声の神に顔はいらない。

ファーストなサイコロ

235 圧迫面接が始まった

 私と大室かなえ社長は向かい合って座ってる。何故に業界ナンバーワンの事務所まで呼び出されて私は警備員さんたちの常駐してる部屋で社長と向かい合って座ってるのか……正直理解できない。いいの? こんな安物の椅子にこの人座らせていいの?

「どうぞ」

 そう言って警備員さんの一人がコーヒーを差し出した。私の時はココアだったのに……いやコーヒーの方がよかったとかじゃないよ。
 私はココアでよかった。社長さんにそうしなかったのは単純に偉いからだろう。お偉い人にココアってイメージ的にないしね。

 声と共に、体事態も震えてる警備員さん。普通にやってたらこういう人達が社長さんに合うなんてなさそうだもんね。家のような中堅の所なら色々と近いから、案外社長が近い。
 でもクアンテットは大手も大手、最大手である。社長が近いなんてない。寧ろ雲の上存在とかだろう。だからこそ警備員さんたちは震えてるわけだろうし。

 置かれたコップに手を伸ばす大室社長。それなりにおしゃれなカップがあったのか、装飾がちょっとされてるカップは一応大室社長がもっても破綻はしてない。

 これが私に出されたみたいな紙コップだったらどうなってたことやら……大室社長が飲む様を緊張の面持ちで見てる警備員さん。流石にそこまで見られると気になるのでは? とか思ったけど、大室社長は気にしてない。寧ろ私が気になる。

「それで、本題だけど――」
「あっはい」

 どうやら大室社長は別に感想とか言う気は無いようだ。いや、不味い言われても警備員さん達も困るだろうけどね。だってそう言われてもこれ以上の物なんてここにはないだろう。社長に出すんだから、きっと一番良いのを持ってきた筈だ。何も大室社長が言わないから、警備員さんは満足したようでこの部屋から出て行く。自分の存在は邪魔だと思ったんだろう。警備員さんが恐れてたのは文句を言われることで、何も言われないって事は合格みたいな物なんだろう。

「貴女、声に自信かあるようね」
「そう……ですね」

 てか、声優だよ? 声優で声に自信が無い人なんているんだろうか? 自分の声が武器になる――と思ったから声優になったんではないだろうか? 

「なかなかの自信家ね。嫌いじゃないわよそういうの」
「えっと……私には……声しかないので」
「……確かに」

 ちょっと! この人今確かにって言ったよ! そこいう? 普通は「そんなことないですよ」とかでしょう! 社長だからか!! 社長だから社交辞令なんて物を言えないんだ。私は心の中でそんな事を叫ぶが、当然それを言えるわけ無い。そもそもが大室社長は私の事をずっとみてる。私はいうと、下を向いてた。いやいや、だってこのおばさん、めっちゃ眼力強い。怖いから。

「秋華が言ってたわ。貴女はどんな声も出せるって」
「いや……それは……」

 流石にどんな声も……は言い過ぎだ。私だって超低音とかは出せないし。どう有っても、届かない声ってのはある。私は女だから、高音の方が得意だし、伸ばせる。低音もそこらの声優よりは出せるとは思うし、後は声の出し方で色々と声の質を変えられるけど、どんな――ってのはね。いや、声優だし言いたいよ。そう言いたい。けどこの人の前で安易にそれを言うと……なんか厄介な事に成る――って私の直感が告げているのだ。

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