声の神に顔はいらない。

ファーストなサイコロ

167 勝負を仕掛ける気持ちがこの世でもっとも純粋であれ

 日差しが一面ガラス張りの面から入ってくる。景色もよく見えるこのホテルの部屋だが、朝日はとても強い。一応カーテンはあるが、なんか薄い。とても肌触りも良くて高級なのはわかる。それに高層階だかといって防犯面に手を抜いてる訳じゃなく、ちゃんと外側からはみえない様にもなってるらしい。
 けどなかなかに日差しを通す。まあおかげで日の光を目一杯浴びて健康的に目覚める事は出来る。気持ちよく目が覚めると、真っ先に顔を洗いにいく。この部屋はスイートで、浴室もトイレも色々な物が二組ずつ用意されてると豪華仕様である。なので、リビングにでも行かないとバッシュ・バレルとかち合うことなく行動できる。
 自分の寝室から自分用のトイレや浴室にいける。直ぐにシャワーを浴びることにするよ。なにせ今日はプラムさんとのデートの日だ。これまでデートでこんなに緊張した事があっただろうか? シャワーに打たれながらそんな事を考える。

(そもそもデート自体何年ぶりだろうか)

 静川秋華がそういうことを狙ってるとわかってる。部屋に上げるとかは許してるし……デートも……とか思ったが、よく考えると流石にそういうことはしてない。あいつと会うのは基本自宅だ。自宅ならデートとは言わないだろう。それなら一体最後にそういうことをやったのはいつだろうか? 大学? 高校? 既に遙か遠いことのようだ。
 そう思うと緊張してきた。きゅっとシャワーを止める。ポタポタと髪の先から垂れて床に落ちる水滴を眺めてた。そしてパンパンと顔を両手でたたく。

「よし!」

 過去の事は振り返ってもしょうが無いことだ。大丈夫……そう言い聞かせる。なにせ昨日、デートのプランは綿密に作った。ラスベガスにも来て一月程度にはなるし、勝手はわかる。恥をかくなんて事もないだろう。あとはデートに相応しいプランだけだったから沢山調べて、そして不本意だが、女のことは俺にきけ!! と自称してるバッシュ・バレルにも一応相談した。

 まああいつが教えてくれたのは主に女性を連れ込む場所だったから役に立たなかったが……今の時代、ネットで探せばおすすめデートスポットなんてのは掃いて捨てる程に出てくる。でもそれをそのままなぞるのは愚の骨頂だろう。
 なにせそれは大多数の女性とのデートをして比較的好意的に受け取られるという、言うなれば広く浅く楽しめる感じだと思う。プラムさんは言っちゃ悪いが、そこらの女性とはひと味違う。普通の場所を巡ってもきっと退屈させるだけだろう。

 だからここは昔から付き合いがあるらしい、ジュエル・ライハルトさんにも連絡を取って色々と情報収集した。もちろん、劇団員、そしてミーシャさんにもだ。そしてわかった事は、プラムさんは驚く程に謎に包まれてると言うこと。
 はっきり言って私生活を知ってる奴皆無だ。でもここで諦めたらきっと自分はこれまで彼女にいいよってきた有象無象の男性達と同じと言う事になるだろう。彼女は役者……女優である。演劇に関する事には興味を持つはず。だけど、それは自分から能動的に動く彼女の唯一の事かもしれないし、それだけで固めてもきっとダメだろう。

 自分はこの日の為に用意した服に袖を通す。自分でお金を出して買った金額では一番の奴を用意した。もちろん金を掛ければいいって事じゃないのはしってる。ブランドを見せびらかすなんて愚の骨頂だ。けど最低限パートナーを下げない礼儀は必要だろう。そして彼女の美貌を考えて、いまある服ではダメだと判断して、急遽買ったんだ。

 はっきりいって全身コーディネートして、高級車買えるくらいだったが後悔はない。

(軽くホテルのビュッフェにいくか)

 お腹を鳴らすなんて失態をできないからな。演技以外の事にどれだけプラムさんが興味あるかはわからないが、誰か他の人と関わるって事は視野を広げる事だと自分はおもってる。何かを与え合える関係がきっと理想。なら、彼女の価値観を広げれる様な場所をデートに組み込もうと考えた。けどそれは賭けでもある。なにせ自分で興奮できる事がその人は全然なんて事はある。
 それがデートでも起きるなんてなると悲惨だ。だが自分には時間が無い。勝負をかけるには無難ではダメだと思った。軽くサラダやパンをお腹にいれて、自分はホテルを後にした。

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