声の神に顔はいらない。

ファーストなサイコロ

181 天啓が今年は良いと言っている

 正月も終わり、世間は普段通りに進み出す。私は家から出るときに財布に入れた一枚の紙を眺めてた。

「ふふ……ふふふ」

 それは初詣に行ったときに三人で買ったおみくじである。今は折りたたんで財布に忍ばせてるが、そこに何が書かれてのか私は知ってる。それは勿論『大吉』である。私は今まで生きてきた中で、おみくじを何回か引いた事があるが、『大吉』を引き当てたのはこれが初めてだった。思わず過呼吸になりかけたよね。それからも私は浅野芽衣に大吉を見せびらかしてマウントとってた。いやだって宮ちゃんは素直に「おめでとうございます」って言ってくれたのに、浅野芽衣と来たら「先輩が大吉って意味ないじゃないですか。私と交換しましょう」だったからね。
 いや浅野芽衣らしいけど!! そんな奴に遠慮なんて必要ないのだ。それに大吉マウントはあの時しかとれないし、正月テンションという奴だ。今思い出すと、ちょっと恥ずかしい。

「まあおみくじは、おみくじでしかないけどね」

 そうは言い聞かせるけど嬉しいものは嬉しい。私は常時テンション低めだけど、今はおみくじ効果でテンションが多少なりとも上がってる。今日はオーディションだし、出かける前に大吉様に念を込めてるのだ。そしてピンを使って前髪を左右に分けてもみた。いままでは目が隠れる位の前髪を垂らしてた。けどこれも大吉効果だ。ちょっとだけ頑張ろうと思った。いや、漫画のキャラみたいに、目を出したら美少女……なんて事は全くなくて、寧ろ出すなよ――と思われる程の物だけど、目を見せてないってのは最初から逃げてる様な物でもある。ブラッシングも一生懸命したし、今は私至上一番髪が輝いてる。
 無駄に長い髪をしてるからね。だって美容室とか怖くていけない。だから髪は伸ばしっぱなしだ。そして伸ばしっぱなしの髪はお手入れが大変で、結構今までは大雑把だった。このくらいなら良いかなって自分で妥協してた。いうなれば、私は自分を甘やかしてたんだ。なにせ誰も自分の見目に期待なんてしてないって知ってるからね。でも自分の基準なんてのは当てにはできないものだ。
 ようは周囲にどう見えるかの方が大事で……それが私は浅野芽衣から言わせればギリギリ……そうギリギリのラインだったらしい。だから今年からはギリギリから卒業するのだ。確かに顔の形やパーツの配置は整形でもしないとどうにもできない。でも清潔さとか、雰囲気はどうとでもなる――と。汚い……程だとは私は思ってはなかった。流石に不細工だからこそ、そこら辺は人一倍気にしてる。
 でもやっぱりもっと、ちゃんとした方が良いらしい。服装も今まではワンピースに厚手のコートで暗めの色という組み合わせでいってたけど、ちょっと色のある服をいまは来てる。けどピンクとかそんなのは無理だから、無難に白とかだ。マフラーとかを色物にしたりね。心機一転、私は初仕事に赴く。

「声の神に顔はいらない。」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「現代ドラマ」の人気作品

コメント

コメントを書く