声の神に顔はいらない。

ファーストなサイコロ

237 100万の価値は人としてどうなの?

 提示された金額は前のものよりは少ない。けど私にとっては大金に変わりないそんな金額。具体的には百万円だった。百万円、まあ一千万よりは庶民的な大金に思える金額である。でも前のもまだ換金してないからね……それなのに続けてこれって……少年漫画のインフレかな? 額は減ってるけど……でもどっちにしろ額が額だけに一人で換金に行くのもなって、思ってるとマネージャーが――

「ならその気になるまでは会社のほうで預かっておいてもいいが?」

 ――って言ってくれたから、そうして貰ってるんだよね。流石にあれだけの金額ともなると家族にも安易に言えないじゃん。家族だけど、だからって金銭の問題が起こらないわけじゃない。寧ろ家族だからこそそういう問題が起こったら根深いものになるわけで……何せ家族だと関係を絶つなんて事出来ない。
 一生ついて回る問題にもなりかねないじゃん。それを考えると、最初からあの場にいたマネージャーの提案に乗るのはいいことかなって思えたんだ。
 実際バイトしてるけど、そこまで困窮してるわけではない。勿論、贅沢なんて出来ない。でも私はお酒とか飲まないし、煙草だって喉に悪いからやらない。飲み会とか誘ってくる友達なんかいない。宮ちゃんは友達だけど、あの子は未成年だ。そういう場所には行かない。浅野芽依とも飲みに行く仲じゃないし、生きていくぶんは実は十分足りてる。だから実際ここでさらに小切手が追加されても中々に取り扱いに困るっていうか……ね。

「大室社長は沢山……お金を持ってらっしゃるんですね」

 私は目の前に差し出された小切手を見つめて、そう言っていた。

「少ないって事かしら? ならここに任意の額を描いて貰って結構よ」

 おぉう……何言い出すのこの人? これだからお金が溢れるくらいある人は困る。一兆円とか書いたらどうするの? 流石にそんな額はお許し出ないでしょう。でも任意って言ってたんだから、私が書いた額が例え一兆円でも、払えなかったらちょっとした恥ではないのだろうか?
 大室社長が「ちょっとこの金額はご勘弁を……」とかいうのをちょっと見てみたい気もする。

「貴方が思う自分の価値でもいいですよ?」

 むむむ……なんか予防線張られたぞ。というか大室社長は私のような庶民の提示する金額なんて物はたいした額ではないと思ってるに違いない。
 本気で一兆円書いてやろうか? でも今の言葉の後に一兆円書いたら、どんだけ自分の価値が高いと思ってるのかって思われるよね。
 だからこその予防線だろうけど……ん?

「あの……気になったんですけど、この前は五百万、五百万で一千万でしたよね。今回は百万円……どっちがそちらが思う……私の価値なんですか?」
「そうね……この前のは口止め料と治療費よ」

 ただ淡々と大室社長はそう言ったどうやら私の価値は静川秋華のスキャンダル以下しかないらしい。どうやらこの人は、言葉をオブラートに包むって事を知らないらしい。クソッタレめ!!

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