声の神に顔はいらない。
149 大きな子供の、大きな夢 7
カメラがこっちに向けられる。その大きな目玉が僕には怖い。いつからだろう……そうなったのは? 僕にはそれが自分自身でもわからない。けど何かあったような気はするんだ。それが何だったのか、僕にはもう思い出せない。
ただ忘れ去れる位の思い出なのか、それとも蓋をしてしまってるのか……
(向き合わないと……)
そう思ってる。そしてそれは何度もやってきた。けど心を変える事は難しいんだ。そもそもが僕はそこまで強いわけじゃない。体は大きいが小心者ってずっと言われてた。舞台が絡むと自分でも驚く程に行動的になれるんだけどな。
舞台上ではそれこそ、カメラなんて気にしない。自然とカメラを無視できる。けど、それ以外だと、妙に意識してしまう。この癖が抜けない。ヘタに意識しないようにすると、逆に更に意識する悪循環。たぶん自分の中には既にカメラを苦手だと思う深層心理的な奴が出来てる。
すがれる物にはすがってきた。ミーシャの奴も、色々な方法を僕に試させてきたんだ。それでもこの課題は、問題はどうにも出来なかった。僕は役者なのに、自分さえ騙せないそんなダメな役者なんだ。
「ダメじゃない」
けど、プラムはそう断言する。バッシュ・バレルさんのスタートの音が響く。流れ出す曲と、団員達の動き。そして……自分に向かってくる……筈のプラムはこっちには向かってきてなかった。周囲が困惑する雰囲気が流れてる。けど、バッシュ・バレルさんはカメラを止めようとはしない。
きっとプラムの事を信じてるんだろう。プラムは周囲の団員達を誘う様に手を引き、一緒に歌い、そして踊ってこちらに向かってくる。この場にいた装置でしかなかった面々を役者へと引き上げて、彼女は……いや彼女達は僕の前へときた――
※※※※
借金を背負って半年くらいが経ってた。既に舞台からかなり遠ざかってた僕は、段々とやさぐれていってた。今までは時折飲むくらいしかしてなかったのに、この頃には毎日酒が欠かせない生活へと変わってた。自分がどんどんとダメになっていくのがわかってる。
けど……もう、そんな事はどうでもよくて……明日への希望なんて物を持つことを僕は捨ててたんだ。毎日小銭を稼ぐ日々。アルバイトでは利子しか払えない。てか利子も払えないというのが本音である。逃げても無駄で、このままではいずれ、怖い人たちが僕の臓器とかを売るためにやってくるだろう。
つまりは希望なんて何もない。そう思うと、酒に逃げるしかないじゃないか。汚い服をきて、髭も髪も伸びっぱなしだ。親に頼る事はしなかった。普通の両親だ。この借金を返せる訳がない。ただ心配させるだけ。就職も進学もするわけでもなく、ただ舞台役者になるんだって飛び出した僕を許してくれた両親。
いつか、自分で作った劇団でラスベガスかハリウッドとかで公演して、そこに両親を招待しようとか……そんな事を思ってた。それが恩返しになるんだって。でも……それは本当の夢物語で終わりそうだ。ニューヨークの路地裏で野垂れ死ぬ。
それは別段珍しい事じゃない。自由の国アメリカにはそれこそアメリカンドリームを夢見て色んな国からやってくる人たちがいる。そんな人たちの華やかな成功話は数聞くけど、現実はそうじゃない人たちの方が圧倒的に多い。
そしてそんな人たちは歯牙にもかけられずに消えていく。それこそ世界の……この国の……そして社会の闇へと。自分もそんな一人だっただけ……なんの希望もなく、ただ死を……終わりを待つだけの様な状態だった。そんな僕が無意識に向かったのはこれまた舞台。劇場だ。
勿論入れるわけはない。なにせ僕は沢山の人を騙して金を巻き上げたも同然の奴となってる。出資してくれた中には関わった劇団の人も居たわけでニューヨーク中の劇場から出禁状態だ。でも……音は……声は僅かながらにきこえてる。
