声の神に顔はいらない。

ファーストなサイコロ

290 冗談が通じる場所

「あわわ……」

 どうしていいのかわからない。だってさっきからずっとタイムラインに凄い量の文章が流れてて、はっきり言って読む前に流れて言ってるよ。でもなんかこのグループ、私の事でこうなってる。確かに一人の人にお仕事貰ったけど……それってそんなに驚く事? 確かに声優は仕事に飢えてる所はあるけど……

『皆落ち着いて。確かに私は個人的にやりとりして匙川さんに出演して貰う事になったの。でもちゃんと会社からもオファーして貰うようにしたし、抜け駆けとかじゃないから』
『抜け駆けですよ。それに最初から仕事って、最初は少人数でお茶って話しだったじゃないですか』

 お花アイコンの子がそんな文句を言ってる。なんか私の知らない所で何かが進行してたようだ。

『そうだ、行き成り仕事なんて、それなら俺でもいけたじゃないか。匙川さん、どうだい?』

 どうだいってどういう事ですかね? この人は現場でも色々とよくしてくれる男性声優さん……男性声優ではベテランさんで、何本かレギュラーの仕事をあるから、それにって事だろうか? 

『えっと……ですね……』
『匙川さんは顔出しはNGなんでそこら辺を考慮にいれてくださいね。私はちなみにラジオに出て貰う予定なので、問題ないです』
『ラジオか……』

 男性声優の彼はショボーンとしたスタンプを送ってる。

『これだから売れっ子は! 私なんか自分の番組なんて無いですよ!』

 新人と言っていい彼女はそんな事を言ってる。でも新人で結構堂々としてるからね。大物感ある。多分速攻で抜かされていくんだろなって思ってるよ。

『私、この現場が一番楽しいんです。だからこのお仕事が終わっても繋がりが消したくないです。取っても勉強になるし、だから匙川さん、私とお食事しませんか?』
「私と食事しても、楽しいとは……」

 思えない。けど彼女は直ぐにスタンプでプリプリしたスタンプを送ってた。ウサギがなんか怒ってる。怒っちゃったかな? とか思ったけど、直ぐに文字でも返信が来た。

『そんなこと言わないでください。沢山声優の事教えて欲しいです!』
『そうやって彼女の声の秘密を聞き出す気でしょ~腹黒~』
『黒くないですよ~。だって本当に匙川さん、凄いじゃないですか。声優なら、あの声の秘密知りたいって思います!』
「えっと……」

 私はとりあえずそんな文字を流してみる。いや、反応に困るから……

『あわわ、私ったら匙川さんも観てるのに……でも本心ですよ? 本当です。声優の事、声の事、いっぱい教えて欲しいです』
『まて、それなら俺も興味ある。話したい事は一杯だぞ』
『ダメです~まずは乙女限定です~』

 そしてそのベテランの男性声優さんは悔しがるスタンプで返してた。きっと冗談が通じる場所……なんだよね。ここは現実の様でもあるけど、現実じゃなくて、もっと曖昧……そしてこのグループの皆は声優に本気だってしってる。

 ここなら、私も色々と喋れるかな? 

「えっと、もっとここで慣らさせてください……」

 そんな文字を私は送ってた。

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