声の神に顔はいらない。

ファーストなサイコロ

277 原作を愚弄してるわけじゃない

「それで今日のお話と言うのは?」
「お忙しい中、更に先生にぶしつけな事を言うのをお許しください」

 うーん、かなり酒井武雄は無理してるね。なにせ一回りくらい自分は彼よりも多分年下で、そんな奴にこんなに頭を下げるなんて……でもそこには卑屈な感じはない。寧ろその目はメラメラと燃えてると感じる。

「大丈夫ですよ。一応色々と覚悟してきましたし。そちらが自分に接触を図る理由は、自分の原作……ですか?」

 自分は小説家だ。そして彼等はアニメを作る側だ。なら彼等が求めるものは一つだけだろう。

「私達は、貴方の原作でアニメを作りたい! 作りたいんです!!」

 酒井武雄は言い直して頭を下げる。既に土下座である。そして更にもう一人、野村さんは鞄からパソコンを取り出してた。とりあえず何かあるのかと思ったけど、今は酒井武雄の方に集中するか。きっと準備が出来たら声をかけてくれるだろう。

「なんでそこまで? 別に原作なら幾らでもあると思いますけど?」
「それは……」
「やっぱり人気とかですか?」

 自分でそう言う事を言うのは気恥ずかしい。でも彼等の状況を考えると、人気もない原作を使ってそれでアニメを一山当てるのと、元から人気の原作を使って挑戦してみるの……リスクは当然後者の方が低い。彼等には後がないんだ。

 だから次のアニメでこける事は出来ない。なら、求める物は確実に一定数の売り上げが見込めるアニメ原作――と考える事が出来る。まあこっちにしてみたら、良い気持ちではない。そんな思惑なら……だけど。そうじゃないかなって思ってるが。

「違う!」

 酒井武雄は力強くそういった。顔も上げて、真っ直ぐにこっちを見つめてくる。目を逸らさないから本心とは思わない。逆に本心を隠すためにそういう風にする大人は沢山居る。でも酒井武雄はそこまで器用では無いと思う。

「違うんですか?」

 自分はチラッと野村さんを見る。すると彼は顔を剃らした。うん、多分その思惑もあるね。

「確かに会社の利益も考えた。だが、作品自体に惚れたのも本当だ!!」

 そう言って酒井武雄は自分の荷物から一冊の本を取り出した。ボロボロの本だ。タイトルは『異世界行き、拒否家族(仮)』確かに自分の本。

「こんなに成るまで……ちょっと中を見ても?」
「どうぞ」

 ボロボロの自分の本を受け取る。最初はライトノベルとして出してたけど、後でハードカバーでも出ることになった作品だ。まだ完結してないから、映像化は慎重になってるんだよな。酒井武雄が出してきたのはライトノベル番だ。

 ライトノベルだから挿絵がある。そして登場人物の名前……その下にはCVが書かれてた。うん……まあいいよ。更に目次を経て文章にいくと、行き成り赤線で文字が潰されてた。なるほど……酒井武雄は本自体に色々と書き込むタイプの様だ。

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