声の神に顔はいらない。

ファーストなサイコロ

324 人生の最後に後悔することは、挑戦しなかった事

「揉めてる?」

 揉めてるって何? 不安が私に襲いかかる。でもその一文が来ただけでそれ以降またメッセージが止まった。私は部屋で悶々とするしかない。スマホをずっと眺める。一応飲み物あるけど、スマホを見て飲み物飲んで……その繰り返し。するとようやく、五分くらいして更に追加のメッセージが届いた。

『先生の作品は人気作だ。どのマネージャーも自分の担当を送りたいと思ってるんだ。その交渉でちょっとな……』

 そんなメッセージだった。なるほどね……確かに先生の作品のオーディションとなれば、声優は誰もが行きたいだろう。そして担当のマネージャーさん達は、そのオーディションに自分の担当の声優を送り出したいと思うものだ。てか思わないとダメだろう。そうじゃないと、声優としては担当を信じれないし。でも私にも反論はある。

「確かオーディション優先して私にくれるって事だった筈ですけど?」

 そんなメッセージを送る。だってそれは社長とそういう盟約を交わしてた筈だ。私がクアンテッドに目をつけられて、オーディションにいっても通らなくなった。だから通らないオーディションに行くなんて枠の無駄だから、波が来てたけど、泣く泣く私は他の子達にそのオーディション枠を譲ってたんだ。その恩を皆は今、私に返すべきではないの? 

『確かにオーディションの枠を回してたのは事実だが、それを知ってるのは一部の奴らだけだ。それに……問題はその中でもお前はオーディションに行ってたろ?』
「それはクアンテッドの枠……ですよ」
『それはそうだが、都合の悪いことに、そういうクアンテッドの枠で行ってた現場には、ここの枠で行ってた声優と被ってたわけで……お前がオーディションを自重してたって印象は他の声優にはないんだよ』
「そん……な」

 確かに私いった現場には同じ会社の声優がいたね。そうなると、私は別の特別枠でオーディションに来てた奴って事になる。私的にはどうせ受かることがないオーディションだった訳だけど……いや、勿論全力でやったよ。もしかしたらクアンテッドの圧力を跳ね返して起用してくれる可能性だってゼロじゃなかったと信じてたし。けど……結果はどれも惨敗だった。まあでもチャンスであった事は確かで、私が特別枠で来たとそれは誰もが思うか……そんな奴に、またまた今度は先生の作品オーディションにこの会社の枠で行かせる。

(それは反発も出るよね……)

 だってそれならその特別枠でいかせろって話しになるし、多分成ってるんじゃないかな? 私は家を飛び出した。向かうのは勿論会社だ。私はこれが最後のチャンスかもしれない。そう思ったら、居ても経ってもいられなくなったんだ。

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