声の神に顔はいらない。

ファーストなサイコロ

210 色んな所に鍵はある

「先生は我が儘です」
「何がだ?」
「だって私の事求めてるくせに、満足しないんだもん!」

 その叫びを聴いて先生が私の方を見てなんかなんとも言えない顔をしてる。いやそんな顔をされても……今は私もまともに先生のこと見れないし……まあだけど、なんとなくその顔が何を言いたいのかはわかる気がする。

「あいつが何をいってるのか理解出来ないんだが?」

 多分そんなことを表した顔だと思う。大丈夫、私も理解出来ないし……そもそもがなんか前提が間違ってるよね。

「しず−−秋華ちゃん」
「はい? 匙川さんじゃ、多分先生を満足させる事はできないから、観念してください」
「…………」

 私も多分同じ顔して先生へと向いたと思う。そして先生も肩をすくめてみせた。ヤバい……私達同じ日本語を使ってるんだよね? 新しい発見をしてしまった。同じ言語を発してるはずなのに、会話が成立してない。

「えっとね、一度落ち着こうか? とりあえずほら、深呼吸……深呼吸しよう」
「ひーひーふー、ひーひーふー」
「突っ込まないよ」

 ベタベタなぼけをかましてきた静川秋華。ボケだよね? 実際はわからないけど……どう返せばいいの? それとも別に何も待ってない? 今の静川秋華がわからない。いや、いつもわからない奴だけどね。

「匙川さん、私は何も興奮してませんよ。確かに内側にマグマのような感情があるんですけど、頭は撮っても澄み渡ってるんですよ。だから――――」

 ドン!!

「――――ここを開けて」

 私はよろよろと後ろによろめいた。そしてペタッと膝が折れてお尻が床にひかれてるカーペットに落ちる。私は扉を見つめたままそこから視線を外すことが出来ない。なんだが扉の向こうに得体の知れない……それこそ静川秋華じゃない何かが居るかのように私には見えてる。そのせいだろう……私の指先はかすかに震えていた。

「こっちに来るんだ。あれは触れちゃいけない生き物なんだよ」

 そういうのは先生だ。先生は絶対にあの扉を開けない決意をしてるらしい。まあ今こっち来られても困るから良いけど……

 ガチャガチャガチャガチャ…………ガガガがガガガがガガガ!!

 とめっちゃドアノブが回される。ヤバイヤバイ。なんかもげそうだよ。ドアノブの悲痛な叫びが聞こえてくるようだ。けどドアを叩くよりは安全だとは思う。でも静川秋華の奴は暴走してる。絶対に止めた方が良い。どうやってなんかわからないけど……怖がってるだけじゃどうにもならない。それに先生のように台風が去るまで待つ姿勢でも、本当の台風と静川秋華は違う。ヤンデレを甘く見ちゃいけない。ヤバい奴は本当に一晩中やるだろう。そして静川秋華はヤバい奴だ。
 だから先生の選択は間違いだと思う。確かに先生からしたら恐怖しかないだろうけど……私は……友達だから……ね。

「先生……私が出たら直ぐに扉を元に戻して鍵を閉めてください」
「だっ! ――だめだ。危険すぎる」

 私がジェスチャーでシーとすると先生は声のトーンを絞った。けど私はその言葉聞く気は無い。既に扉の前に私は立ってる。手を伸ばしてなんとか鍵が届く位置だ。中腰になって鍵に手を伸ばす。シュミレーションはしてる。大丈夫。先生を説得する時間は無い。だから先生は無視してる。私は覚悟を決めて鍵を開ける。すると一気に扉が内側に開いて静川秋華が倒れ込むように入ってくる。

(今だ!!)

 私は低くした姿勢で前へ出る。そして静川秋華の腹部にぶつかってそのまま廊下へと浮き上がらせるように押し出した。そしてそのまま静川秋華の背中を廊下へとたたきつける。やりすぎた!? と思ったけど――私は我に返って後方の先生に声を掛ける。

「鍵――」

 バン――ガチャ!!

「…………」

 ものすごい速さで先生は鍵を閉めてた。流石ですね先生。

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