声の神に顔はいらない。

ファーストなサイコロ

289 デジタルがリアルにまで来た

 実際、LINEでのやりとりだけで仕事が決まるなんて事があるんだろうか? って事で一応マネージャーに連絡を取った。なにせお仕事になるなら、ちゃんと会社に通しておかないといけないだろう。闇営業とかになっちゃうし。
 私にスキャンダルが起きるなんて考えられないが……つい最近、結構大きなスキャンダルが起きかけたからね。油断はいけない。どうにかあの件に私が関わってたなんて事は周囲には漏れなかったし、静川秋華の怪我も治ってるから、その内皆あの話しはしなくなっていくだろう。

『わかった。こっちで確認してみる。そっちも働きかけててくれ』
「わかりました――と」

 私はマネージャーにそう返して、今度はお仕事くれたその子へ返信するためにLINEを流す。

「えっと、こちらはマネージャーに連絡して、会社に通して貰いました。出来れば、そちらも、会社の方から正式にオファーくださると助かります――と、流石に堅いかな?」

 一応歳ではこちらが上だ。でも……社会人として、仕事のこととなるとこのくらいは必要だろう。そう思い直して、私はその文章を送る。

「あっ……」

 私はその子にダイレクトでおくったと思ってた。でも私のメッセージはどうやらあの現場で結成したグループLINEに流れたみたい。しかも内容が内容だし、普段は返信しかしない私の言葉だ。変に注目される。秒で既読が着いて、なんか文字じゃなく、皆ビックリしたようなスタンプを一斉に流してくる。

(しまった!?)

 取り消したい所だけど、既読が着いてるんだから、この文字列を消したとしても意味は無い。だって皆がもう観てる。LINEの文字は消せても、皆の記憶まで消すことは出来ない。なんでその機能がないのか……あったらヤバいけどさ……その機能が今は欲しい。

 私はとりあえず今度はちゃんとダイレクトでその子に「ごめんなさい!」と送った。その間にも、スタンプからちゃんとした文字で「どういう事?」とか「抜け駆けズルーい」とか文字が流れてる。荒れてる訳ではないようだけど……私はどうしたら良いのかわからない。なにせこんな次々に文字が流れていく場所に投稿なんて為たことない。私はいつだって、一画面で自分と相手が見える程度のやりとりしかしないもん。
 それか一対一でのやりとりだけだ。こんな次々に多数の人に質問攻めに遭うみたいな状況になったことない。てかこれって、リアルと同じ感覚だ。リアルでもこんな風にされたら私は完全にテンパる。でも画面越しでも同じくテンパってる。

 どうやらデジタルは今やリアルまで浸食してるみたい。時代がここまで来てちょっと怖い。

 

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