声の神に顔はいらない。

ファーストなサイコロ

183 花が華を背負ってやってきた

「おはようございます」

 そう言って静川秋華は華やかな見た目でやってきた。うん……なんか着物だった。なんで? その着付けに時間掛かってギリギリになったんじゃないの?

「おはよう静川さん。凄いねそれ」
「そうですか? 私は新年初めの仕事は着物で行くようにしてるんです」
「そうなの?」
「はい、今年から」

 今年からかよ!! それもう気分だよね。それを聞いた男性声優さんも……いや、この場に集まってるメンバー皆ずっこけてるよ。これも新年から場の空気を掴む為の静川秋華なりの作戦なのかも知れない。こういうちょっとした変化とかが作品に携わる人に良い影響を与えるかもしれないしね。私達の収録にはそれこそ音響関係の人達だけではなく、監督さんやもっと多方面に活躍してる人達だって来たりする。
 それに今回は新年一発目の収録だ。しかもこれから第二クール入ると言うことで、最初の挨拶の時の様に人が多い。声優さんも第一クールの時にはいなかった人達がちらほらいるしね。台本で知ってるが、第二クールからの登場人物のオーディションに受かった人達だろう。まあオーディションが第一クールの時にやってたとも思えないけどね。それに今回顔合わせは初だけど、多分何回か既にこのアニメの収録は行ってると思う。
 アフレコは結構早くに行われるものだしね。多分今回は新年一発目で丁度良いから皆をあつめたんじゃないだろうか? 

「匙川さん」
「はい? あっ、明けましておめでとうございます」

 人に囲まれてた静川秋華が私に気付いてこっちにきた。年下でも、立場は彼女の方がずっと上だ。だから私から新年の挨拶をする。するとなんかニコッと笑って顔を近づけてきた。

「収録の後に時間ありますか?」

 なんだろう。なんか悪寒が……とても綺麗で華やかな姿をしてて、周囲が見蕩れてる程の美貌を振りまいてる静川秋華。本当なら心が温かくなってもおかしくないのに、私は寒くなった。いや、私なら妬みそうなるのがふつうかもだけど、流石にこのレベルは諦めつくっていうか……とりあえずなんかイヤな悪寒がした。

「えっと……今日はその……バイトが」
「声優でしょ。相談に乗ってくださいな」

 なんか有無を言わさない雰囲気である。それに私に相談って……それは間違いだよ。もっと相応しい人が居るはずだ。考えを改めて欲しいが、そんな事を言う前に既に静川秋華は他の人に掴まってしまった。私はこの沢山人が居る中でぽつんとしてる。そういえばいつも静川秋華とこの現場では居るから他に仲を深めた人がいない。私はここでは静川秋華におんぶに抱っこのダメダメな奴なんだと思い知った。

(いや、でも今年から変わるんだ!)

 とりあえず静川秋華の相談は今は考えない事にしよう。私は周囲を見回してどうにか話しかけやすそうな人はいないか探してみる。いつもの現場とは違う人達が今はいる。だから今日は丁度良い日なんだと思う。

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