声の神に顔はいらない。

ファーストなサイコロ

332 後輩の暴走が止まらない

「ダメ! 小萌さん!!」

 その声に北大路さんは済んでの所でその手を止めた。それは正にぎりぎりで……よく止められたなって感じの場所。本当に浅野芽依の頬に当たる数センチ手前だった。止めたけど、でも北大路さんの息はとても荒い。「フーフー」と正に獣の威嚇の様な音が出てる。止まってた私達はとにかく激しいキャットファイトにならなくてホッと胸をなで下ろすか迷うところ。だってまだ寸前で、実際北大路さんの感情は爆発してる。
 さっきの声は登園さんだった。彼女の声だったから、きっと北大路さんはその手を止めただけ。一歩間違えば、再びきっと北大路さんは動き出すだろう。なんとかして引かせないといけないが……私にはその術は勿論ない。だって私の様な奴が何を言っても、北大路さんには届かないと思う。そもそもそんな勇気がないし……でも何故かこんな時でも、変な方向で度胸有る奴がいた。

「止めちゃうんですか? 怒ったんじゃ無いんですかぁ?」
「つっ!」

 何故に浅野芽依はここで煽るのか。殴られたいの? そういう趣味あったの? 流石にそんな痛い趣味を持ち合わせてるとは思わないけど……でも誰でも特殊な性癖を隠し持ってるっていうし……

「止めなさい。先輩に対する態度じゃないですよ」

 私が変な所で頭を悩ませてると、登園さんが浅野芽依に厳しくそういった。まあ確かに、あの態度は……ね。怒られてもしょうが無い。そして登園さんも近付いてきて、ポソッと北大路さんの耳元でいう。

「彼女の狙いは、暴力を振るわせる事ですよ。それでこの話で小萌さんを引かせる気です」
「ええ……そう……ね。わかってる……わかってるわ」

 そう言って北大路さんは静かに深呼吸を繰り返す。そしてカッと見開いてた目が次第に元に戻っていく。鋭い目が、優しそうな弧を描く。そして喉の調子を確かめる様に、「んっん」として、浅野芽依に余裕のこもった笑顔を向ける。

「えーと、そう浅野さん。ダメですよ、私達もデリケートな時期ですからね。そこら辺、ちゃんと判断しないとお仕事……無くなりますよ?」

 笑顔だけど、さっきの浅野芽依の発言を許したわけではないって事が感じられる声だった。いや、当たり前だけど……

「済みませんでした先輩方。なにせ偉大なお二人がこっちまで降りてこようとする物ですから、尊敬する側としては、お二人とも遙か高見みに居てくれないと、目標になり得ませんから。自分が……そう自分が許せなかったんです」

 おおう……浅野芽依の神経の図太さに軽く引く。いや、最近は慣れてたと思ってたけど……そういえばこういう奴だったね。だってその発言って深読みすると……先輩達は黙ってその位置で満足しててくださいよ――みたいな事だ。ようは自分の邪魔するなって……事で……

「ね? ととの先輩!」

 私に振るなぁぁぁぁぁぁぁ!! 巻き込むなぁぁぁぁぁぁぁぁ!!

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