声の神に顔はいらない。

ファーストなサイコロ

140 カットカットカット

「ふざけんてんのか?」
「えっと……そういうわけじゃ……ないん……だよ?」
「なら、次は頼むぞ」
「……」

 ジュエル・ライハルトは何も言わない。そして案の定、やっぱり次もダメだった。他の劇団員達はわかってたかの様な反応でもある。

「どういうこったよこれは?」

 ジュエル・ライハルトは小さくなってしまってる。だからバッシュ・バレルはミーシャ・デッドエンドさんにイライラをぶつけてる。

「すみません。彼はカメラを向けられると緊張してしまうようなのです。それで舞台上では平気なんですが、こういう撮影現場とかではからっきしで」
「舞台でだけでしか演技できないって事か?」
「……端的にいえば?」
「ふっざけんなよ!!」

 まあこれはバッシュ・バレルが正しいとおもう。今時代、CGも進化してるし出来なくはなさそうではあるけど、やっぱりなにか違いがあるんだろう。バッシュ・バレルは受け入れない。それにそんな状態だと映画で使うなんて出来るわけない。ミーシャ・デッドエンドさんが押してきたって事は、きっとこれをどうにかしたいんだろう。そうしないと、ジュエル・ライハルトは舞台俳優でだけしか出来ないからな。

「どうすんだこれ? カメラなしで撮れとかいうなよ?」
「そうですね。催眠術とかも試したんですけどね。ジュエル、どう?」
「ごめん……頑張ってるだけど……」

 体育座りしてるジュエル・ライハルトは小さい。そもそもが頑張ってるのが、既に舞台上では違うのでは? 

「舞台ではどういう気持ちで演じてるんですか?」

 僕は出しゃばるのもどうかと思ってたが、ちょっとで気持ちを持ち直せてくれるんならと、こっちから動いた。まあそれにこの劇団とバッシュ・バレルのコラボも楽しみだからな。

「どうでしょうか……やるぞって気持ち……かな?」
「まあそうでしょうね」

 気合いはやっぱり舞台でも同じでように入れるよね。気合いを入れるって事は緊張だってしてる筈。でも舞台上のジュエル・ライハルトにそこら辺は客からは見えなかった。寧ろ堂々としてたし。

「舞台でもカメラに撮られますよね?」
「ジュエルは舞台上では全然大丈夫なんです。だから普通に宣伝の為にカメラに入って貰ってます」
「そうですか」

 ミーシャ・デッドエンドさんは丁寧にそう言ってくれる。舞台では良くて、他の所ではダメ……やっぱり舞台は特別ってことだろうか?

「催眠術ってのは?」
「催眠術でどこでも舞台とおもえれば、カメラを前にしても緊張しないんじゃないかと思ったんです」

 なるほど、それも納得出来る。けど成果はなかった……と。

「催眠には掛かったのか?」
「いいえ、ジュエルは心のガードが堅いそうです」

 催眠術なら、手っ取り早くどうにか出来そうだったけど、それは無理なようだ。

「ゆっくり成らしてやる時間なんてねえ。今日しかないんだぞ。どうにかしやがれプロだろうが!」
「ひい!?」

 バッシュ・バレルは無茶を言ってるが、でもこれはジュエル・ライハルトも承知で受けたPVなんだ。自分たちの劇団の為でもある。ならプロとして、演技をするのが仕事な訳で……でもやっぱり追いつめられて簡単にできる様になる物でもない。ただただカットを積み重ねる時間が続いてた。

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