声の神に顔はいらない。

ファーストなサイコロ

265 自分の利益だけを見る女

 覚悟は決めた。けど、そんな直ぐにオーデションを用意できる訳じゃない。なにせ次が大切だ。クアンテッド……大室社長が私の妨害をしてるのなら、数打ちゃ当たる……なんて事はやってられない。そしてそれは事務所側もそうだ。
 妨害されてる可能性が高い私をオーデションにいっぱい向かわせる……なんて事務所側にもデメリットしかない。だから精査する。普通は事務所が指定したオーデションに向かう事しかできないわけだけど、殆どのオーデションを他に回して貰う代わりに、自分自身でオーデションを精査するんだ。今はどれか良いオーデションはないかとマネージャーと二人で探してる段階だ。

 それに私にはクアンテッドから回されてくるオーデションもある。それで受かる事は無いと思ってるが、でもそれでも全力でやってる。オーデションに手を抜く……なんてのはあり得ない。審査員にクアンテッドの息が掛かっていようと、それを覆せる可能性はゼロじゃないだろうしね。まあ今の所は上手くいってない。

「どうなの……調子は?」

 私は静川秋華と共に車に乗って移動してた。本当はあんまり接触したくないんだけど……現場が近いって事で強引に……ね。最近は流石に静川秋華も自重してるのか、先生の所にはいってないみたい。というか、私達の他にもう一人……静川秋華の付き人(監視役)の人がいるから、いけないんだろう。

 私は大抵聞き側に徹するけど、今回は私から話し出した。静川秋華の怪我は、私にとっても重要だからね。てか……

(私の現状を静川秋華はどう思ってるの? 大室社長のやってる事……わかってるのかな?)

 そんな考えがよぎる。

「調子は最悪だよ~」
「やっぱりまだ怪我が――」
「だって全然先生のところにいけないし、電話もLINEも出来ないし、先生成分を補給できないですよ~」

 心配して呆れた。私が言ったのは腕の事なんだけど……普通に視線をやると、片方はもうギプスも取れて目立った傷はない。確か完全に折れてたのは片方だけだったんだっけ? ならまあこんなもんか……

「あー腕の事でしたぁ? なら全然へっちゃらですよ。痒いくらいですね。てか……このまま直って同じ仕事量だと困るんですよね~」

 そう言って静川秋華が私の事をニコニコとした顔で見てる。すると私の手に自身のギプス取れてる腕を重ねてきた。

「ちょっ!? なに……」
「ととのちゃん……いや、ととの。これからもよろしくね」

 これは、私を解放する気はないって事だよね? それはつまり静川秋華も大室社長と同じ気持ちって事で……そういう事を聞いてるって事? それだとしたら……友達とか言いながら、飛んだ奴だ。私は視線を下に向けてこういった。

「大室社長に言われ……たの?」

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