声の神に顔はいらない。

ファーストなサイコロ

279 これは対面に座ったバトルなんだ

「これを作ってみたい……表現したいと思ったからです!」

 自分の質問に酒井武雄はそう答えた。僕はそんな彼から目を離してもう一人の男性野村さんをみた。すると彼はちょっと笑ってこう言ってくれた。

「監督には心境の辺があったんですよ」
「心境の変化ですか?」
「奥さんに逃げられまして」
「ああ……」

 うん、それなんて行ってあげれば良いの? てかそれがバトルからハートフルな方にいった原因? 殺伐としたバトルじゃなくて、家族愛みたいな物を奥さんに見せてメッセージにしたいとか? なんかめっちゃ私物化されてないそれ? 

「えっと、それは自分の作品で奥さんに伝えたい事がある……みたいな事ですか?」
「それもありますが、私情を挟んだりしません! 絶対に良い作品になるように全力を尽くします!」
「全力ですか……」
「はい!!」

 酒井武雄はそう勢いよく言ってるが、隣の野村さんは違う。自分が言ってる意味を彼は多分だけど理解してる。そうしてようやくパソコンの起動が終わったのか、その画面をこっちに見せてくる。

「この方々達に声を掛けて制作陣に入って貰おうと思ってます。制作期間は一年半を考えてます」

 そこには監督の名前やキャラクターデザイン、脚本に色々とアニメ制作をの裏側を支える人達の名前がある。知ってる人もいるが、知らない人もいる。まあ自分もこの業界に精通してる訳じゃない。実際この業界で長年仕事をやってた来た彼等よりも人脈的には広くないのは仕方ない。

 一年半の制作期間はまあ……ちょっと短いか普通くらいだろう。二年とか三年とか、映画だとそれこそもっと掛ける作品なんかもあるが……制作期間が長いって事はそれだけ予算が大量に必要で……そこまでの体力は彼等にはない。多分クオリティと彼等の耐えられる期間のギリギリなんじゃないだろうか? でも……

「それって本当にその人達を集められるんですか?」

 ここに描いてある人達はあるまでも予定だ……それにやっぱり全部そっちに任せるなんて事は多分出来ない。此花さんもそれは許さないだろう。そもそもか自分でも知ってる名前の人ってこの業界でもかなり有名な人だ。そういう人は大体次々と仕事が入ってくるから行き成り言っても大抵無理では? 
 
 自分の作品だから優先してくれるとでもおもってるのだろうか? それは皮算用過ぎると思う。

「俺はそれなりに顔が広いんですよ。いや、どいつもこいつも一度は俺が世話してやった奴らです。なあに、俺が声を掛ければ一発で頭下げてきますんで」

 めっちゃ信用できない。流石にその言葉で「じゃあこれで行きましょう!!」なんていう奴いないでしょ。自分は野村さんの方を見る。こういうのを担当してるのは彼だろうしね。感情的な酒井武雄と理性的な野村さんで上手くバランスを取ってる筈だ。

「安心してください。きちんと話しは通してあります」

 その彼の言葉は自信もあってなかなかに信用できた。でも彼の事も完全に信用した訳じゃない。大人なら、このくらいのはったりはかますだろう。アニメ現場ならなおさら……でも今はそれを確かめる術はないからな。とりあえず酒井武雄がどこまでアニメの映像を描いてるか、深掘りして聞こうかな?

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