」

 そう言ってチョコの人が高級なチョコを口に投げ入れていってる。すると――

「うぐっ!?」

 ――なんか苦しそうだ。もしかしてだけど……チョコを喉につまらせたんだろうか? まさかそんなおもしろ展開来る? とか思ったけど、なんか実際そうみたい。

「全く面白い人ね」

 全くそのとおりだけど、本人を目の前にしてよく言ったわね。そこは流石静川秋華か。静川秋華はコップにお湯を注いで、膝をついて苦しそうにしてるその人に近づいてく。

「ほら、これを飲みなさい」
「あづうううううう!?」

 コントかな? それはそうだ。だって今日は寒い。ポットに入ってるのは勿論お湯だろう。一応ペットボトルのお茶も用意されてるけど、ポッドが3つもあるのは今日が寒いからってのがあるだろう。
 てか自分でポッドからお湯を注いで置いて冷ましもせずに口に持って行ってたよ。確信犯じゃね?

「なななななんひょいうひょことひょ!」

 これからオーディションってときに、彼女、舌を火傷して口が回ってないじゃん。まあおかげで詰まってたチョコは溶けたみたいだけど。一瞬で溶けるとか流石はお高いチョコだ。普通のチョコは流石にそこまで一瞬で溶けたりはしないだろう。

「ひ、ひいてますの!」

 多分「聞いてますの?」って言ってると思う。激昂してるチョコの人……いや、普通にそこそこ美人の声優さんだ。キツめの美人って感じだけど、ちょっと今までの人気声優とはタイプが違うから人気出るかもしれない。静川秋華も美人だけど、どっちかというと可愛い系美人だからね。
 メディアとかに出るときとかも、そっち系に降ってるし……でも此の人は高飛車系で売っていけそう。それかお嬢様キャラを生かして、一般人とのギャップを売りにするか、それかもっと極端な方に振るんなら、ローラとかのああいう系に? まあ流石にそこまでやれそうな人じゃないけど。

「うん、おいしいね。ほらあーん」

 なんか静川秋華は激高してるチョコの人を無視して、彼女が抱えてるチョコを無断で……うん、無断で摘んで口に入れてた。なにそれ? 盗難じゃん。しかもあーんとか……彼女せ「なにやって……」とか言ってるよ。
 でも静川秋華は「ん?」とじっと見つめてる。するとチョコの人は目を瞑って顔を赤らめて口を開く。そしてそこに静川秋華がチョコをいれた。

「ありがと」

 そんな風に言ってナデナデまでしてあげると……なんか彼女が恍惚な表情になって「お姉さま」ってつぶやくのが聞こえた。本当に何それ……だよ。私がやっても絶対に同じ様にならないよ。
 けど静川秋華程の容姿を持った奴がやると……謎の行動でも有耶無耶に出来るっていうね。この世の理不尽を見た。

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