声の神に顔はいらない。

ファーストなサイコロ

247 正しい努力が大事

「あ、あ~、その……ね。私も急遽、このオーディションに参加する事になって……」

 私は灰色の脳細胞を駆使してそんな普通のことしかいえなかった。私はそんな頭良くないからね。これが限界だったよ。これでも追試とか補修とかは受けた事無いんだけどね。一生懸命勉強はやってた。でもそれでも、私は平均だった。勉強はやればやるだけ身につく……なんていうが、あんなのは嘘だ。要領が悪い奴ってのはどこにでもいるのだ。それが私である。私は夏休みの宿題だってちゃんと期日までに提出してたし、恒常的な宿題は勿論、自分で予習と復習だって学生時代はやってた。

 自分ではかなり勉学してたと思ってる。けど、それでも、私の上には禄に勉強してなさそうな奴らが一杯いた。現実なんてそんな物だ。頭の良さなんてのは最初から……それこそ生まれた時から決まってる。頑張るだけ無駄だと気付いたのはいつだっただろうか? 厳密に言うと、頑張ることが無駄なんじゃない。自分に合った分野で頑張らないと、その頑張りは無駄な努力になるって事だ。それを身をもって私は実感してる。
 まあもしかしたら、勉強してたから赤点とか補修とかから免れてたのかも知れないけど……でも、今の私の役になんて学校の勉強は一ミリだって役に立ってない。こうやって私は自分の頭の悪さを実感するだけだよ。

「そうなんですか」
「うん、そうなん……うん? いいの?」
「いいも何も、それは私が決めることではないですし……あっ、もしかして、私に出てけって事ですか?」
「いや……違うから」

 なんかただのいけ好かない先輩になりかけた。でもそっか……まあでも、あの言い訳でも別段通じるのか。自分的にはなんて頭の悪い言い訳を~とか思ったけど、それは私視点だからそう思うだけみたいだ。事実、他の三人『馬渡 佳子』『東山 未来』『田中 一』も彼女と同じで別段違和感なんて持ってない。どうやら私の考えすぎだったらしい。

「同じグループになったから、この中から合格者を出すのなら、私が邪魔じゃないですか?」
「えっと……流石にグループごとに合格者は出さないと思う……よ? なにせ多いし、ただ意図はあると思うけど、合格者自体はそれぞれ個別に出すと思う」
「へえーそうなんですね。私てっきり、グループ分けされたから、この中から一人だけ選ばれるのかと思いました」
「それはそれで……大変じゃない? 更に絞って行くの? 時間掛かるし……」

 そんな気がするけど……でもどうやら彼女……そういえば目の前の彼女だけ名前聞いてないや。同じ事務所なのに彼女だけこのグループで知らないとは……そんな事を想ってると横からこう言われた。

「いや、今回はかなりの数の合格者が出るはずだ。なにせスマホのゲームなんだよ? 大体四十人くらいは合格者として出るんじゃないか?」
「ああ……そういう……」

 今ここでこれがスマホのゲームのオーディションだと知った私。でもそんなのは微塵もみせちゃいけない。ぶっつけで来てるなんて不自然だからね。

「先輩、私は『緑山 朝日』です。私は若輩ですが、がんばります。いいですか?」
「いいもなにも……オーディションってそういう場所でしょ?」
「はい!」

 なんか彼女緑山朝日ちゃんはなかなかに素直な子みたいだ。安心した。とりあえず私がここに居る事を不自然に思う人はこれでいないだろう。あとはオーディションだね。

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