僕は目立たぬように、劇場の側面に張り付いてただそこで舞台の空気にふれていた。そして静かに目を閉じた。もう動く気はなかった。
「何やってるのおじさん?」
そんな僕に声を掛けてきた少女。それはまだあどけない顔のハイスクールに通ってた頃のプラムだった。
ただ忘れ去れる位の思い出なのか、それとも蓋をしてしまってるのか……
(向き合わないと……)
そう思ってる。そしてそれは何度もやってきた。けど心を変える事は難しいんだ。そもそもが僕はそこまで強いわけじゃない。体は大きいが小心者ってずっと言われてた。舞台が絡むと自分でも驚く程に行動的になれるんだけどな。
舞台上ではそれこそ、カメラなんて気にしない。自然とカメラを無視できる。けど、それ以外だと、妙に意識してしまう。この癖が抜けない。ヘタに意識しないようにすると、逆に更に意識する悪循環。たぶん自分の中には既にカメラを苦手だと思う深層心理的な奴が出来てる。
すがれる物にはすがってきた。ミーシャの奴も、色々な方法を僕に試させてきたんだ。それでもこの課題は、問題はどうにも出来なかった。僕は役者なのに、自分さえ騙せないそんなダメな役者なんだ。
「ダメじゃない」
けど、プラムはそう断言する。バッシュ・バレルさんのスタートの音が響く。流れ出す曲と、団員達の動き。そして……自分に向かってくる……筈のプラムはこっちには向かってきてなかった。周囲が困惑する雰囲気が流れてる。けど、バッシュ・バレルさんはカメラを止めようとはしない。
きっとプラムの事を信じてるんだろう。プラムは周囲の団員達を誘う様に手を引き、一緒に歌い、そして踊ってこちらに向かってくる。この場にいた装置でしかなかった面々を役者へと引き上げて、彼女は……いや彼女達は僕の前へときた――
※※※※
借金を背負って半年くらいが経ってた。既に舞台からかなり遠ざかってた僕は、段々とやさぐれていってた。今までは時折飲むくらいしかしてなかったのに、この頃には毎日酒が欠かせない生活へと変わってた。自分がどんどんとダメになっていくのがわかってる。
けど……もう、そんな事はどうでもよくて……明日への希望なんて物を持つことを僕は捨ててたんだ。毎日小銭を稼ぐ日々。アルバイトでは利子しか払えない。てか利子も払えないというのが本音である。逃げても無駄で、このままではいずれ、怖い人たちが僕の臓器とかを売るためにやってくるだろう。
つまりは希望なんて何もない。そう思うと、酒に逃げるしかないじゃないか。汚い服をきて、髭も髪も伸びっぱなしだ。親に頼る事はしなかった。普通の両親だ。この借金を返せる訳がない。ただ心配させるだけ。就職も進学もするわけでもなく、ただ舞台役者になるんだって飛び出した僕を許してくれた両親。
いつか、自分で作った劇団でラスベガスかハリウッドとかで公演して、そこに両親を招待しようとか……そんな事を思ってた。それが恩返しになるんだって。でも……それは本当の夢物語で終わりそうだ。ニューヨークの路地裏で野垂れ死ぬ。
それは別段珍しい事じゃない。自由の国アメリカにはそれこそアメリカンドリームを夢見て色んな国からやってくる人たちがいる。そんな人たちの華やかな成功話は数聞くけど、現実はそうじゃない人たちの方が圧倒的に多い。
そしてそんな人たちは歯牙にもかけられずに消えていく。それこそ世界の……この国の……そして社会の闇へと。自分もそんな一人だっただけ……なんの希望もなく、ただ死を……終わりを待つだけの様な状態だった。そんな僕が無意識に向かったのはこれまた舞台。劇場だ。
勿論入れるわけはない。なにせ僕は沢山の人を騙して金を巻き上げたも同然の奴となってる。出資してくれた中には関わった劇団の人も居たわけでニューヨーク中の劇場から出禁状態だ。でも……音は……声は僅かながらにきこえてる。
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