声の神に顔はいらない。

ファーストなサイコロ

155 大きな子供の、大きな夢 12

「おいおい嬢ちゃん、俺達が違法な事をやってるって証明でも出来るのかよ? 俺達は合法的にこいつに金を貸して、そしてこいつがそれを返さないんだぞ? どっちが悪いんだ? 俺達か? そうなったら誰も金なんて貸せないぜ」

 チンピラのくせに案外まともっぽいことを言ってる。そんな言葉に学生達はうぐっと詰まる。そして僕の方をみた。実際はこんなやり方は違法じゃなかろうか? とは思うが、僕が借金をしてる事は事実だ。そしてそれが騙されてした借金であっても、金を貸した側には持ち逃げされたとかはきっと関係ない。

 最初の頃はあの騙した奴とどこかの出資者がグルでこんな事をやったのかも……とか考えたが、それを調べる手段なんて僕にはなかった。誰かが結託してやってたことだったしても、ただの役者である僕にはそんな操作能力なんてものはないんだ。

「しゃ、借金は幾らなんですか?」
「止めときな、子供にどうにかできる……いや、大人だってそうそうどうにか出来る額じゃねーぞ」
「そんなに……」

 うう……子供達の視線が痛い。ダメな大人を見るような目である。いや被害妄想かもしれないけど、借金してる大人なんてそういう目で見られてもおかしくない。彼女達は事情なんてしらないし、ただ借金してる人、しかも多額の……となるとダメな大人だ。

「わかったなら、こんな奴に近付くなって事だ。綺麗さっぱり忘れた方がお前達の為だぜ」

 そんな忠告までもしてくれる借金取り……僕には最悪な奴らでも、それ以外には案外まともなアドバイスしてやがる。確かに僕みたいな奴に未来がある若者が関わるのはよくない。僕にはもう暗い未来しかないんだから……

「わ、私は……私はアナタの事を知ってます! 学生の時に色んな舞台にたって沢山の大会を制覇した事ととか、私はそんなアナタに憧れてこの部を作ったんです! だからこそ、私達の指導者はアナタしか考えられない! 諦めませんから!!」

 気の強そうな巻き髪の子は最後までそう言ってた。そっか……昔の僕を知ってる様な子も居るのか。それじゃあ、悪い事をした。本当はこんな凄い奴になってるって見せなきゃいけなかった。でも……僕は今、こんなんだ。

「ごめん……」

 そういう事しかできない。そして結局、僕は借金取りにつれていかれた。それから州を超えて田舎の方に連れられて港の方にきた。ニューヨークにも港はあるが、どうやらそこでは不味いらしい。自分はコンテナの中にいた。コンテナの中だから窓なんて物はなく、この暗さが憂鬱さに拍車をかける。
 それなりに大きなコンテナだ。周囲には僕と同じような汚い人たちがいる。きっとこの人達も僕と同じように借金を背負って、それが焦げ付いてしまったんだろう。どういう人たちなのか……わざわざ話そうとする人はいなくて、ただ皆が下を向いていた。
 ここに希望なんてない。そしてコンテナが不快な音を立てて開けられる。その時が来た――とここに居た誰もが思った。光の中に誰かが立ってる。そしてこういった。

「この中にジュエル・ライハルトさんがいらっしゃいますよね?」

 それは透き通る様な女性の声だった。こんな場所にいるには不釣り合いな声。ここに集められた人たちは困惑した。なにせここに僕たちを詰め込んだ奴らはヤニと酒の匂いを漂わせた奴らだったからだ。

「もう一度、言います。ジュエル・ライハルト、立ちなさい」
「は、はい!」

 何かとても逆らっちゃいけないようなそんな気がして僕は立ち上がった。

「よろしい、では行きましょう」

 そう言って彼女は背中を向けて歩き出す。その背中に迷いはない。けどこっちは困惑しかない。ついて行っていいのかどうかわからない。でも……行かない選択肢なんてない。だって今や、僕の意思なんてあってないようなものだ。彼女が誰かはわからない。でも、ここにこれるような人なら、確実に僕よりも立場が上。逆らっちゃいけない人だ。
 だから僕は彼女についてコンテナを出た。

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