声の神に顔はいらない。

ファーストなサイコロ

278 社会人には結果しかついてこない

「これは! その……」
「いえいえ、アニメに落とし込む為には削らないといけないのは理解してるので大丈夫ですよ。これをみれば、酒井さんがどういう風にこの小説をアニメにしようとしてるのか、わかるって事ですよね?」
「それは……わかる人には……」

 そういう酒井武雄。確かにこれだけ見てもわかる人にしかわからないだろう。色々と余白とかに書き加えられたりしてるし、赤線の横に惨めにした文があったりしてる。自分はとりあえず気になった部分だけしっかり見るようにしながら、パラパラとページをめくっていく。

「これって一冊何話掛ける予定とかは?」

 はっきり言って一巻はかなり削られてる。自分は自然とそんな言葉が出てた。二人の方は見てないが、多分間の置き方から、視線のやりとりでもしてたのか、酒井武雄が口を開く。

「とりあえず一巻は三話ですね」
「三話ですか……」

 普通だね。いや、まともとも言う。なにせ酷い作品だと、一巻を一話で消費したりするし、関数吹っ飛ばして進める作品もある。

「話数は十二話ワンクールですか? それとも2クール予定とか?」
「出来るなら、2クールはやりたいですが……」

 それは流石に難しいか。いや、自分の作品なら出来ない事はない。でも制作が酒井武雄のスタジオならどうかわからないな。それにこの作品……はっきり言って派手じゃない。簡単に概要を説明すると――

『死んで異世界へ行くか元の世界へと別人として転生するかを選択を迫られたとき、後者を選んだ者達の物語』

 ――だ。なんで別人なのかは、まあ死自体は覆せないから……というありがちな設定だ。死んだときの年齢やら知識やらはあるままに、別人と転生して戻ってきた人達のハートフルな小説だ。神様が別人としての設定を周囲に差し込むのが面倒だったから、転生させて戻って来た奴らを一つの家族とした……だから(仮)だ。

 まだ本物の家族になってないって意味でね。それはそうだろう。だって周囲からは元々家族だが、彼等からしたら、赤の他人と同じだ。それが行き成り家族として一つ屋根の下に暮らさないといけない。そんな色々な問題とかに振り回されつつ、家族となっていく物語。
 そして異世界へと行くことを望まなかった理由の解明とか……そんなのを主体にそれぞれの第二の人生を描いてる。

 バトルなんてのはない。つまり派手さはない。でも家族愛とか、そういう泣き所はあるからね。でもこの作品でいいの? という気はある。だって酒井武雄ってバトルとかが得意だったはず。この人の事は前にちょっと調べたからね。世に出なかったけど、その時作ってたのもバトル系だった。

 でもやっぱりそこら辺は大手が伸ばしてくるからこっちを選んだとか? でもかなり読み込んでるのはこの本を見れば伝わってくる。得意じゃないからといって適当にやってる訳ではない。まあ会社の命運が掛かってるらしいし、適当にやるわけないか。
 でも全力でやればそれでいいのか……と言われると社会じゃそれだけじゃダメだろう。それだけで認められる訳じゃない。結果は出さないといけないわけで。自分の作品に求められる結果は総じて高い。

「どうしてこの作品を?」

 気になった事を自分はストレートに聞いた。

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