声の神に顔はいらない。

ファーストなサイコロ

318 こんなお姫様は嫌だ 終

「御母様、魔法使い様は偉大なのですよ? 行き成り現れる位どうって事ありません」

 おい、それはつまり彼女の中の設定では魔法使いはなんでもありと言う事にならない? しっかり世界に入り込んでる用で居て、なんか甘いよね。まあ思考なんてそんな物の気はする。ようは許容量って奴を持ってるんだ。この程度じゃ、彼女に付いた役の設定を壊す事は出来ない……と言うことだろう。

「あらあら、貴女は城から出た事がないから知らないのでしょう。魔法は奇跡ではないんですよ? ちゃんとしたルールや決まりがある物なのです。そんな事も知らないとは……今までどういう教育をされてきたのでしょう。そんな無知で国を支えるなんてよく言えますね」

 とりあえず嫌みたっぷりに言いながら、自分の中の設定を押しつけて行くことにする。大丈夫魔法使い役を押しつけられたパリピギャル1は口をパクパクするだけで声を発せてない。きっと頭が付いてきてないんだろう。いつの間にか宰相様も退場してるし既に予想外の邪魔はないだろう。私は落ち着く事が大切なんだ。彼女はただ、その本能に従って役に入り込んでる。
 彼女の中には多分整合性なんて言う物はない。やる事発する事は多分大体思いつき。それを全て静かにちゃんと捌いて……

(ってそれじゃあ、物語として……そしてラジオとしてはダメなのでは?)

 今は多分、行き成りの新人声優の暴走みたいな物で盛り上がってるかも知れないが、これから私が彼女の言うことをなんでもかんでも正論で落ち着いて返したらそれはそれでめっちゃ盛り下がるだけだ。端的に言えば、このある意味の変な盛り上がり……まあ盛り上がってるのは彼女だけだけど、それを穏やかな水面のようにしてしまいかねないと言う事だ。

 ラジオだってエンターテインメント。楽しさが絶対に必要だ。事務的な出来事を誰がラジオに求めるだろうか? こういう声優ラジオはドタバタも売りだ。ぐだぐだだってある意味売りだ。それに一応私には彼女達を魅力的に魅せるという役割もある。こっちも査定してるが、私だって査定されてるような物だ。

「御母様、私の不出来を否定する事はここの教育を否定する事ですよ。それに彼はそこらの魔法使いと違うのです。なにせ無から有を生み出せる。本物の魔法使いなのですから」
「本物ですか……ならその証明……あらあら、凄いですね。まさか宙からケーキが出てるんなんて」

 ここで魔法使いの証明でも……とか思ったけど、パリピギャル1さんは付いてきてないから勝手に魔法を使って貰った。

「ふふふ、ケーキなんてそんな物で驚かないでください。ほら見て……もう一人、御母様が出てきましたよ」
「え?」

 思わず地声が出そうになったけど、必死に静川秋華の声を出した私を褒めたい。どうやら本当になんでもありの魔法らしい。

「なんなの……それ?」
「だから御母様ですよ。従順で、優しい私の本当の御母様……に成って頂くんです。だから貴女はもう、いりません」
「止めなさい! こんな事――きゃあああああ! ぎゃ!? ごん……な……事……」
「あは! あはははははははははは!! さあ、行きましょう御母様。私を思いっきり立ててあがめてくださいな」

 そうして、この物語はハッピーエンドになりましたとさ――すると彼女がゴツンとテーブルに突っ伏して気絶した。

「えーと、なかなか凄い演技でしたね。いったんCMに入りまーす」

 その後色々と大変だったのは言うまでもない。

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